秘密の会談
「まずはフィリア嬢を陛下から離すことが重要だろう」
ユージンの執務室で、彼はそう切り出した。
その場に集まったのはユージンとカーライル、宰相にディアナとアランだ。
下手な場所よりもユージンの執務室の方がよほど機密が守られる、そう判断しての場所だった。
「フィリア嬢を離し、陛下の魅了を解呪する。その上で公爵会を開いてオルランド公の罪を問うのが一番早い」
「臨時の公爵会はその前に?」
宰相からの確認にユージンが頷く。
「先に他の三公爵の考えをまとめておいた方がいいだろう。彼らはそれぞれいつ頃帝都に戻ってくる予定だ?」
「一週間以内には全員そろうかと」
ユージンの問いにカーライルが答えた。
「わかった。三人がそろい次第臨時の公爵会を開く」
今後の進め方に関して誰も否は唱えない。
しかしディアナには気がかりなことがあった。
「フィリア様を陛下から離すということですが、具体的にはどのようにされるのでしょう? 陛下の様子を見る限り簡単ではないと思いますが」
魅了が進んだのかもしくはさらに強く術をかけたのか、最近のイーサンは常にフィリアをそばから離さない。
今の状態でフィリアだけをどこかに呼び出すことは難しいのではないかと思われた。
「そうだな……」
呟いて、ユージンがつかの間思案する。
「ディアナ嬢、お茶会を開いていただくことは可能だろうか?」
常日頃ディアナに対しては丁寧な言葉遣いのユージンも、ここにきてだいぶ話し方が砕けてきている。
カーライルや宰相に対してと同じような話し方になってしまうのはこの場では自然のことだった。
(むしろこちらの話し方の方がしっくりくるわ)
そう思いながら、ディアナはユージンの質問に是と答える。
「もちろん可能です。以前フィリア様にはお茶会に誘われていますし、こちらからお声かけするのも問題はないかと」
「ではフィリア嬢を呼び出す件に関してはディアナ嬢にお願いする」
「ことがことですのでお茶会には他のご令嬢は招待せずに、陛下をお支えする婚約者と寵姫の親睦を深めるためという名目でご招待することにしますわ」
ディアナの提案にユージンが頷いた。
「その場で身柄を拘束できるように手配しておこう」
「では裁判所に令状を発行するよう依頼しておきます」
ユージンの意を汲みカーライルが答える。
「今回の件は内密に進めることが重要だ。令状発行には必ず裁判長の決裁が必要。後で裁判長には私から直々に話をつけておく」
「裁判長からこの件が外部に漏れる心配はないのでしょうか?」
秘密は知る者が増えれば増えるほど漏れるものだ。
「裁判は人の人生を左右するもの。その最終責任を取る裁判長は重要な責務に相応しい者が選ばれている。私が知る限り、今の裁判長ほど正しきことに殉じる者もいないだろう」
「そうですか。愚問を申し上げましたわ」
ディアナの返答にユージンが小さく笑う。
「ディアナ嬢の不安も最もだろう。心配しなくとも今回の件に関しては慎重に動くつもりだ。裁判長は本来守秘義務を負う立場であるが、さらに誓約書も追加しておくとしよう」
小さな不安さえもこぼすことなくすくい上げてくれる。
その様を見る限り、ユージンは君主にふさわしいと思えた。
「ところで、フィリア嬢を陛下から離し魅了を解呪することができたとして、その後はどうされますか?」
宰相の言葉にその場に沈黙が落ちた。
「まずは陛下がどのような状態にあるかが重要だろう。解呪されたとしても魅了の影響下にあったことがどう出るのか誰もわからない。それに……」
いったん言葉を切って、躊躇いながらもユージンは続けた。
「帝国法において、一度でも精神侵害を受けた者は帝位を継ぐ、もしくは維持することはできないと定められている」
帝国法自体はかなり昔に定められたものではあるが、改変されながら今も帝国の基盤となっている。
制定された頃は呪術や魔術が横行していた時代でもあり、そのせいもあって定められた項目なのだろう。
「つまり、陛下は帝位を失われる、ということでしょうか?」
慎重に問いかけられた宰相の言葉がその場に落ちる。
「……まずはフィリア嬢の拘束、そしてオルランド公の罪を暴いてからだ」
ユージンは明確な答えを返さなかった。
いや、もしかすると返せなかったのかもしれない。
イーサンが帝位を退くということは、その後を継承順位一位であるユージンが継ぐことになる。
そのことをユージンもまだ考えられないのかもしれなかった。
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