令嬢の秘密
ユエラン国は国王が統治する国である。
複数の部族から成るウィクトル帝国とは国の成り立ちからして違う。
そのユエラン国において、特殊な能力を有する一族がいくつか存在した。
「精神に作用するいかなるものも効かない一族……?」
二枚目の書類に記載されていたのは、フィリアが生を受けた男爵家に関わる内容だった。
「そもそもユエラン国にはいまだに呪具などの特殊な力のある物が流通しています」
それはウィクトル帝国には無い物だ。
「物があり利用価値があれば使う人間は必ずいる」
そしてそういった意味合いの物はたいていあまり大っぴらに使える物ではないのだろう。
「今回の『魅了の香り』はマレフィクス卿が調合した香水。呪具のような物とは違うのでは?」
「『魅了の香り』は製法が特殊のようですね。そして効力が強い」
効力が強いということはそれだけ人に影響しやすいということだ。
「元々『魅了の香り』が使われることは今までもあまりなかったようです」
「理由は?」
「効力が強い分、取り扱いを誤ると魅了しようとした側の精神にも影響が出るからです」
ミイラ取りがミイラになるようなものだろうか。
「操ろうとした側が逆に相手の虜になってしまったり、明らかに精神的におかしくなってしまったりしたようですね」
「それは……たしかに危険ね」
「そういったこともあり、利用されることは少なかった」
しかし魅了の力に抵抗力のある者がいるのであれば話は変わってくるのだろう。
「オルランド公は魅了の力に抵抗でき、さらには操ることができる者を必要としていた」
「そこで選ばれたのがフィリア様ということね」
「その一族の中で陛下の寵姫として年齢が釣り合う女性が彼女しかいなかったようです」
今回イーサンの元に送り込むための女性に一番求められる能力が魅了の力への抵抗力。
そのためには多少の無教養さには目をつぶったということだろう。
いずれにせよ陛下の目にさえ留まればどうとでもなるのだから。
この帝国内において余程のことがない限り陛下の寵姫に物申すことは難しい。
そのことをオルランド公はよく理解していたに違いない。
「それにしても、オルランド公はフィリア様を使って陛下を魅了することで何を企んでいるのかしら?」
「陛下を意のままにすることはできますよね」
「仮に陛下の寵姫になったとしても、フィリア様には何の権利も発生しないわ。それは子どもが産まれたとしても変わらない」
ウィクトル帝国では皇帝と皇后の間に産まれた子にしか帝位継承権は与えられないのだから。
(ただそばにいて魅了し続けるだけで得られるもの……)
「たしかに。しかもオルランド公は他国から皇后を娶るという提案に同意しています」
「そうね」
(仮に皇后が他にいたとしても、皇帝が寵姫の言うことだけを聞いていれば皇后の立場はない)
だとするならば。
目的はただ一つ。
「乗っ取り……かしらね」
「……穏やかではありませんね」
他の公爵と足並みをそろえて他国から皇后を娶る案には賛成する。
そして政治や国の運営に関わることは皇后に担わせ、その裏で皇帝の意思を握ってしまえばいい。
(フィリア様に皇后としての素養はないわ。であれば陛下が望むように高位貴族の養女にして彼女を皇后として立たせるよりも、私を皇后とした今の状況の方が都合が良いのでしょう)
現に今ディアナとイーサンの間にはほとんどコミュニケーションはない。
つまり名目上の婚約者でしかなくなっている状況だ。
そして今後ディアナとイーサンの間に帝位を継ぐ子が産まれたとしても、その子を取り上げて自分たちの都合の良いように育てることも可能だろう。
帝国では皇子も皇女も皇后ではなく乳母が育てるのが一般的だからだ。
そしてジワジワと権力を手に入れていけばいい。
そうすれば気づいた頃にはイーサンは傀儡の皇帝となり、オルランドは実質上の皇帝となれる。
(その頃には何か理由をつけて私を排除することも可能でしょうし。離縁させるだけならまだしも、冤罪で処罰することだってできるだろう)
「計画は何年も前から練られていたはずよ」
そう。
それこそオルランドがフィリアに目をつけた頃には。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録や評価などしていただけるととても励みになります。
よろしくお願いします。




