情報の共有
「お二人を疑うような発言をしてしまい申し訳ありません」
ディアナとアランの関係に得心がいったのか、ユージンが言う。
「いえ。そもそもは疑いを抱かれると思っていなかった私のせいですので」
「そう言っていただけると気持ち的には楽になりますが……」
「誤解は解けたわけですし、この話はここまでで」
そう告げてディアナはカップを手に取ると紅茶を飲んで一息入れた。
そもそもの本題はこれからである。
「ところで、急いでこちらにみえた理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ……そうですね」
ユージンの言葉に背後からカーライルが数枚の書類を差し出す。
「以前お話ししました呪具の件ですが……マレフィクス卿からこのような書類を手に入れました」
「拝見しても?」
一言断ってディアナは書類に目を通す。
呪具がどのようにして帝国内に持ち込まれたのか、書類を見れば一目瞭然だった。
「そうですか……オルランド公が……」
ディアナとしてはそれもまた予想通りではあったが、苦々しい気持ちを感じるのはしかたないだろう。
「こちらもマレフィクス卿が関与しているということですね」
「こちらも、というと?」
ユージンの疑問にディアナは簡潔に答える。
「香水の件も同様ということです」
「マレフィクス卿とはすでに接触を?」
「ええ。彼の所有する香水店へ行ってまいりました」
「それは……危険だったのでは?」
ディアナを心配したのかユージンの眉間に皺が寄った。
「アランを伴って行きましたし、卿の性格を考えてもその場で何か起こるとは思いませんでしたので大丈夫でしたわ」
ディアナの返答に対して納得はしていないのだろうが、それ以上口を出すことはなくユージンは続きを促す。
「例の香水、あれは魅了の香りだそうです」
「魅了の!?」
ユージンも魅了の力に関してはよく知っている。
王族は得てして野心を持つものから狙われやすいこともあり、危険なものは一通り習うからだ。
「しかし、陛下もそういった類のものは警戒しているはずだが……。それにそもそも帝国内において精神に作用するものは禁止されている」
「帝国内では、でしょう?」
「つまり、それもまたユエラン国で売買された物ということか」
ディアナの返答にユージンは右手で顔を覆うとため息をついた。
「やり方としては呪具と同じですわ」
「その情報がマレフィクス卿からもたらされたということは、そちらも取り引きを主導したのは卿ということですね」
「取り引きどころか、そもそもご本人が香水を調合しています」
「マレフィクス卿が?」
やはり王弟という立場にある者が手ずから調合したというのは驚きの事実なのだろう。
「魅了の香りを依頼されて調合し、ユエラン国内で売買しています。合法のためウィクトル帝国側が卿を罪に問うのは難しいでしょうね」
「……ユエラン国との間で何らかの法を整備する必要がありますね」
今まで国同士のつき合いが少なかったこともあり特別な契約は結んでいない。
しかし今回のことを考えると何かしらの縛りを設けなければならないだろう。
「マレフィクス卿には魅了の香りを解くための香水と、依頼者が誰なのか、その契約内容を教えていただくことになりましたわ」
「当然、卿は何かしらの見返りを求めたでしょう?」
「それは帝国側には特に関係のないものでしたので」
サラッとそう言って、ディアナはマレフィクスとの間に交わした約束の内容を伏せた。
「ウィクトル帝国皇帝に関わることです。見返りの内容も教えていただきたいのですが?」
ユージンは重ねて問うたが、ディアナは微笑みを浮かべるだけで答えない。
「……」
「……」
しばしその場を沈黙が支配した。
ユージンはディアナを見つめ、ディアナはユージンを微笑みながら見返したまま。
そして先に根負けしたのはユージンだった。
もしかするとユージンが意見を譲ったのはディアナの性格を正しく理解していたからなのかもしれない。
今ここで問いつめたとしても、ディアナが決して答えないのを見越しているかのように。
「……いいでしょう。その件はまた」
諦めたわけではないと示しながらもユージンはいったん引く。
「その件についてマレフィクス卿から連絡が来次第、情報を共有していただけると思っても?」
「もちろんですわ」
香水の件について今後行動に移すにはユージンの力が必ず必要になることをディアナもわかっていた。
「そこはよろしくお願いします」
ユージンに念押すように言われてディアナも頷く。
そして二人の情報のすり合わせはひとまず終了となったのだった。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録や評価などしていただけるととても励みになります。
よろしくお願いします。




