女神の愛し子
『女神の愛し子』
それは女神から過ぎるほどの愛情を注がれる存在。
フォルトゥーナの王族にのみ許された呼称。
しかし誰もが羨む女神の愛は、神託の実行者に対して向けられることは決してない。
予想外の質問にざわつく鼓動を感じながら、ディアナはユージンにどこまで打ち明けようかと迷う。
ディアナの事情をすべてユージンに伝える必要はもちろん無いのだが、先ほどと同じように何もかもを打ち明けてしまいたい衝動に駆られている。
「その本は、かつてフォルトゥーナから我が国に嫁いできた皇后のものですね」
ディアナの抱える本に目をやるとユージンがそう言った。
「後にも先にも、我が国とフォルトゥーナの王族との間に縁ができたのはその時だけです。それ以降、今回ディアナ嬢がいらっしゃるまで両国で婚姻が結ばれたことはない……」
そこまで口にしたところでユージンも気づいたのだろう。
『女神の愛し子は決して国から出されることはない』
誰もがそう信じている事実に矛盾があるということを。
「そもそもかつての皇后は、なぜ国を出ることができたのでしょう?」
ディアナに直接関係することでなければ答えやすいのではないか。
そう思ったのか、はたまたただの好奇心だったのか。
ユージンの問いかけに、ディアナは覚悟を決めた。
「かつての皇后陛下は、帝国内で派閥の争いが起こり国外から皇后を迎える必要があったために請われて帝国へ嫁いだと聞いています」
「ああ……たしかに史実としてもそう残っていますね」
ユージンの言葉を聞きながら、ディアナは無意識に本の表紙を撫でる。
「当時の派閥争いは激しく、帝国内のどの家から皇后を迎えたとしても揉め事は終わらないだろうと言われていたとか」
仮に帝国内のどこかの家から皇后を立てたとしても、すぐに反対勢力の家に狙われる。
それを繰り返せば国としてはどんどん衰退していくしかない。
「元々は皇帝が皇后と皇妃を娶り、それぞれの妃の家門が争いを始めて起こった騒乱だったはずです。以降帝国は皇妃制度を廃止し、皇帝は皇后ただ一人を迎えることになった」
そして帝位継承権は皇帝と皇后の間に産まれた者のみに与えられるようになる。
(幸いにしてその時から今まで、帝位継承者がいなくて困ることもなかったのよね)
「その派閥争いの際に多くの者の命が失われたと聞きますわ」
「そうです。他国との戦争でもなく国内の争いで多くの者を失った。それは帝室として恥ずべき歴史でしょう」
「それを女神ルナリアは憂いたのです」
そこまで言うとディアナは本に落としていた視線を上げた。
「だから、フォルトゥーナの三番目の王女だったかつての皇后は、女神の神託によってウィクトル帝国へと嫁いだ」
「王族であるにもかかわらずですか?」
結局ユージンとしてはここで最初の疑問に立ち返ることになる。
「王女は間違いなくフォルトゥーナの王族でした。ただ……」
この続きを言えば、きっとユージンは察するのだろう。
なぜ、かつて皇后となったフォルトゥーナの王女が国外に出ることができたのか。
そしてその王女と同様、なぜディアナは今回ウィクトル帝国に来れたのか。
「女神の愛し子の証明ともいえる直系王族の血が、彼女には流れていなかったのです」
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