皇弟と神託
ディアナからフォルトゥーナの王族が受け取った神託について聞き、ユージンは自身の持つ情報と合わせながらあらゆる可能性を考えた。
「つまりディアナ嬢は、フィリア嬢とユエラン国のユグノル・マレフィクス卿が鍵を握っていると、そうおっしゃるわけですね」
「そうですわ」
「私は女神の神託について詳しく知らないのですが、神託というのはあまり具体的なものではないのですか? 人に何かをやらせるのであればもっとわかりやすい内容で伝えてくれればいいのではと思うのですが」
そう思うのはユージンが今まで神託とは無縁の生活をしてきたからだろうか。
「それは……たしかにそうですわね」
言われて初めて気づいたとばかりにディアナが驚いた顔をする。
実年齢よりも幼く見える容姿をしながらまとう雰囲気は成熟した女性。
そんなアンバランスなディアナの年相応な顔を初めて見た気がした。
「フォルトゥーナでは当たり前のことでしたから」
「先ほどのお話では、神託は最初にフォルトゥーナ国王の第一子が受け取り、その後は指名された者しか知ることができないということでしたよね?」
「ええ」
「その内容を多くの者たちと共有することはできないのでしょうか?」
「それは……」
ユージンの問いにディアナが言葉につまる。
(それも考えたことがなかった感じだな)
ディアナの様子を見てユージンは察した。
世界の秩序を守るために行動を起こすというのは危険を伴うことも想像できる。
そんな大変なことをたった一人の女性に負わせる女神の神託は本当にありがたいものなのか。
ふと、そんな疑問が頭をかすめた。
(こんな不届きなことを考える自分は女神の怒りを買ってしまいそうだな)
そうは思ったものの素直な気持ちを否定することもできない。
「神託を実行するために必要ならば協力者に情報を共有することもありますわ。ただ、共有相手はできる限り少ない人数で、というのは暗黙の了解であると思います」
(つまり今回その内容を打ち明けてくれたということは、ディアナ嬢は私を協力者として望んだということ)
「ディアナ嬢に必要な相手と思っていただけたとは、光栄です」
半ばからかうようにそう言ったらディアナの頬がうっすらと染まった。
(望まれない皇后とわかっていてウィクトル帝国に来たことを思えば、今までディアナ嬢がこちらに心を開いてこなかったことも頷ける)
これまでのイメージを覆すような反応を見てユージンはそう思った。
(まだ成人前の十七歳。今の反応こそが彼女の素なのだろう)
「いずれにせよ神託の内容を教えていただけたことはありがたい」
現状を打破するためにも情報はあればあるほどいいのだから。
「ところでもう一つ質問があるのですが、よろしいですか?」
「何でしょう?」
女神ルナリアとフォルトゥーナの王族、そして神託の関係を聞いて一つ思い出したことがあった。
「フォルトゥーナの王族は決して他国と縁を結ぶことはない。滞在していた時にそう聞いきました」
そうだ。
それはフォルトゥーナでは当たり前に認識されていること。
王族は必ず自国の者と婚姻を結ぶ。
貴族だけでなく市民でさえそう思っていた。
「であれば今回ディアナ嬢に我が国へ来ていただけたのはなぜなのでしょう?」
「……神託があったからですわ」
「たとえどんなことがあろうとも、女神は愛し子を手放さない、そうも聞きましたが」
人々は口々に言っていた。
『女神の情はとても強い。だから、彼女から愛し子を奪うことは決して許されない』
もちろん、神託自体がそもそも女神が告げるものなのだから矛盾しているといえる。
しかし相手は神様。
道理など関係ないだろう。
ユージンにしてみればいくら考えても理屈が通らなかった。
女神はたとえ神託の実行に必要だったとしても決して愛し子を国から出さない。
しかしディアナは国を越えてやってきた。
相反する二つの事実が示すものは何なのか。
「…………」
いつもであれば何事も明確に答えるディアナが、発する言葉を持たずに沈黙する。
彼女の細い手が腕に抱えていた本の端をギュッと握りしめた。
力が込められているのか握りしめている指先が白い。
自分の言葉の何がディアナを追い詰めているのだろうか。
思ってもみない反応を返されてユージンは困惑した。
しかし思いつめたような顔をみれば、ユージンの質問がディアナにとって聞かれたくないものだったということはわかった。
容易に明かせない何かが、そこにあるのだろう。
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