王女の決断
「女神の神託、ですか?」
「ええ」
ディアナの問いかけにユージンは顎に手をやると思案げな顔をする。
知っているのか知らないのか、答えは二つに一つだというのに何を悩む必要があるというのか。
「フォルトゥーナの王族が女神の神託を受け取ることがある、というのは聞いたことがあります」
「祖国以外ではあまり知られていないと思いますがよくご存知ですね」
自分で質問しておきながら予想外の答えが返ってきてディアナは少し驚いた。
「実は……これはあまり公表していないのですが、私が外遊に出ていた二年間の内、最初の一年はエスペランサ王国に、次の一年はフォルトゥーナ国に滞在していたのですよ」
「フォルトゥーナにですか!?」
(ウィクトル帝国の皇弟が来国していただなんて聞いたことがないわ)
驚きに目を見開くディアナを見てユージンが軽く笑う。
「王室を通さずに滞在していたのでご存知ないのは当然かと。皇弟としてではなく一市民のように生活していましたが、その時に女神の神託のことは耳にしました」
「陛下はよくお許しになりましたね」
「むしろ陛下の命令でしたから」
(皇帝が、実の弟であり皇位継承権を持つ者を一市民として他国に行かせるなんて……考えられないわ)
「大変なこともありましたが良い経験になりましたよ」
ユージンは何でもないことのように言った。
「そういった経緯もあって見聞きしていましたし、ウィクトル帝国の誰よりも知っていると思います」
「では、神託が下されるのがどういう時かも?」
「そうですね……女神の庇護下にあるこのルグナシア大陸で、国々の平穏を壊し世界の秩序を乱す存在が現れた時、女神はそれを正すための遣いを送る、と」
ユージンの知る女神の神託の意義は正しい。
「そう……ですか」
ディアナは自分でも相手にどういった返答を求めていたのかわからなかった。
ただ、ユージンが神託に関して正しい認識を持っていたことに安堵したのはたしかだ。
(時間に余裕があるのなら私だけでもう少し調べてみるべきなのでしょうけれど……)
夢に見たフィリアとユエラン国の男、そしてイーサンと四大公爵。
さらには公爵領で起こっている異変。
すべてを合わせて考えると自分にはあまり時間が残されていないのではないかと思えた。
今この時も、何かが進行している。
ディアナにとって真に信頼できる相手は今のところアランにリリとルラだけ。
公爵たちも専属護衛のヒューゴとガルトも、ある程度信じてはいても事情を話して協力を仰ぐのは難しかった。
もちろん、ユージンのことだって手放しに信頼しているわけではない。
ただ、彼はウィクトル帝国の皇族として国を守る心を持っている。
ならばそこに懸けるしかないのだろう。
「そこまでご存知なのであれば、お伝えしたいことがありますわ」
「伝えたいことですか?」
「ええ」
「それは、女神の神託と関係のある話だと?」
ディアナを見つめるユージンの瞳が厳しさを増した。
「そうですわ」
「神託は国を正すためのものだ。ディアナ嬢の言葉を信じるのであれば、国の存亡に関わるようなことが起こっているととらえるが、そういうことだろうか?」
終始丁寧だったユージンの言葉遣いがわずかに乱れる。
「そう思っていただいてけっこうです」
ディアナはユージンの目を真っ直ぐに見て言った。
「ならば、教えていただこう」
ユージンの言葉に、ディアナはその口を開いた。
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