影の国
「なんですって?」
舞踏会の翌日。
応接間のテーブルの上に書類を広げていたディアナはアランの報告に顔を上げた。
(執務室が欲しいくらいだけど、ウィクトル帝国では女性は政務にたずさわれないのよね)
ウィクトル帝国で女性は基本的に家を守る存在だ。
家同士のつながりを保つために結婚し、家を繁栄させるために子どもを産み育てる。
それ以外の時間は家の内向きのことをこなしながら他の家とのコミュニケーションや情報収集のために社交をし、そこで得たものを家に持ち帰る。
そうやって日々を過ごすのが女性の役割だった。
「あの指輪をしていた者を見つけました」
アランが言うのは以前ディアナが先視で見た人物のこと。
夢の中でフィリアに何かの瓶を手渡していた手の持ち主だ。
「あれからどれだけ探しても見つからなかった者が見つかったというの?」
「ええ。昨日の舞踏会で」
今回のお披露目会で、ディアナはアランとリリとルラを帯同する許可を得ていた。
幸にしてユージンを筆頭に何人もの人がディアナのそばにいてくれたので、ならばとディアナは彼らに情報収集の任務を与えていたのだ。
「いったい何者なのかしら?」
「調べた限りでは、ユエラン国の者かと」
「ユエランというと、あの?」
ユエラン国はルグナシア大陸の隣の大陸に位置する国だ。
ウィクトル帝国の東の公爵領とは海を挟んで向かい側になる。
大陸が変われば考えが変わるというように、異なる宗教を支持していることもあり今までウィクトル帝国とのつき合いは限定的だった。
ただ、ユエランは薬の生成に長けていて薬品や薬などの取引は行われている。
そしてその取引を牽引しているのが東のオルランド家だ。
「ユエランの技術は優れていますから、最近では人材の交流を進めてその技術を取り込んでいきたいという考えもあるようですね」
「そう。であればウィクトル帝国にユエラン人がいてもおかしくはないということね」
「その者を案内していたのがオルランド公なので、東の公爵家とは継続的なつき合いがあるのだと思われます」
ウィクトル帝国とのつき合いはさておき、ユエランはフォルトゥーナとは相容れない国だ。
その一番の理由は信仰する宗教にある。
ルグナシア大陸の国々が女神ルナリアを信仰するのに対し、ユエランはトゥレラ教という宗教を信仰している
そしてその二つの宗教は光のルナリアと影のトゥレラと言われていた。
ルナリアは癒しや実りの大地を与え、トゥレラは心の安寧や人間の叡智を司る。
ルナリアが体や自然、大地に関わるのに対して、トゥレラは人の心に関わると言われる所以だ。
「そのユエラン国の者があの指輪をしていた、ということかしら?」
「そうです」
そう言って報告を締めくくったアランに続いてリリが話始める。
「東の公爵領出身で帝都に定住している者たちに話を聞きました」
リリとルラもまた、昨日は侍女の装いではなく一貴族として舞踏会に参加していた。
「彼らは帝都に定住してはいるものの親類が東の公爵領に残っている者も多く、今も定期的にやり取りがあるようなのですが……」
「ユエラン国の客人は現在オルランド家のカントリーハウスに滞在しているようです」
リリの言葉を引き取りルラが続ける。
「いつから滞在しているかは?」
「少なくとも、半年以上は前からだと」
「そんなに長い間他国の者を滞在させることがあるのかしら?」
「事業の提携や仕事の関係があればあり得ますね」
リリとルラの報告にアランが口を挟んだ。
他国と交流があるのはおかしなことではない。
それぞれの公爵領特有のつき合いもあるだろう。
それでも、オルランドとユエランの繋がりは気になるところだ。
(心の安寧を司る、トゥレラ)
ディアナは胸騒ぎがするのを止めることができなかった
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