召喚された聖女はこの世界の平民ですが?家に帰らせていただきます!
「やりました! 異世界からの聖女召喚に成功いたしました!」
「伝承では、黒髪黒目の聖女のはずですが……」
森で採集をしていたら突然、目の前が明るくなって違う場所に転移していた。何かの転移魔法に巻き込まれたのかなと思ったら、ここは絶対に成人の儀を済ませた神殿に違いない。
確か、父さまが“百五十年前に聖女召喚が行われて以来、各国で協定を結び、聖女召喚を禁じている”って言っていたわ。私の父さまは商人だから、いろんな情報に詳しいの。
各国との協定を破り、百五十年前と同じ方法で聖女召喚を行ったのね。百五十年の年月が経っているのだから召喚の方法が変わるとは、仮定せずに。
確かに私は平民にしては珍しく、聖女の力を有しているわ。でも、教会にも見過ごされるほどの弱小聖力。そんな私がこの場で生き残る方法は、異世界から召喚された聖女になりきることね。しばらく大人しく過ごして油断させたら、家に帰りましょう。
「……こ、ここは……どこですか?」
できる限り庇護欲を誘うように上目遣いで涙目で周りを見渡した。って、あそこにいるのは第三王子じゃない? 王家も関わっているなら、抜け出すのは大変ね。でもいいわ、抜け出したら父さまにお願いして染髪をして隣国に逃亡しましょう。爺さまが隣国で商会を開いているもの。養子になるの。
「聖女殿。ようこそお越しくださいました。ここは、異世界です」
「いせ……かい? わ、わたし、聖女なんかじゃありません!」
確か、聖女様の世界には聖女なんてものも魔法もなかったって聞いたわ。遠くで伝達魔法を使う神官を見て驚いた表情も浮かべておいたわ。服装がこの世界のものなところが痛いわね……。
「こ、この……ふ、服は確かにそう見えるかもしれませんが、こすぷれ用の衣装なのです。普段はこんな格好していません!」
異世界では、こすぷれとかいうイベントがあるって聖女様の記録に残っているわ。父さまがなんとか異世界をカフェで再現できないかと集めた資料が役に立つわ。
「聖女様。あなたには、聖女としての力があるはずです。さぁ、こちらに手をかざしてください」
聖力判定用の聖具ね。確か、私の素の力では、一目盛も光らなかったけど……これだけ聖魔法の力が溢れた儀式の場にいるんだもの。周囲の聖力を集めれば……!
「「「おおおおおお! さすが聖女様!」」」
「な、なんなんですか、これ」
全ての目盛を光らせることくらい、余裕よ!
「聖女様、素晴らしいお力だ!」
「わ、私にそんな力が……?」
ふふん、仮初の聖力だけどね!
「さぁさ、聖女様のお部屋にご案内します。そして、こちらにいらっしゃるのは、我が国の第三王子サリアート様です。よろしければ、ご挨拶を」
「は、はじめまして……」
「聖女様。お初にお目にかかります。さぁ、僕の手を取ってください。お部屋までご一緒します」
困ったように笑って、エスコートのされ方を習います。聖女が最初からこの世界のマナーを全てできるわけありません。挨拶だって、あえて拙くしました。
「サリアート様……とお呼びしていいのかしら? サリアート様はお優しいお方なのですね!」
権力者たちの思惑に乗ったように、恋する乙女の表情を浮かべ、第三王子殿下を見つめます。
残念そうに別れを告げ、部屋に入り大人しく過ごしました。
「聖女様。今日は、街をご案内いたしましょう」
「ありがとうございます。まだこの聖女の服に慣れておりません。慣れない場所に行くのならば、召喚された時の服を着たいですわ」
聖女召喚の儀のやり方は、目を盗んで一部書き直しました。これで私が消えてもきっと何も召喚できないでしょう。さぁ、早く街に向かいましょう。
「聖女様、こちらへ」
「ごめんなさい!」
人混みに混じり、護衛と少し距離が開いた瞬間、案内役を思いっきり突き飛ばします。この街は私のホームです。裏道を駆け抜け、護衛を巻き、無事家に辿り着きました。
「聖女様ー!」
叫び声を尻目に、母さまに挨拶します。
「ただいま戻りました。母さま」
「あら、どこに行っていたの? 心配したのよ!」
「父さまと話し合う事項がございます。迅速に爺さまの養子としてください」
慌てて帰宅した父さまに全てを打ち明け、平民の間で流行っている染髪を終え、髪も短く切り揃えます。そして、従者の格好をして父さまと隣国へと向かいました。
「聖女様はいたか!?」
「見つかりません!」
私の姿を追い求める護衛たちを横目に。