9.光の魔術師(2)
9.光の魔術師(2)
墓穴だ。
「お前、さては騎士ではないな?」
テ・ロル=テ・ロルがユズルハズルの首を片手で掴んだ。
「光の盟主さま」
「お前は黙っていろ」
ファロンが指を開いて、横に五本線を宙に描いた。
「放してください」
親指を閉じた。
「発動させたら、その瞬間お前ごとこの女も死ぬぞ」
テ・ロル=テ・ロルが手のひらを向けた。
「あなたも無事ではないでしょう? それに情報があります」
「先に言え。考えてやってもいい」
「勇者は二人です」
「……」
目を細めたテ・ロル=テ・ロルが、右手で掴んでいたユズルハズルの首を放した。
ファロンが、ゲホゲホゼイゼイ言っているユズルハズルの背を撫でてやった。
「勇者が二人? 謀ったか」
「一人は十七八の少年です。もう一人は二十代半ばのスーツの男性です」
「スーツ?」
「この服です。色はダークブルーかチャコールグレイだったかと」
「どっちだ? どちらが魔法を使う? 両方か?」
「スーツのほうです。スーツは少年を守るために、狼人のミンダフとアコースの首の骨を折りました。ユズルハズルの魔法剣で胸を斬られて呪われていたのに『魔術』という言葉を聞いて、呪術を使いました。化物です」
「アコースはともかく、あのミンダフを殺したのか……人間なのか?」
「たぶん……そう……です。……それも……召喚……召喚中に魔法を使いました。半分は返っていますから、これと同じように胸に星印があるでしょう」
「いや、違う。――解呪しているとみたほうがよろしいかと」
ユズルハズルの言葉を否定したあと、ファロンがテ・ロル=テ・ロルに状況を説明した。
「私もその案だな。厄介事を……ん? お前、空間魔術は中級だろう。どうやってあの空間に入った?」
初級は物しか入れることができないが、中級になると生物も入れることができるが、上級の空間魔術でないと自分自身が入れない。正しくは「入っても出られない」だが。
「……」
「ユズルハズル。ぜんぶ話したほうがいい。聞いてくれているうちに。自分から話すまで拷問されるよりマシだ」
「そんな品のないことを私はしない。光の魔術で記憶を見るだけのことだ。嘘を言えばすぐに分かる」
「便利ですね」
「騙されたい時もあるんだがな……」
やや感傷的になったのをファロンが見逃さなかった。
「卿に、年ごろのお嬢さんはいませんか?」
「……なるほど窓の桟で潰された羽虫か」
テ・ロル=テ・ロルがファロンの目を見た。記憶を読んだらしい。
「どうして嘘が分かるのに、ユズルハズルが騎士ではないと分からなかったのですか?」
「ああ、簡単だ。嘘だと自覚していない。本当に自分が騎士だと信じている以上、見抜けない」
本当を並べると、嘘が見えなくなるのだろう。
「父の命で、王国の勇者を討つはずだったのですが二人いたため、取り逃がしました。こちらのファロンは、空間魔術を展開するときに挟んだようです。結果的に、私はこの男に助けられました」
「勇者の名前は?」
「コウヅキとカササギです。当初は少年のコウヅキだけの予定でした」
「その名前はどこから?」
「知りません。父が受けた仕事ですから」
「父は暗殺されたか?」
「はい。この後、復讐する予定です」
「よくミンダフが了承したな?」
「父が亡くなったあと、依頼主から派遣されたそうです」
「……空間魔術は?」
「申し訳ありません。巻き物を使いました。署名は空間の上級――」
「――待て。言うな。思い浮かべるだけでいい。……なるほど」
一指で光の矢を飛ばすと、ユズルハズルの額を撃った。
「イタ!」
小さな火傷が残った。
「痕は残らない。冷やしておけ。もう一度その名前を言え」
「空間の上級魔術師……? え? 巻き物の署名は――」
「イタ!」
もう一矢撃たれた。
「よかったな。頭が消えているところだぞ」
「どうして生かしておくのですか?」
「研究だ。カササギが敵になった時のために必要だからな。お前たち二人、ちょっと付き合ってもらおうか」
(やっぱり……)
ファロンが予想した通りの展開だった。