表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界兵站株式会社II  作者: 門松一里
第1章 魔術騎士ユズルハズル
7/11

7.魔術騎士ユズルハズル(4)

7.魔術騎士ユズルハズル(4)


 魔術騎士ユズルハズルの供述によると、狼人ライカンスロープミンダフとアコース二名に襲われたので斬り捨てたとのことだった。その際、アコースの獣人魔法によって従者ファロンが操られ、ユズルハズルをナイフで攻撃したので右手首を止むを得ず斬り落としたとされる。


 前提条件として、帝国の法律では狼人ライカンスロープを含むすべての獣人は「人ではない」ので、物を壊したていどの罰しかない。


 逆にここ王国では、二級扱いだが市民権があった。とはいえ、旅行中の他国の魔法騎士とその従者を、王国の民が襲ったとなれば大問題だった。


 聖女に依頼すれば従者ファロンの右手を治癒することもできたが、魔法騎士ユズルハズルが魔法剣の秘密を知られると困るとの言によって、手配書に書かれていた悪党二名の金額の倍額を支払うことで決着した。


   *


 ファロンとしては不服だった。右手首は空間魔術によって状態を固定されたが、帝国に帰るまで治療できない。


「本当のことを言えばどうだ?」


「私が話したことが事実だ。それ以外にない。裁判沙汰はゴメンだ」


 略式の刑事裁判を終え、民事裁判でもらった賠償金で二人は旧王都の名物料理を食べていた。


 青い目のコカトリスを模した青い玉子料理だった。「名物に美味いものなし」とはよく言ったものだ。


 まったく食欲が出なかった。


 一口食べるとファロンが、別の肉料理を頼んだ。


「あんまり注文するな」


「どんな生活しているんだよ……」


 旅費が足りないと分かったファロンが言い返した。


「……子爵が奴隷落ちしてようやく祖父の代で騎士になった。バカな先祖を恨む」


「じゃああの男性は?」


「ちょっと待て。――火の精霊よ。いざ静寂をたまわん」


 店内の音が一瞬で消えた。


(火の精霊? 音って火に関連するのか?)


 ファロンが焼かれた肉を食べた。


「――父だ。先日亡くなった。父が受けた仕事を私が継いだだけだ」


「醤油が欲しいな……」


「ショウユ? 高級品だ。庶民が食べられるものじゃあない」


「あるんだ。……騎士が暗殺ねえ」


「決闘空間では互いが何をしても問題にならない。今回は私が決闘空間に二匹を入れて殺しただけだ。帝国ではそもそも罪にもならない」


「塩も足りない」


「海から遠いからな。それに、観光客相手だ。多少は色がついているんだろう」


「さっきの話。そうすると父親の名前がユズルハズルになるな。君の名前は?」


「正しくはユ・ズル=ハ・ズル、ズル=ハ家の当主ユまたはユゥが父の名だ」


「まあどうでもいいか……」


「聞けよ! ファロン。お前の名前はどういう意味があるんだ」


「今の状況と似ている。……君の雇い主は?」


「それは言えない。というか知らないんだ。父が受けたので」


「文書は? 口頭だけか?」


「そうだ。私と二人で来る予定だった」


「……お父さんは何で亡くなったんだ? 君よりは賢いだろうから、カッとなって決闘したとも考えにくい」


「それは父を誉めているのか?」


「そうだよ?」


 食べ終えて、水を飲んだ。旧王都だけあって泉があるらしく、水はふんだんにあった。


「……毒殺だ。皮膚が真っ黒になって死んだ。犯人は分からずじまいだ。必ず見つけてやる」


 ファロンの空になった肉の皿のソースを、ユズルハズルがパンをつけて食べた。


 笑顔になった。


「お前は貧乏したことがないだろう」


「今その状態だ。金はない。仕事はない」


「ならどうだ、私の従者にならないか? それなりの給金ははずむ」


「助けたお礼に貧乏騎士の従者? 冗談だろう? ここには冒険者組合ギルドとかないのか?」


 異世界ならあるはずだと考えたファロンだった。


「あるにはあるが、能力がないとすぐに死ぬぞ? 私ですらEクラス、二等騎士だ。等級がつかない騎士や準男爵がDクラスだ。Cが男爵、子爵。Cクラス以上が貴族だ」


「……あの術式はどれくらいのクラスになるんだ? カササギは?」


「この鎧――革鎧だが、これでCクラスの防御がある。カササギはそれより上、Bクラス以上。冒険者でいうならBクラスはコカトリス殺し(スレイヤ)だ」


「コカトリスなんているのか……」


「さっきの旧王宮の中庭には青い目のコカトリス――リヴャンテリのコカトリスがいるとされている。リヴャンテリのコカトリスは四本足の翼龍ドラゴンと同じSクラス。討伐はほぼ不可能」


「〝ほぼ〟とは?」


「リヴャンテリの旧王族が持つ至宝があれば討伐できるっていうけれど、伝説に近いわ。そもそも旧王族なら、私だってそうだから」


 ユズルハズルが少し感傷的になった。


「没落貴族か」


「言うな」


「とりあえず貧乏は困る。冒険者組合ギルドで登録して小銭を稼ぐほうが現実的だろう」


「だから死ぬって」


「別にいいだろう。ぼくの人生だ」


「コレはどうするんだ?」


 胸のドーマン印とセーマン印だ。名前まで彫られている。


「そっちか……別にそのままで……」


「叙爵されないだろう! 解呪かいじゅしろよ」


 五体満足でないと、特別な理由がないかぎり爵位は与えられない。


「だから呪術は知らないんだって」


「でもできたじゃあないか!」


「……調べるか。ここって商工会議所(チャンバー・オブ・コマース・アンド・インダストリー)はある?」


「そこはふつう図書館じゃあないのか?」


「はあ……」


「溜息で返すなよ、おい! ファロン」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ