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異世界兵站株式会社II  作者: 門松一里
第1章 魔術騎士ユズルハズル
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4.魔術騎士ユズルハズル(1)

4.魔術騎士ユズルハズル(1)


 リヴャンテリ帝国の魔術騎士ユズルハズルが、狼人ライカンスロープの従者ミンダフを連れ、神聖リヴャンテリ王国の旧王都のリヴャンテリ宮殿近くに降り立った。


「やれ」


「はっ!」


 ミンダフが懐から出した巻き物を広げた。


 現代魔術の巻き物だ。


「空間の上級魔術師カサマタサマの名において、書に記された魔術よ、起動せよ」


 署された名を読み上げた。


 カサマタサマは王国の宮廷魔術師だ。そしてリヴャンテリ帝国と神聖リヴャンテリ王国は国境付近で紛争している。


 つまり、敵であるリヴャンテリ帝国の魔術騎士がその巻き物を起動させていた。不自然すぎる。


「発動しないではないか」


「カサマタサマさまの話では、百八十秒必要だそうです」


「その間、無防備になるな」


「だからこそ、アコースがいます。敵がいれば先にほふっています」


 ユズルハズルとミンダフの足下にうっすらと魔術円が浮かび上がった。


「ん?」


「どうした? ミンダフ」


「何か違和感が……」


「気にするな。前に注目しろ。空間の魔術が解ける前に、我が魔術を発動させる」


「イエスサー」


 ユズルハズルが剣を抜くと、小さな声で呪文を詠唱した。


「光のうちにあって影、闇なれど闇にあらず。闇のうちにあって影、光なれど光にあらず。その光と闇のはざまにある影よ、闇を示せ」


 古代語だ。剣を中心に黒い闇が広がっていった。


「コレがあの術式破りですか?」


「口を閉じていろ。ミンダフ」


 ユズルハズルが持つ剣がゆれていた。不安定すぎる。


「はい」


 横を向くと、宮殿の壁があった。この中庭には青い目のコカトリスが放し飼いにされているらしい。


 目の前にぼんやりと通路が見えてきた。


 明るい通路に、剣の闇がべっとりとつくと、霧となって広がっていった。


 闇のあとには、ミンダフが見たことのない金属で覆われたシャッターがあらわれた。


「チッ!」


 魔術騎士の持つ手がゆれると、剣に血がついていた。


「どうかなさいましたか? サー・ユズルハズル」


 ミンダフが鼻を鳴らしたが、近くに敵の匂いはしなかった。


羽虫はむしだ。――術式を展開したはしはさまったんだ。窓を閉めるときに挟んだようなものだ。捨ておけ。大事の前だ」


 それが違和感の正体だった。


「イエスサー。――アコースが見つけました。挟撃します。……これ食べていいですか?」


 落ちていた手首を指差した。


「後にしろ。術を解く前に回収させてやる」


「では、すぐに」


 了解するとミンダフが消えた。


「……狼人ライカンスロープはヒトを食うのか? 獣人は理解できん」


 闇を広げていく。


「勇者か……愚かなことを考えたものだ……」


 ユズルハズルがそう言うと、作戦通りに移動した。


 ミンダフが待つ場所に、アコースが勇者候補の少年を追い込む。


 そのまま少年が死んでくれれば良し。仮に二人が失敗して、少年が生き残るようなら、狼人ライカンスロープを倒した喜びの瞬間に、ユズルハズルが背後から攻撃する予定だった。


 帝国のユズルハズルとしては、王国の裏切者のミンダフとアコースは使い捨てにして問題ない。


 単なる捨て駒だった。


 ヒトでもないのだ。帝国では狼人ライカンスロープは市民扱いされず、そのすべての種が奴隷だった。


 アコースが少年を追い立てる音が聞こえた。


「ん? もう一人いる?」


 ミンダフがいう違和感がそれだった。


「ありえない。――だが、存在している。ありえない」


 勇者召喚で、勇者が二人など聞いたことがなかった。




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