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43. 死の宣告

 漆黒のドラゴンは怒り狂い、渾身のドラゴンブレスを放つ。灼熱の輝きが広間をまぶしく光で覆った。


 しかし、紗雪は待っていたかのようにパカッと大きな口を開け、純白の息を吐く。氷魔法のアイスブレスだった。


 氷の溶ける激しい蒸気がブシューっと辺りに吹き荒れた。


 くぅっ!


 激しい蒸気の暴風から必死に顔を守りつつ戦いを見守る英斗。


 漆黒のドラゴンが息切れした直後だった、さらに威力を上げた紗雪は氷のつぶてをドラゴンに浴びせかけ、鱗を穿(うが)ち、体表を凍らせていく。


 ギュワァァ!


 漆黒のドラゴンはたまらず逃げた。体中に白く霜が降り、苦しそうな叫びをあげている。


 直後、紗雪は一気に急降下してドラゴンの首を後ろ足で思い切り蹴り飛ばす。強靭な太い後ろ足が生み出すパワーはとてつもなく、ゴスッという重低音の振動が響き渡った。


 ドラゴンは悲鳴を上げながらゴロゴロと転がる。


 ここぞとばかりに畳みかける紗雪は、すかさずドラゴンの喉笛(のどぶえ)に迫ると大きな口で噛みつき、その強大で鋭い牙を逆鱗に合わせ、一気にかみ砕いた。


 ギュッ……ギュォォォ……。


 漆黒のドラゴンは断末魔の叫びをあげながら腕を上げ、鋭い爪の手が力なく宙をつかむ。


 直後、ボン! と、爆発音を残して魔石へと変わるドラゴン。床にコロコロと転がった魔石は鮮やかに真紅に輝きを放ち、この戦いの終止符を告げた。


 魔石になったということはあのドラゴンはレヴィアではなかったということだろう。魔王がレヴィアをコピーした魔物を作り上げたのかもしれない。


「ヨシッ!」


 英斗は物置の物陰でガッツポーズをすると、飛び出し、


「魔王だ、魔王! 一気に決めよう!」


 と、魔王の部屋を指さして叫ぶ。


 紗雪はグンと巨大な首を振り、魔王を見上げ、ギュォォォォ! と重低音の咆哮を響き渡らせ、パカッと口を開いた。


 直後、アイスブレスの鋭い氷のつぶてが無数、超音速で射出され、魔王のいる部屋のガラスを激しく穿(うが)つ。


 強烈な衝撃音が響き渡り、あたりは霜で真っ白になった。


 しかし、いつまで経ってもガラスには何のダメージも入らず、魔王は平然としている。


「はっはっは! 小娘、やるな。だが、貴様らは『魔王』をなめすぎだ。クフフフ……」


 いやらしく笑う魔王はパチンと指を鳴らした。


 刹那、天井に開いた無数の穴から次々とレーザービームが紗雪に降り注ぐ。レーザーは次々と紗雪の上で爆発を起こし、紗雪の純白の鱗を吹き飛ばしながら紗雪を血に染めていく。


 グギャァァァ!


 悲痛な叫びが響き渡り、翼が破けてズタズタになった紗雪は、ドスンと床に墜落して地響きをたてながら転がった。


「さ、紗雪ぃ!」


 英斗は真っ青になって叫ぶ。


 渾身の攻撃が通じずに一方的にやられた。この残酷な事実は英斗の心を絶望で塗りたくる。レヴィアが倒れ、タニアがやられ、ついに紗雪が倒れたのだ。もはや打つ手がない。


 血だらけになった純白のドラゴンは、龍の形態を保てずにボン! と、音を立てて美しい美少女姿になってゴロリと転がった。


 ぐはっ!


 真っ赤な鮮血を吐く紗雪。


 なんとか身体をよろよろと起こす紗雪だったが、ゴホッゴホッとせき込んでしまう。


「さて、そろそろ完全に終わりにしよう。この世界だとまた生き返ってきてかなわん」


 魔王はタブレットを取り出し、いやらしい笑みを浮かべながら画面をタンタンと叩く。


 ブォォン……。


 不気味な電子音とともに広間の奥に瑠璃色の輝きが立ち上がった。


「ま、まさか……」


 英斗は血の気が引いて言葉を失う。それはゲートだったのだ。


 魔王の意図は分からないが、きっと決定的な危機をもたらしてくる予感に英斗はガクガクとひざが震えた。


 紗雪はギョッとして、急いで逃げ出そうとしたが足に力が入らないようで、よろよろと英斗に向けて手を伸ばしながら苦しそうに歩き出す。


「紗雪ぃ!」


 英斗が紗雪を迎えに行こうとした時だった。


 突如、激しい風が巻き起こる。ゲートがとんでもない速度で空気を吸い込んでいるようだった。


「うわぁ!」「キャーーーー!」


 二人は予想外の事態に頭を抱えうずくまる。


「はっはっは! そのゲートの向こうは別世界の宇宙、つまり真空だ。ゴミ掃除にはちょうどいい」


 魔王は愉快そうに笑いながら絶望的な宣告をした。つまり、ゲートに吸い込まれたら最後、宇宙に放り出され、血液が沸騰して爆発して死んでしまう。そして、別世界なら生き返りもない。それは二人にとって完全なる死の宣告だった。


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