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35. 本番

 稜線に戻ってくると、レヴィアもびしょぬれの金髪おかっぱの少女姿で倒れていた。


 紗雪と同じく受精卵から再生されたのだろう。まだ幼いながら、その透き通るような肌の美しい裸体は英斗には目の毒だった。


 英斗は顔を赤くして顔を背けながら、タオルで胸を覆ってレヴィアを抱き起こす。


 う……、うぅ……。


 眉間にしわを寄せ、うめくレヴィア。


 白い肌に整った目鼻立ち、長い金色のまつげが美しくカールしている。どことなく紗雪にも通じるものがあり、血のつながりがあるのかもしれない。


「レヴィアさん、起きてください」


 英斗はほほをペチペチと叩き、声をかける。


 レヴィアはゆっくりとまぶたを開け、


「ん? んん……?」


 と、辺りを見回す。そして、素っ裸でびしょぬれの自分を見て、


「我は死んどったのか?」


 と、ウンザリしたような表情で英斗を見上げた。


 英斗は水のしたたる美少女に少しドキッとしながら、真紅の瞳を見つめてゆっくりとうなずいた。


 きゃははは!


 林の方から元気な笑い声が聞こえ、見下ろすとタニアが素っ裸でトコトコと歩いてくる。これで全員無事ということではあるが、唯一死ななかった英斗だけが全身傷だらけで痛みをこらえているのは何だか腑に落ちず、英斗は首を傾げた。



      ◇



 一行は地下に掘られたベースキャンプに後退し、被害状況を確認する。


 記録班の映像を見ると、オーロラが展開された直後、英斗たちも黄龍隊もすべて動かなくなり、そこに火山の砲門から次々と砲撃を当てられていたようだった。


 オーロラには意識を断つ機能があったらしい。レヴィアたちも知らない新兵器を投入してくる魔王の底知れなさに、英斗は渋い顔をして映像を見つめていた。


 自分のことを『特異点』と呼び、部下にしようとした小太りの中年男、魔王。彼が一体何を考え、何を目指しているのかさっぱり分からない。誰しも何らかの意図があって動いているものだが、魔王に限って言えばそれが滅茶苦茶だった。


『女神に復讐』というのが本当なら女神と直接やってもらえばいい話で人類は関係ない。なぜ滅ぼす必要があるのか?


 英斗は大きくため息をつき、肩をすくめた。


 ズン! ズーン!


 地響きが響いてくる。魔物たちの攻撃が始まったようだった。


 ベースキャンプは小さなドーム状のシールドで覆われ、魔物たちの攻撃から耐えていたが、いつまでも耐え続けられるわけではない。一行と黄龍隊は急いで再度攻撃の態勢を整えていく。


 明り取りの穴から見上げると、パピヨールたちが上空で群れてレーザー攻撃をシールドに雨のように降らし、爆音の嵐を奏でている。このままだとシールドを突破されるのも時間の問題のように思えた。


 気が気でない英斗はそわそわしてしまうが、紗雪は堂々としたもので、タニアをひざに乗せて一緒に手遊びをしている。


「これ、大丈夫なのかな?」


 英斗は眉をひそめながら紗雪に声をかける。


「ダメならまた生き返るだけだわ」


 紗雪は覚悟を決めた様子でそう言うと、タニアをキュッと抱きしめた。


 タニアはきゃははは! と、嬉しそうに笑い、紗雪はその楽しそうな顔に癒され、優しい顔をする。


『生き返ればいい』


 理屈ではそうなのだが、そう簡単に割り切れない英斗は渋い顔でため息をついた。


 それにしても死に戻りを計算するなんてまるでゲームの世界である。なぜ、こんなリアルな世界でゲームみたいな戦略が成り立ってしまうのか英斗は困惑し、首をかしげた。



      ◇



 タッタッタと軽快な足音が通路の穴の方から響いてきて、


「さて、そろそろ本番じゃ!」


 と、レヴィアが顔を出して言った。


「魔物を倒すんですか?」


「そんなのは黄龍隊に任せとけ。ワシらは一気に火山へ行くぞ!」


 そう言いながら手招きをした。


 一気に魔王のいる火山へ行くというレヴィアの言葉に、英斗の心臓がドクンと高鳴る。いきなり核心がやってきてしまったのだ。


 緊張でこわばっている英斗の肩を紗雪はポンポンと叩き、


「大丈夫よ。『僕がついてる』んでしょ?」


 と、言ってニコッと笑った。その笑顔には曇り一つなく、まるで吹っ切れたように明るい表情だった。


「え? いや、まぁ、そうなんだけど……」


 英斗は生き返ってからすっかりポジティブになった紗雪に、少し違和感を感じながらも、自分の言葉を使われては反論もできない。


 大きく息をつき、パンパンと自分の頬を両手で張った英斗は、


「大丈夫、行こう!」


 と笑顔を見せてレヴィアの後を追った。


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