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10. パパは高校生

 奥の方からコーヒーカップを両手に持ったレヴィアが戻ってきて、


「タニアちゃん、これからお兄ちゃんはお姉さんとお話があるんじゃ。大人しくしとくんじゃぞ」


 そう言ってタニアを見るが、タニアはパイの甘味に心を奪われていて全然聞いていない。


「大丈夫ですよ。……。いい子にしてるもんな?」


 英斗はタニアの頭をなでると、パイをまた小さく割ってタニアに渡した。


 タニアはパイのかけらを大切そうに受け取ると、パクっと口に放り込み、英斗ににまぁ(・・・)と最高の笑顔で微笑む。


 レヴィアはそんな二人を優しい目で見つめながらコーヒーを一口すすり、ふぅと息をつくと話し始めた。


「ふむ、では、龍族の話から始めるか。龍族は別の地球で栄えた一族でな、今から五百年前に火星行きの宇宙船を飛ばしたんじゃ」


 英斗はいきなり『別の地球』から話が始まって面食らう。


「ちょ、ちょっと待ってください! 別の地球って何なんですか? そもそもこことは違うんですか?」


「あー、そこからか……」


 レヴィアは思わず宙を仰ぎ、タニアはきゃははは! と嬉しそうに笑った。



 話を総合すると、この世界にはパラレルワールドとも言うべき地球がいくつもあり、そのうちの一つが龍族の栄えた地球、日本はまた別の地球になるそうだ。そして、魔物のいるこの空間は大陸サイズの異空間で、流刑地らしい。


 五百年前、地球を飛び立ったレヴィアたちを乗せた巨大宇宙船は、火星に行く途中女神の制止を受けた。なんと作戦指令室に女神がふわりと降臨し、火星行きを止めるように警告したらしい。しかし、船長は今さら止める訳にはいかないと警告を無視して航行を続け、気が付いたらこの空間に飛ばされていたそうだ。


 マッハ十の超高速のまま大気に突っ込まされた宇宙船は大爆発を起こし、バラバラと崩壊しながら墜落。多くの犠牲者を出しながら原形をとどめない程ズタズタになってしまい、廃墟のような小山になってしまったそうだ。


 死者行方不明者数千人、その壊滅的な被害の中で奇跡的に難を逃れたごくわずかな生き残りが今なおここに暮らしている。当時生き残りの中で階級が一番高かったレヴィアが棟梁としてこの地での生活基盤の構築に奔走し、今なおリーダーをやっているそうだ。


 だが、この地は元々魔王が支配する魔物の大地である。当然、魔物たちの襲来が相次いだ。レヴィア達はドラゴン化し、また、まだ使える宇宙船内の粒子エネルギー装置などを粒子砲に改造し、魔物たちに対抗した。


 数百年にわたる激しい戦いの末、停戦協定が持たれ、今では軍事境界線が引かれてお互い干渉しないようになっている。それでもたまに小競り合いは発生し、その際はレヴィアも出撃するらしい。


 そんな中で、魔王軍の日本侵攻で紗雪が暴れてしまった事は、レヴィア達には頭の痛い話だった。


 英斗は日ごろ飲みなれないコーヒーをちびりちびりすすり、眉間にしわを寄せながら聞いていた。


 にわかには信じがたい話の連続で、どう理解したものかどうか正直困っていた。地球がたくさんあることも、この異空間も、女神も到底科学の範疇から飛び出してしまったファンタジーの話にしか聞こえない。しかし、レヴィアの声には五百年を生き抜いてきた凄みがあり、切実さがこもっていてとても嘘だとは思えなかった。



 大人の話に飽きてきたタニアが足をブラブラと()らし、グズりだした。


「ねぇ、パパ、あそぼ~」


 そう言いながら英斗の腕をペチペチと叩いた。


「パ、パパ?」


 いきなり父親にされてしまって目を白黒させる英斗。


 レヴィアは笑い、


「おや、タニアの父親はお主だったか。カッカッカ」


 と、嬉しそうに冷やかした。


「ちょっと待ってくださいよ、この子の親はどこにいるんですか?」


 英斗は眉を寄せながらタニアを抱き上げ、じっとタニアのつぶらな瞳を見つめる。


「わからん。ある日、(われ)が寝てたら金縛りみたいに苦しくなって、目が覚めたらこの子が胸の上で寝てたのじゃ」


 レヴィアは渋い顔をして首を振る。


 ニッコリと英斗に笑いかけるタニア。目じりの泣きぼくろが可愛さを何倍にも引き立てているように見えた。


「え? 不用心ですよ。寝るときはカギしなきゃ」


「それが戸締りはバッチリだったのじゃ」


 首をかしげて肩をすくめるレヴィア。


「じゃあ……、どうやって……?」


「わからん。じゃが、龍族の末裔(まつえい)であることは間違いない。同胞であれば保護せざるを得んのじゃ」


「親御さん心配してるんじゃないんですか?」


「一応一族のみんなには心当たりがあったら教えて欲しいとは聞いておるんじゃが……、誰も知らんのじゃ」


 あまりに奇妙な話に英斗は首をひねり、タニアを見つめる。


 タニアはキャハッ! と、嬉しそうに笑った。


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