それから後のシンデレラ
その夜、シンデレラは魔女の力で美しく装い、舞踏会に出ることができました。
けれども、魔法の効果は十二時まで。
お城から急いで帰る途中、馬車は元のカボチャに、馬も元のネズミに戻ってしまいました。
シンデレラが大きなカボチャを抱えると、お腹の空いたネズミが登ってきてカボチャをかじり始めます。
「ふふ、ご苦労様。楽しかったわ」
なぜか、そこだけ魔法が解けなかったガラスの靴も片方だけでは歩きづらいので脱いでしまいます。
「うーん、片っぽだけの靴なんていらないかな?
仕事する時も履けないし」
えいやっと道端にガラスの靴を投げようとした時です。
誰もいなかったその場に、黒いローブの男が現れました。
「ちょっと待ってよ。ガラスの靴を捨てちゃったら、王子様が迎えに来ないわよ」
「あなたはどなた?」
「アタシは今日の魔女よ。昨日の魔女から『シンデレラ要確認』と引継ぎがあったので、様子を見に来たってわけ」
どうやら、十二時までの魔法では不安だった魔女が、その後の確認を翌日の当番に引き継いでくれたようです。
彼の説明によれば、魔女は当番制で街を見回り、気になった者を見つけてはお節介……いえ、手助けをしているのだとか。
「それは、わざわざありがとうございます。
楽しかったですよ、舞踏会。一式用意してくれた魔女さんにも感謝しています」
「それは良かったわ。王子様と踊ったんでしょ?
結婚のチャンスを逃さないようにしないと」
「王子様と結婚ですか? 無い無い無い無い!」
シンデレラはプルプル首を振りました。
「舞踏会は一夜限りだから楽しいんです。
夢は夢だから、素敵なんですよ。
そんなことより、ほら、カボチャも半分残っています。
うちに帰って、パンプキンパイを作らなきゃ!」
「パンプキンパイ!」
オネェ、いや今日の魔女はすごい勢いで食いつきました。
「お好きですか?」
「だーい好きよぉ!」
「今年はリンゴも沢山とれたので、リンゴ入りのも焼いちゃいます」
「絶対美味しいやつぅ!」
「良かったら、食べに来ます?」
「行く行く!」
裸足でカボチャを抱えたままのシンデレラは、魔女の転移であっという間に家に戻りました。
「今から作り始めますね。
義母と義姉が帰って来ると、何かと用事を言いつけられるので」
「あんたも苦労してるのね」
「苦労はともかく、あの人たちを見てると笑っちゃうと言うか……」
「どういうこと?」
「夢を見過ぎですよ。あの義姉たちの器量で、どうやって王子様の目に留まるつもりなんでしょうか?」
「意外とキツイ子ね」
「オツムだってお粗末ですもの。あの義母の娘ですから仕方ないでしょうけど」
「ハッキリ言うのね」
「事実は事実です。あの人たちを、いずれどうにかしないといけません」
シンデレラは話をしながら、てきぱきとお菓子を仕上げていきます。
「はい、出来ました!」
「早いわねぇ」
「材料費も燃料費も馬鹿になりませんからね。
小さめに作って焼くと、早く仕上がるんですよ」
「なるほど。じゃあ、いただきます」
「召し上がれ」
「いい匂い、……熱ッ、れもおいひぃ!」
「お水置きますね。慌てないで」
小さなパイとはいえ、四個も食べた魔女はすっかり満足しました。
「ごちそうさま。美味しかったわぁ。
さて、このお礼をしなくちゃ」
「そんな。お礼なら、昨日の当番の魔女さんに……」
「それはいいのよ。魔女は皆気まぐれだから。
好きなことやってるだけだもの。
あんたの困りごとは義母と義姉だったわね?」
「はい、そうですね」
「じゃあ、それを何とかしてあげる」
なかなか魅力的なウィンクをすると、オネェ魔女は、なにやら呪文を唱え杖を振りました。
その頃、王城では、さすがに舞踏会はお開きとなり、ダンス狂やら家に帰りたくない者やらも追い出され始めていました。
すっかり踊り狂っていた義母と義姉も、我に返って帰り支度を始めました。
しかし、なぜか呼び止められ、王城の下僕によって別室に案内されます。
別室には偉そうな男が待ち構えていました。
彼は王子様の側近でした。
「あなた方三名は王子様の婚約者の侍女候補に選ばれました。
これから、王城で王子妃の侍女教育を受けていただきます」
義母と義姉は顔を見合わせました。
しかし、これは王子様に近づくチャンスと飲み込みます。
「謹んで教育を受けさせていただきます」
教育は即座に始まり、なぜか門外不出であろう王家の闇情報から教わってしまいます。
数日後、侍女として全く役に立ちそうもないと判断されたものの、闇を知ったために王城から出ることは許されません。
結局、義母と義姉は一生、下女として王城勤めすることになりました。
一方のシンデレラは、彼女たちはいつまで王城で遊んでいるのだろうと訝しんでいました。
しばらくすると王城から使者が来て、手紙を渡されます。
そこには、義母と義姉たちを王城で召し上げたことが書かれていました。
そして、もう王城から出られないので給金は使いどころがないだろう。そのため家で待つ家族に送る、とも。
使者に渡された袋はずっしりと重く、中には金貨がたっぷり詰まっています。
使者にお礼を言って送り出すと、オネェ魔女が姿を現しました。
「あなたの仕業でしょうか?」
「ほんのお礼よ。迷惑だった?」
「いえ、ありがとうございました」
「ところで、パンプキンパイが食べたいんだけど?
もう病みつきなの! あんたの作ったのじゃなきゃダメなの!」
「そんなに気に入りました? すぐに作りますよ」
すっかり仲良しの二人はにっこりと笑顔を交わし、仲良く家に入っていったのでした。