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苦手な方はご注意ください。

プロメテウスの日

作者: どんC

 カポカポとロバが歩く。

 ロバの背には水瓶と布が乗せられている。

 私はロバを引きながら仕事場に着いた。

 お父様が、崖の上で私を待っている。

 私はお父様に手を振った。

 お父様は頷き、翼を広げ家路に着いた。

 お父様は一仕事終えた。ここからは私の仕事だ。

 昔は母に連れられてここにきたが、母は年を取って亡くなった。

  仕方がない。母は人間なのだ。

 人間には寿命がある。

 仕事のやり方は母から教わった。

 もうなん十年も勤めている。

 崖の上に彼がいた。

 鎖に繋がれた彼。

 いつも彼は眠っている。

 私は彼が起きている所を見たことがない。

 だから……

  彼の瞳の色を知らない。

 彼の名はプロメテウス。

 咎人だ。

 何でも彼はゼウス様から火を盗み人間に与えたのだ。

 それで、捕らえられここに縛り付けられ罰を受ける事になった。

 彼に罰を与える役目を授かったのが、お父様だ。

 お父様はオリンポスの神々の末席にいる神様だ。

 大鷲になって彼の体を引き裂くのがお父様の仕事。

 今日も張り切って仕事を終えたお父様は麓にある家に帰り、体を洗い一杯やっている。

 お母さんが生きていた頃は、お父様の身の回りの世話をするのは巫女であるお母さんの仕事だった。

 お父様の大切なお役目は咎人に罰を与える事と監視だ。

 お母さんが83歳で亡くなってから、お父様のお世話と咎人の世話は私の仕事となった。

 そう私は神であるお父様と人間であるお母さんの血をひいた半神半人(デミゴット)だ。


 ああ……いけない。

 考えている間に彼の体が元に戻る。

 はみ出した内蔵も体内に納まり、潰された目も再生する。

 流石神様だわ。

 私は彼の血塗れの腰布を外すと、彼に水をかけて血を洗い流す。

 布で丁寧に彼の体を拭く。

 彼は美しい神だ。

 でも、咎人。

 ゼウス様を裏切り、人間に火を与えた。

 それは悪い事なのか?

 私には分からない。

 神と人間の狭間の私が判断するべき事ではないのかも知れない。

 私は彼に新しい腰布を巻くと、帰り支度をする。

 空になった水瓶2つと血塗れの布をロバの背に乗せる。

 帰りは楽なのでロバの足も早い。

 私は家に着いた。

 水瓶と布を下ろした。

 小屋にロバを繋ぎ、餌をやる。


「今日もご苦労様」


 ロバの頭を撫でると家に入る。


「ただいま、直ぐにご飯の支度をするね」


「フローラ。おかえり」


 お父様は笑って迎えてくれる。

 空になった酒瓶がテーブルの上にころかっている。

 おつまみの皿も空だ。

 お父様はお酒が好きだ。

 オリンポスの神々もお酒が好きで、よく宴が開かれるそうだ。

 私は半神半人なので招かれた事はない。

 でも成人のお祝いに一度だけ連れていってもらった事がある。

 柱の陰からこっそり覗かせてもらった。

 美しい神々の宴はそれはそれは夢の様で。

 私はうっとりと眺めていた。

 そうそう、その帰り村で祭りがあった。

 私はお父様に布でできたお人形を買ってもらったわ。

 可愛らしいお人形。

 でも、お母様が亡くなる頃には朽ち果ててしまった。

 仕方が無い。

 物はいつかは壊れるものだ。

 お父様がまた人形を買おうか? とおっしゃってくれたけど。

 私は断った。

 失くして悲しむのは嫌だったから。

 それに、私には壊れないプロメテウス(お人形)があるから。


「少し帰りが遅かったか?」


「そう? あの子もお婆さんになったからまた新しいロバを買わなくちゃ駄目かしら?」


「そうだな。神殿に言っておいてくれ」


「わかった」


 私は料理をテーブルに並べる。

 パンとスープとサラダと鳥の足だ。

 神であるお父様は食事を取る必要はないが、私の為に一緒にごはんを食べてくれる。

 お母さんが生きていた頃からの習慣だ。

 お父様は食事を終えると寝室に向かい眠ってしまった。

 私は食事の後片付けを終えると仕事場に入る。


 パタンパタン


 機を織る音。

 私のもう一つの仕事だ。

 咎人の為に布を織る。

 数時間で布が出来上がった。

 慣れたものだ。

 私は明日の準備をする。


 お父様は夜明けと共に鷲になると飛んで行く。

 今日もお父様は元気に仕事だ。

 私は水瓶に井戸から水を汲む。

 そしてロバの世話をする。

 ロバの小屋を掃除して晩御飯とおつまみの支度をする。

 そしてまた機を織る。

 機を織りながら私は歌う。

 お父様と私の静かな暮らしが、ずっと続けばいいと願いを込めて歌う。


 ズガガガッ‼️


 物凄い衝撃波が辺りを包んだ‼️

 家が吹き飛ぶ。

 何が起きたのか分からなかった。

 潰れた家から、私は這い出す。

 ロバの小屋も吹き飛び、ロバは小屋に押しつぶされて死んでいた。


 お父様‼️


 我知らず走り出す。

 ドクドクと心臓が荒れ狂い、不安で押し潰される。


 お父様‼️

 まさか……嘘よね。


 私は山の頂上が見える所まで走った。

 そして岩陰に隠れ様子を窺う。

 咎人が縛り付けられていた岩はボロボロに破壊され。

 男が咎人を支えている。

 男の足元に大鷲が倒れている‼️

 矢が心臓を貫いていた。


 お父様‼️


 嘘よ‼️


 小神と言えどお父様は神だ‼️


 神殺し‼️


 私はガクガク震える。

 お父様の体は光の粒となり消えていった。

 見知らぬ男はプロメテウスを抱えて立ち去った。


 私はガクガクと震える足を叩いた。


 しっかりするのよ‼️


 まずは、オリンポスに行ってゼウス様にお知らせせねば。

 私は町の中にあるゼウス様の神殿に向かう。

 町は何時もと変わらず賑やかだった。

 もっとも咎人の山のには結界が張られていて人間は近寄れない。

 なのにあの男は侵入してお父様を殺した。


 神殺し。


 万が一の時、お父様が教えてくださった道。

 神殿のゼウス様の像の裏に秘密の通路がある。

 私は後ろに隠された仕掛けを押す。


 ガタン


 戸が開き、私は地下に続く階段を下りた。

 大きな部屋の床には転移紋が彫られ、私は魔力を流す。


 フュン‼


 転移紋は発動して私をオリンポスの館に転移させた。


「何? これ?」


 確かに其処はオリンポスの神々が住まわれる館だったが……

 誰もいない。

 神々が留守だとしても、神々のお世話をするニンフまでいない。

 館は寂れ埃まみれだ。

 柱にもヒビが入っている。

 放置されてからかなりの時が過ぎている。


「ゼウス様‼️」


 私は神々の名を呼びながら玉座のある謁見の間に向かう。

 其処には誰も居なかった。

 私は呆然と其処に佇む。


 ガラリ……


 ドオォォン‼️


 何処かの柱が壊れたのだろう。

 地響きがした。

 しかもそれは止むことがなく。

 次々と床が揺れる。


 私は身の危険を感じて窓から外に飛び出した。

 私は半神半人だからお父様の様に完全な鷲に化ける事が出来なくて。

 歪なハーピーに成った。

 それでも何とか上空に舞い上がりオリンポスの館を見る。

 館は光の粒となり消えていった。

 お父様と同じ、跡形もなく消え去った。


「ゼウス様……」


 はっ‼️


 そうだ‼️


 海にはポセイドン様がいらっしゃる‼️

 ポセイドン様なら何か知っていらっしゃるかも知れない‼️

 私は海に向かった。

 オリンポスよりかなり離れた海岸に海の館の通路がある。

 私は海岸に降り立った。

 人の姿に戻ると、砂浜に魔力を流す。

 魔法陣が現れ海底にあるポセイドン様の館に続くトンネルを造り上げた。

 私は必死で走る。

 走って走って走ってようやくポセイドン様の館にたどり着いた。


 そして……


 オリンポスで見た光景を見る事になった。

 誰もいない……

 玉座にもポセイドン様も海のニンフ達も……

 誰一人いない。


 ゴゴゴオォー‼️


 海水が館に入り込み。柱を次々となぎ倒す。

 私は慌てて人魚になると館から脱出した。

 必死の思いで岸にたどり着く。

 お父様が殺され、ゼウス様に報告しょうとオリンポスを尋ねたが。

 誰もいない。

 それならばと、ポセイドン様を尋ねてもニンフ一人いなかった。


 あとは……


 死の世界を司る様だけ……

 流石に神様でも死の世界から生還出来ない。

 死の世界を訪ねるのは最後にしょう。

 私は混乱する頭を振った。オリンポスも海の館も遺棄されてずいぶん経っていた。

 一体何があったの?



 あれから随分たった。

 何も分からないまま時だけが過ぎていく。


 私は人間に混じって暮らしている。

 年を取らないので10年以上同じ場所に居られない。

 旅芸人をしたり、酒場で働いていたり、メイドや乳母の仕事もした。

 今は旅作家でいろんな国を巡っている。


 時々、お父様が亡くなられた時に感じた波動を感知することがあった。


 あれは……


 神が亡くなる時の波動だろうか?


 何度かその場所に行った事がある。

 その場所は暖かく命に満ちていた。


 それは神の命?


 また……


 神殺しがあったのか?

 あの二人が関与しているのかしら?

 私は頭を振る。

 私には分からない。

 分からないといえば、私の寿命だ。

 お父様が亡くなられてから随分たつ。


 が……


 私は生きている。

 半神半人とは言え、神でない私の寿命はとうに尽きているはずだが?


 分からない……


 分からない……


 バスが停まった。

 私はバスを降りる。

 今日はフランスの港町のエッセイの仕事を頼まれている。

 ここから船に乗り島に行く。

 私は適当に写真を撮る。

 雑誌に乗せたりツイッターに乗せる為の写真だ。

 ふと人混みの中の男に目が止まる。

 知っている顔。


 まさか……


 私は男を追う。

 男はタクシーに乗り山の上のホテルに向かった。

 木々に囲まれた山の上には大きなホテルしかない。

 お城の様な立派なホテルだ。

 まだ新しく出来てから数年も経っていないだろう。

 ドアは開いていたが、誰もいない。

 灯りはこうこうとついている。

 私は呼び鈴を鳴らす。

 受付嬢が出てきた。


「誠にすみませんが、今日は結婚式の為、貸しきりになっております」


 若い受付嬢は頭を下げた。


「まあ、素敵なホテルで結婚式なんて憧れるわ。何方の結婚式なんですの?」


「ゼウス航空会社のお孫様とポセイドン海運のお孫様の結婚式です」


「まあ。凄い。それじゃ失礼します」


 私は受付嬢に別れを告げると山を降りた。

 ゼウス航空会社?

 ポセイドン海運?


 まさか……


 町で見かけた老人は確かにゼウス様だった。

 私は町に戻ると安ホテルにチェックインする。

 そしてノートパソコンを開く。

 ゼウス航空会社は数年前にこの僻地の国に立ち上げられた会社で社長は知らない顔の50代の男だった。

 ポセイドン海運の方は十数年前に設立され、此方の社長も60代の男で、やはり知らない顔だ。

 ダミー会社だろうか?

 彼らの孫を検索したが、若いカップルでまだ二人とも大学生だった。


 私は考える。


 仕事はキャンセルしなくても十分余裕がある。

 私は荷物をクローゼットに押し込めると、ジョギングをする服に着替える。

 私は町の人通りの無い小道に入ると、ハーピーに変身して山のホテルに向かった。



 山のホテルはオリンポスホテルと言う。

 私は少し離れた所に降り立った。

 そして再び変身する。

 黒い猫だ。

 他の物に変身するとどうしても顔が人間になったままだが。

 猫だけは完全に化ける事が出来た。

 私は木に上りホテルの塀を乗り越える。

 ホテルの中から音楽と人々のざわめきが聞こえる。

 私が帰った後に客達が到着したのだろう。

 前夜祭の様に賑やかだ。

 大きなホールに人々が、お酒を飲み踊り祝いあっている。

 私は窓からその様子を窺う。

 知った顔はないかと探すが、知らない顔ばかりだ。

 もっとも私より変身が得意な神々なら、私が変身を見抜けるか甚だ疑問だが。


「あれ?」


 パキン


 その音と共に結界が張り巡らされた。

 私は慌てて塀の外に出ようとしたが。

 弾かれた。

 外に出れない。

 かなり強力な結界だ。

 元々仕込まれていたのか?

 それとも誰かが中から結界を張ったのか?

 2階のベランダが開いていたので、私は諦めて建物の中に入った。

 大ホールで踊る人々、お酒を飲み笑い会う人々。

 ベランダで酔いを冷ます人。

 様々な人々の中に、私の知る顔は無かった。

 調理場に潜り込む。

 忙しそうにコックが働いている。

 明日の結婚式の仕度に忙しそうだ。

 私はゴミ箱を持った料理人に見つかった。

 若い女だ。

 金髪で緑の瞳、顔にはソバカスがある。


「ネコちゃん、ネコちゃん何処から入り込んだの?」


 料理人は私を呼ぶが私はにゃ~と鳴いてまた歩き出す。


「あら、振られちゃった」


「アンナ‼️ 何してる‼️ ゴミ出しが終わったら、皿が貯まっているぞ‼️」


「コック長ネコがいます」


「この忙しい時に‼️ 追い出せ‼️」


 どうやら彼女は一番下っ端のようだ。

 私は彼女と共に外に出る。

 そして裏庭の方に逃げる。

 誰もいない事を確認すると裏口から入ると通風口の柵をドライバーで開ける。

 そしてまたネコに化けると通風口に入り込んだ。

 音をたてない様に歩く。

 各部屋の通風口から中を覗く。

 ほとんどの部屋は明日に備えて眠っている人か、荷物が置かれている部屋ばかりだった。

 まだみんな大ホールで騒いでいるみたいだ。

 書斎のベランダが開いていた。

 其処から一人の男が入ってきた。

 知っている顔に私は息を飲む。


 ハデス様だ。


 冥界の主が何故ここに?

 私は声をかけようか躊躇する。

 ハデス様が味方だと言う確証はない。


「やあ。久しぶりだね。フローラ」


 ハデス様はパチンと指を鳴らすと通風口の柵がゴトリと外れた。

 私は仕方なく外に出た。

 そしてネコから人に戻る。

 人に戻る時ジョギングスタイルから白い巫女服に変える。


「お久しぶりでございます」


 私は恭しく跪き頭を下げる。


「所で冥界の主であるハデス様は何故ここに?」


 私は疑問を口に出す。


「ああ。ちょっとした罠を張ったんだよ」


「罠?」


「プロメテウスとヘラクレスが神殺しをしているからね」


「神殺しですか‼️ じゃ時々感じたあれは……」


「お前も、神が消滅した瞬間を感じたんだな」


「お父様が殺された時に凄まじいエネルギーの解放を感じました」


「そう、神が殺されたその場所は再生する」


「再生ですか?」


「本当ならこの星はとうの昔に滅んでいた。だが【神殺し】で何とか持ちこたえている。つぎはぎだらけだがね」


「あの……殺されたお父様は冥界にいらっしゃるのですか?」


 私は恐る恐る長年の疑問を口にする。

 ハデス様は首を振る。


「神の死は完全な消滅だ。【神殺し】を喰らって、神の内誰一人冥界に来たものはいない」


「あの【神殺し】とはどんな武器なんですか?」


「ああ。神殺しとはこれだよ」


 ハデス様は何処からともなく一振の剣を取り出した。


「お父様を殺したのは弓矢でしたが。【神殺し】は複数あるのですか?」


「いや、【神殺し】はこれだけだよ。ヘラクレスを殺して奪ったのだ」


 そしてハデス様は一振する。

 私は壁まで吹き飛ばされて気を失った。






 気が付くと、大きな地下の神殿にいる。

 神殿はアテナ神殿に似ていた。

 足元には魔法陣。

 私は椅子に縛られている。

 辺りを見渡すと、人がいた。

 黒いマントを纏ったホテルの客や従業員達。


「生贄?」


 ポツリと言葉が溢れる。


「でも……私は半神半人(デミゴット)……生贄にはならない……」


 ボンヤリと魔法陣を眺める。

 不思議と恐怖は無い。


「お前はすでに半神半人(デミゴット)ではない」


 ハデス様は答えた。

 いつの間にか彼は私の前にたっている。

 神は老化しないはずなのに酷く老いている様に見えた。


「えっ? どういう意味ですか?」


「お前は不思議に思わなかったか?」


 私はハデス様を見上げる。


半神半人(デミゴット)にしては寿命が長いと。疑問に思わなかったか?」


 ああ……


 そう言えば、数々の文明が亡びるのを見てきた。

 そして、たまに何者かからの視線を感じた。

 プロメテウス様の視線だと思った。

 彼はお父様を怨んでいたと思う。

 そうして……私の事も……

 プロメテウス様から逃げるのに必死で、深く考えもしなかった。


「プロメテウスの血をどれだけ、お前は浴びたんだろうな」


 ハデス様は嗤う。

 その声を聞いて私はゾクリと身を振るわす。

 プロメテウス様の血‼️

 神の血‼️

 プロメテウス様のお世話をする事で私は、神になっていた?


「嘘……そんな……でも……私には神々の力が無いわ」


 そうだ私が神だとするならば、神に相応しい力があるはずだ。

 例えばゼウス様の様に雷を槍としてドラゴンを倒す力が……

 例えばポセイドン様の様に海を割り、海流を操る力が……


「お前はオリンポスの館に行ったろ。ポセイドンの館にも行ったな」


「ええ。どちらも廃墟になっていたわ」


「父親に連れて行ってもらわなければいけない場所だ。神でない出来損ないの半神半人(デミゴット)では一人で行く事は出来ない。それが神の証だ」


 神?


 私が神?


「お前は世界を渡り歩いた。気が付いていないようだが、お前の訪れた地は栄え緑が復活した」


「嘘……まさか……」


「お前の名の通り、お前はフローラ(植物の神)なのだ」


 しばし、私は沈黙する。

 そう言えば思い当たる事があった。

 確かに私が訪れた地は緑が復活し、麦や米が豊作となった。

 ただの偶然だと思っていた。

 私の豊穣神としての力だった。


「ゼウス様やポセイドン様達は皆貴方に殺されたの? 神殺しは貴方なの? プロメテウス様の復讐ではなかったの?」


「奴らは傍観者だ。神から火を奪い人に授けた。その結果をただ観測している。その結果、この星は崩壊し始めた。彼らは火から文明を築き上げ原子炉や核ミサイルを造り、後一歩で滅びる所だ。私は神の命を使って直しているだけだ」


「復讐ではなくて? 冥界に追いやられた。本当なら貴方が主神になるはずだったのに」


「ああ……ある意味復讐だな。愚かな兄達の尻拭いが復讐ならな」


 ハデスは吐き捨てる様に言う。


「プロメテウスは良くやったよ。自分は手を汚さずに私に【神殺し】をやらせたのだから」


 ハデスは携帯を弄くった。

 携帯からニュースが流れる。

 第三次世界大戦が始まったとアナウンサーが告げ、核シェルターに避難するように人々に告げる。


「火を与えた結果がこれだ‼」


 怒りに震える声。


「ここも危ないんじゃない?」


 私は辺りを見渡した。

 気が付けば皆死んでいる。

 食事に毒が入れられていたのだ。

 眠る様に死んでいる。

 せめてもの慈悲なのか?


「何処に逃げても無駄だよ。核ミサイルに誘発され原子炉も誘爆する」


 ハデスはスイッチを押した。

 壁一面に衛生からの地球の様子が写し出された。

 キノコ雲が世界を覆い、星を包む。


「世界が滅びる」


 ハデスは静かに世界の終わりを告げた。


 眩しい光が辺りを包み、私は気を失った。






 ……?


 誰かに名を呼ばれた?


 目を開ける。


 壊れた星の欠片が私の回りを回っている。


 土星の輪の様だと、ぼんやり思った。


「フローラ」


 また名前を呼ばれる。


 見るとプロメテウスが私の目の前の岩に立っていた。

 緑の瞳が私を見上げる。


 ああ……


 彼の瞳は新緑の色だったのね。


 ?


 彼はこんなに小さかったかしら?


 いいえ


 違うわ私が大きいんだわ。


 まるで巨人みたいね。


 ああ……そうだ。


 プロメテウスの血を浴びたから私は神に成ったとハデスは言っていたな。

 それなら私の本来の姿がこれなんだろう。

 これで蛇の下半身なら中国の女神女媧だわ。

 わたしはフフフと嗤う。

 崇める者もいない神に何の価値があるのか?

 私はプロメテウスに手を伸ばす。

 プロメテウスはヒラリと私の手のひらに乗った。


「ねぇ、これがあなたのしたかったこと? 【神殺し】復讐?」


 プロメテウスは首を振る。


「ヘラクレスが私を訪ね解放した日を覚えいるか?」


「お父様が殺された日を忘れるはずないわ」


「そうだね」


 プロメテウスは目を反らす。


「あの日私はヘラクレスに予言を告げた」


 ――― ゼウスがテティスと結婚すると父より優れた子が生まれ、ウラノスがクロノスに、クロノスがゼウスに追われたように、ゼウスも追われることになる ――――


 全ては予言通り。

 古き世界は駆逐され、新しい世界が生まれる。


「さあ。君が愛した。世界を創造してくれ」


 プロメテウスはそう言うと、【神殺し】で胸を貫いた。

 彼の体は、光の粒子となり消えていった。


「狡い人。怨ませてもくれない。私に全てを押し付けて。狡くて悲しい私のプロメテウス(お人形)


 私の左目から一筋の涙が零れる。


 この時初めて私は彼を愛していた事に気が付いた。


 彼は咎人で、人類の為に火を盗んだ。


 そして……人は愚かにもこの世界を滅ぼした。


 愚かな人類、それでも人を愛した愚かなプロメテウス。


 彼は人の愚かささえも愛していた。


 ならば、私も愛そう。


 愚かな人と愚かなプロメテウスを……


 私は歌う。


 優しく悲しい子守唄だ。


 闇の中、私の体は光り輝きやがて世界が産まれる。










「どうした? ローラ?」


 お父さんが私の頭を撫でる。

 どうやら私はシーツを干した後、庭に座りこんで居眠りをしていたらしい。


「悲しい夢でも見ていたのか?」


 お父さんが私の涙を袖口で拭く。

 私は泣いていたようだ。


「何か悲しい夢を見ていたの。でも思い出せない」



「夢ってそう言うものだよ。ここの所、夏休みでお客様が多かったから。少し疲れているんだろう」


「そうかも知れないわね」


 買い物から帰った母は馬車から荷物を下ろしながらお父さんと私の会話を聞いていたのだろう。


「少し休んだらいいわ。今日はお客さんが一人しかいないから明日は休むといい」


 お母さんは私に微笑むと言った。

 私達親子は朝食付きの宿屋を経営している。

 今は夏休みも終わり。お客さんもずいぶん減ったが。

 また暫くすると収穫祭があり、次は新年祭だ。

 女神フローラが世界を造り出した日が新年祭だ。

 またの名を【プロメテウスの日】とも言われている。

 なぜ【プロメテウスの日】と言われているのか分からない。

 プロメテウスが女神を生み出したからとも、人間を生み出したからとも言われているが、プロメテウスが何の神様なのか誰も知らない。

 兎に角、この港町は人の出入りが多く。

 私達親子はそこそこ豊かに暮らしている。


 チリン♪


 魔法ベルが鳴って今日のお客さんが来た事を告げる。


「いらっしゃいませ」


 私は宿の受け付けに飛んで行く。

 若い男がカウンターの所に立っていた。

 私は微笑み。


「いらっしゃいませ。今日ご宿泊のテウス様ですね」


「ああ。一月ほど泊まる」


 彼はサラサラと名簿に名前を書いた。

 剣を差している所を見ると、冒険者のようだ。

 夏から秋にかけてクラゲの魔物が陸に上がる。

 領主様は毎年冒険者にクラゲ退治を頼んでいた。

 彼も依頼を受けた冒険者の一人なんだろう。

 フードを深く被って顔は見えない。


「はい。お部屋はこちらになります」


 私は2階の部屋に案内をしてドアをあける。

 風が吹き、カーテンを揺らす。

 彼はフードを下ろす。

 濃いい茶色の髪で緑の瞳だ。

 ふと私は彼を知っているような気がした。


 前に会っただろうか?


「良い部屋だね」


 彼は笑った。


 彼と私が恋に落ちて結婚するなんて、この時の私はちっとも思いつきもしなかった。






             ~ Fin ~






 *************************

  2022/10/8 『小説家になろう』 どんC

 *************************




  ~ 登場人物紹介 ~


 ★ フローラ (半神半人の為、歳は結構いってる)

 主人公。アイトーン神と巫女との間に生まれた半神半人。

 父であるアイトーン神の手伝いをしている。

 父との暮らしに不満はなく穏やかに暮らしていた。


 ★ アイトーン (神)

 フローラの父。ゼウスにプロメテウスの罰を与えるよう言い付かる。

 大鷲に変身してプロメテウスの内臓を引きずり出す罰を与える。

 娘と穏やかに暮らしていたが……


 ★ プロメテウス (巨人族)

 人間に火を与えたために罰を受ける。

 クラトス神とビアー神にカウカーソス山の頂の岩に磔にされる。

 ヘラクレスによって助け出される。


 ★ ヘラクレス (半神半人)

 プロメテウスを助けて、ある予言を聞き出す。


 ★ ゼウス (主神)

 プロメテウスに罰を与えるようアイトーン神に命じた。

 空を支配する神。武器は雷。メチャクチャ浮気してる。



 ★ ポセイドン (海を支配する神)

 メチャクチャ浮気してる。



 ★ クラトス神とビアー神 (神)

 プロメテウスを捕まえてカウカーソス山の頂の大岩に磔にした。


 ★ ハデス (冥界の神)

 冥界の王。浮気は一回だけしてる。

 本来なら彼が主神となるはずが、兄2人に良いところを持っていかれた(笑)




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[良い点] 世界の崩壊と再生に絡む、ちょっと切ないお話でした。 面白かったです。 [一言] 事件は大体ゼウスのせい。 たまにポセイドン。 ハデスさんは神の中で数少ない良識派なので、世界の再生を新しい神…
[良い点] 神話の連想として面白かった。 [気になる点] ハデスが長男、ポセイドンその下、ゼウスが末弟ですね。
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