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戯曲・引きこもり少女vs引き出し屋  作者: ロッドユール
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形のない世界

かなえ「形がないんですよ。私という形がないんですよ・・」

引き屋「・・・」

「なんだかもう自分の形が分からなくなるんです」

「・・・」

「ものすごく不安になるんです。不安の海に溶け込んでしまうような、私という寄る辺がないんです。支えがないんです。ただ不安の中にどこまでもどこまでも溶けていっちゃうんです。その不安でさえ、はっきりとしないんです。悲しみも、寂しさも絶望感も、形がないんです。それが全部溶け合って、全部が溶けて混ざり合って、もう堪らなくなるんです 不安なんです。ものすごく不安なんです。堪らなく不安なんです。不安なんてもんじゃないんです。掴みどころのまったくない何もない漠然とした、何かもこもことした不安定の中で、過去も未来もありとあらゆる全ての方角の空間に掴むところがなくて、不安の宇宙空間をふわふわとあてもなく彷徨っているような、不安と寂しさと絶望がもうぐちゃぐちゃで、それで、それで、自分という形がよく分からなくて、それで、そして、もう、わけ分かんないんです。自分がわけ分かんないんです」

「それ・・、分かる気がする・・」

「全てが漠然としていて、形が無くなっちゃうんです。他者や社会と繋がりながら関係を持ちながら、人って自分の形を確認しているんですよ。自分の立ち位置を計っているんですよ。だから、一人でいると、私という存在がなくなっちゃうんです」

「・・・」

「生きていけないんですよ。人って、やっぱり、社会とのつながりとかそういうのがなかったら生きていけないんですよ。単純なパンや水で生きていける生き物じゃないんですよ」

「分かります。その感じ。めっちゃ分かります。分かり過ぎるくらい分かっちゃいます。僕も辛かったなぁ、引きこもっている時・・」

「人間は社会性を持った生き物なんです。だから、一人でいるとダメなんです。なんかダメなんです。どうがんばっても、どう考えてもダメなんです」

「・・・」

「引きこもりながら、一人で強く生きていこうとかしてもダメなんです。なんかダメなんですよ。どうしてもだめなんですよ。そうできる人もいるかもしれないけど、でも、普通の人は出来そうで絶対出来ないんですよ。やっぱり、人や社会との繋がりの中でしか人は生きられないんですよ」

「・・・」


 沈黙・・


かなえ「でも、怖いんですよ」

引き屋「えっ?」

「人が怖いんですよ・・」

「・・・」

「怖いんですよ。人や社会と繋がろうと思っても、人が怖いんですよ・・」

「・・・」

「だから、だから・・」

「かなえさん・・」

「怖いですよ。人は実際に怖いですよ。私の思い込みとか被害妄想とか神経質とかじゃなくて、本当に実際人は怖いですよ。すぐいじめてくるし、すぐバカにしてくるし、すぐ仲間外れにしてくるし、私を傷つけようとしてくるし・・。そんなの怖いに決まってるじゃないですか。ちょっと変だとか、大人しいとか、そんなんですぐいじめてくるんですよ。それでも私が悪いんですか。私が弱いんですか」

「・・・」

「怖いですよ。人が怖いですよ。いじめるんだもん。バカにするんだもん。笑うんだもん。見下すんだもん。変な目で見てくるんだもん。空気が凍りつくんだもん。怖いですよ。怖いですよ。人は怖いですよ。ううっ」

「泣かないでください。僕まで泣けてきます・・」

「人が恋しいけど、人が怖いんです。寂しいけど、人が嫌いなんです。でも人恋しいんです・・。うううっ」

「分かる。分かる。めっちゃ分かる」

「うううっ、うううっ」

「僕も泣けてきました。うううっ」

「怖いですよ。人めっちゃ怖いですよ。なんでみんな普通に友だちとかできるんですか。訳分からないですよ。なんでみんな当たり前に付き合ったりできるんですか。私は絶対に無理ですよ。人怖すぎですよ」

「うんうん・・」

「絶対に人って、人と関わらなきゃ生きていけないじゃないですか・・、いけないんですよ」

「はい・・」

「でも出来ないんですよ。出来ないんですよ。どうがんばってもできないんですよ」

「うううっ」

「できないんですよ」

「ううっ」


 沈黙・・


「多分、私を救ってくれる理解のある素晴らしい人はいるんだと思う。でもその人と出会うまでに、どんだけ傷つかなきゃいけないかと思うと、やっぱり、怖い・・。絶対に外に出れない」

「はい・・」

「だから・・、やっぱり・・」

「・・・」

「死・・」

「ううっ、やっぱり、そこに行きついちゃうんだよなぁ・・」


 沈黙・・




 ――――




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