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戯曲・引きこもり少女vs引き出し屋  作者: ロッドユール
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何しに来たんですか

「僕はこの年でまだアルバイトなんです。もうすぐ四十ですよ。しかも、もう思いっきり底辺労働です。僕みたいな学歴も職歴も、経歴も、社会性も、適応性もない、元引きこもりのダメ人間が生きていくなんて、もう底辺労働ぐらいしかないんですよ。でも、底辺労働ってほんと底辺なんですよ。ほんと最低なんですよ。労働は当たり前にブラックだし、労働条件も賃金も当然最低です。しかも、ほんとに汚いカスみたいなじじいやばばあが威張ってる、クソみたいにほんと汚い世界なんですよ。そんな世界は基本的に誰でも採用なんです。だから、もう、ますますほんとクソみたいな奴ばっかり集まって来るんです。もういいよってくらい集まってくるんです。どこにいたんだってくらいクソみたいな奴が普通にやって来るんです。同僚はガラが悪い低能なクソガキとか、頭のねじのぶっ飛んだほんと頭のおかしな奴ばっかりだし、ほんとリアルに知的障害とか発達障害とか人格障害とか、精神障害とかそんな奴らがゴロゴロ普通にいるんです。人のこと言えないですけど、もう、まともな意思疎通どころか常識も良識も通用しないような連中なんです。一緒にいるだけで、もう、こっちが頭おかしくなりそうになるんですよ」

「いや、あの、だから・・」

「でも、そんな無茶苦茶な労働に耐えたって社会的にはやっぱり底辺労働者なわけで、日々常に、劣等感と敗北感ですよ。人に何されてんですかって訊かれて、ほんと一瞬ためらいますもん。ほんとのこと言っていいのかって。言ったらバカにされるんじゃないかって。いつも不安でいっぱいですよ。もう全てが最低ですよ。最低過ぎて涙も出ませんよ。そんな中で生きていかなきゃいけないっていう、その現実がもうほんと堪りませんよ」

「ていうか、だからなんで私があなたの悩み聞いてるんですか」

「もうほんと最低だよ、俺の人生。ほんとめっちゃ、アホなおばはんに、俺バカだって思われててさ。ほんとめっちゃアホなんだよそのおばはん。だけどさ俺のこと、めっちゃ見下してくんだよ。しかもさ哀れむようなさ、痛々しい奴に接するみたいな見下し方してくんだよ。もうすんごい屈辱。ほんと最低だよ。俺の人生・・」

「泣かないでください」

「ほんとになんで、ああカスみたいな奴に限って、人を見下すんだろうな。ほんとどうしようもない屑みたいな人間い限ってああ威張るんだろうな。ほんとカスみたいな奴らなんだよ。頭も悪いし、心も汚いし、道徳、倫理、モラル観ゼロ。なのにさ。めっちゃ威張っててさ。人のこと露骨に見下して来るんだよ。ほんとに毛細血管みたいに全身に張り巡らされた僕の全神経が震えるくらいの屈辱だよ」

「だからなんで私があなたの悩みを聞いているんですか。私を助けに来たんじゃなかったんですか。何しに来たんですかあなたは」

「もうどうでもいいよこんな人生。結婚どころか彼女も友だちすらもいない、フリーターの元引きこもりの三十八歳の男って。誰か殺してくれって思うよね。相模原の事件あったじゃない。障碍者は役立たずだから殺したってやつ。俺もついでに殺してってくれって思うよ」

「そこまで自分を追い込まなくても・・汗 ていうか、だからなんで私が励ましてんですか。しっかりしてください」

「もう、俺ダメだ」

「頭抱えないでください。大丈夫です、人生何とかなりますよ。だからなんで私が励ましてんですか」

「ううううっ」

「ほんと大丈夫ですか・・汗」

「うすうすは気付いてたんだよね。もう俺なんかダメだって。でも、それは見ないようにしてたんだ。でも、今、思いっきり見ちゃったよ。真正面からもろに見ちゃったよ。自分のダメさ加減。自分の底辺さ加減。惨めさ加減・・」

「ほんとあなた何しに来たんですか・・汗」

「それに、引きこもりから脱して、今は働いてはいるけど、結局僕は今でも引きこもりなんだ。職場でもさ、人と話すのは嫌だからほとんど人と話さないし、接触は避けるし、人は怖いし、めんどくさいし、何も変わらないんだよ。友だちだっていないし、恋人だっていないし、結局、孤独で一人ぼっちなんだ。しかも、なまじ外に出て人と接しているから、余計そのことに対する劣等感とか、疎外感とか半端ないし」

「それは分ります。一人でいる時より、誰かといる時の方が孤独を感じます。しかも劣等感と疎外感のおまけ付きで・・」

「そう、人といる時の方が孤独感半端ないんだよ、だから、引きこもりたくなるんだよ。誰とも会いたくなくなるんだよ」

「それはとっても分かります。だから私は外に出られない・・、人と接するのが怖い・・」

「でもさ、結局そんな思いまでして働いても、月に十二、三万位にしかならないんだよ。そこから、さらに、所得税だ、住民税だ、県民税だ、国民健康保険だ、年金だって、三万も四万も五万も引かれて、さらに何か買えば消費税。生活できるかっ」

「社会制度に怒鳴らないでください」

「鬼か。この国は鬼か。やってられないよ。もう」

「国に怒鳴らないでください」

「しかも、金持ちは色んな優遇政策受けられて、しかも様々な税金対策だってできる。所得に対する税率だって貧乏人の方が高いんだぞ。やってられるか」

「ティッシュの箱に八つ当たりしないで下さい。ああ、箱が潰れちゃった」

「くそうっ、くそうっ、くに~、くに~」

「国に叫ばないでください」

「もう、最低だよ。世の中の全て最悪だよ」

「なんか、私絶対外に出たくなくなってきた・・」

「うううっ、うううっ」

「めっちゃうなだれちゃってますけど・・、ほんと、大丈夫ですか・・汗」

「はっ」

「どうしたんですか?」

「なんで僕はこんな話してんだ」

「それは私が聞きたいですよ。ほんとなんなんですかあなたは」

「すみません。つい興奮して我を忘れてしまいました」

「忘れ過ぎでしょ。あなたは私を外に出しに来たんでしょ。目的忘れ過ぎですよ」

「はい、そうでした。完全に自分の目的を喪失していました」

「喪失というか完全に自分を見失ってましたよ。というか、あなたの引きこもり肯定論はあっさり崩れましたよね・・汗 あなた自身の手で・・」

「・・・、すみません・・」

「そこは素直なんですね・・汗」

「ほんと何やってんでしょうね・・」

「元気出してください。っていうかだからなんで私が励ましてんですか」

「だからダメなんでしょうね・・。だから職場でも・・」

「いや、だからそれはもういいです。マイナスモードに入るのやめてください。あなたは私を外に出しに来たんでしょ。なんで私があなたの、悩みを聞いてるんですか。逆でしょ。しっかりしてください。私を外に出してください。アドバイスください。励ましてください。道筋を示してください。ていうか、だからなんで私があなたを叱咤激励してるんですか」

「すみません・・」

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