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それぞれの仕事

「それでは、本日の主賓をお呼び致します」


『パチパチパチ』


ダンスホール内で拍手が響きわたる。


俺は腰かけたソファーで目を瞑りその状況を耳で確認する。


『二分前』


「それでは、今到着致しました。今回の主賓、アメリカのIT企業社長ローマン様です。どうぞ」


「ミナサン。ハジメマシテ。このパーティーをシテクレテアリガトゴザイマス」


『パチパチパチ』


「ソレデハ、ミナサン。タノシミマショウ」


『一分前』


その後、大きなBGMが響き渡り、ローマンが壇上から降り、参加者に挨拶を交わす。


「ローマン様。今の世界情勢をどう見ておりますか?」


「ローマン様。私は御社の取り組みに興味があり是非お話を」


「お酒は何をお飲みになられますか?」


「今日の来日の理由は? 予定が無いようでしたら次の場所も用意しておりますがいかがでしょうか」


「I don't want to be talked about all at once (一度にに話されても困るよ)」


『後、三十秒』


「申し訳ありません。皆さま。ローマン様が困られております。一人ずつお話を」


『5』


『4』


『3』


『2』


『1』


『バンッ』


来賓館の電気が切れ、真っ暗になる。


「きゃぁぁぁぁ」


「どうした。停電か」


「非常灯は。おい、今すぐ明かりを」


来賓館中の人達が騒めきはじめる。


『今だ』


俺は、目を開ける。暗闇の人々を避けるようにダンスホール入口まで走り抜ける。


そして、スマホで確認した二階の階段へと向かう。


確認した、警備員達も急な暗闇に目が慣れていないようで俺を確認出来ていない。


その隙に二階の警備員をすり抜け階段を駆け上がる。


二階に居た警備員も混乱している。


「おい、ライトはまだか」


「すいません。落としてしまいまして今探して」


俺は、使われる予定の無い部屋に入ると、


『バンッ』


来賓館の照明が復帰し、俺は華と約束したある場所で待機する。



※※※



『来賓室一角』


「今の停電は?」


仮面の被った男性ソファーから立ち上がり、その場で叫ぶ。


「落ち着いて下さい。久我様」


黒服のスーツを着た男は冷静な声で制止する。


「しかし……」


「あなたが狙われている事は重々承知しております。ですがこの警備体制です。そうそう相手だって手をだせませんよ」


「ふぅ。あなたが言うのならば……」


久我こと、久我実がその場のソファーに腰かける。


「さて、久我様。今日は商談と参りましょう」


黒服の男はにやにやと、久我へと微笑みかける。


「あぁ、それで今日は?」


「はい、今回はある借金の肩に預かった『少女』でございます。年齢は12歳。必ずご子息に気に入って頂けると」


「そんな事はいい。金額は? いくらだ」


「そうですね。それでは一千万でどうでしょう?」


「一千万!! この前は五百万じゃ無かったか?」


「久我様。相場は上がるものですよ。それに……ご子息の性癖がバレたら大変かと」


「分かった。それなら……」


「承知しております。ご子息が『破損した』先日ご購入の商品はこちらで処分致します」


「それなら、交渉成立だ」


「かしこまりました。それでは、こちらにサインを……」


「あぁ……」


久我は、黒服に差し出せれた紙にサインをする。


「交渉成立です。しかし、よいご趣味のご子息をお持ちになりましたな」


「うるさい。黙れ」


久我は、紙とペンを黒服に投げ捨てた。


黒服はにやつきながら紙を回収する。


「失礼致します」


仮面を付けた少女が部屋の中に入室する。


一緒に運ばれるサービスワゴンの上にはティーポットと菓子が並んでいる。


「おい、俺は頼んでないぞ」


久我はこの場を見られたくないような反応をする。


「失礼しました。久我様。こちらが今回の商品です」


「この子が?」


「えぇ。さぁ、挨拶を」


「初めまして。久我実様……」


最低限の挨拶をすると、少女はサービスワゴンに戻り、お茶をティーカップに注ぐ。


「ははは、もうこの子は分かっているのですよ。どのような扱いをされるのかを」


黒服は下品な笑いを部屋中に響き渡らせる。


給仕の少女は、サービスワゴンで用意したティーカップに注いだお茶と菓子を銀色のトレイに乗せ久我と黒服のテーブル前に置く」


「どうぞ……」


給仕の少女が離れようとすると、


「おい」


ピクっと給仕は反応する。


「何でしょうか……」


「このお茶、お前が飲んでみろ」


黒服は、テーブルに置かれたティーカップを少女に差し出す。


「しかし、このお茶は……ご主人様の為にご用意した……」


「いいから飲め」


男は、怒鳴りつけるように少女に言い放つ。


「おい……」


久我は、黒服に恐る恐る声をかける。


「久我様。もしかしたら毒が仕込まれているかもしれません。大丈夫です。毒が入っていてこの子が死んだ場合こちらで処分致しますので。費用はすべてこちらで持ちます」


「……」


少女は黒服に差し出されたお茶を手に取る。


「さぁ、飲め」


少女は、ティーカップに口をつけ入れたお茶を一口含む。


飲んだ少女は、特に変化は無くその場に立ち尽くす。


「大丈夫そうだな。さぁ、そのお茶を私に」


「はい……」


一口手を付けた、カップを黒服は少女から受け取る。


「それでは、久我様。お茶会に興じましょう」


そう黒服が言い放つと、黒服と久我は用意されたティーカップに口をつける。


「さて、この後の段取りを……」


黒服の男がそう言いかけた時だった。黒服は、喉元を手でおさえ苦しみ出す。


「ぐはっ」


テーブルに倒れこみ血反吐がまき散らされる。


黒服は、その場で動かなくなった。


「どうして。うっ……」


久我は、急に体の自由が効かなくなる。


「ふふふ……」


仮面を付けた、給仕の少女がその場に倒れる男たちに笑いかける。


※※※


『一時間前』


「さて、どうしようか……」


私は、考えていた。


どの給仕に変装しようかだ。


変装するのは、女性で来賓室を行き来する人でないといけない。


しかし、この会場の大きさだ。


どの人が、その給仕に属しているかはそう簡単に把握できない。


「時間が無い」


紋々としながら、来賓館を回っていると、


「グスン……」


給仕の女の子が、柱の隅で泣いている。


しゃがみ込んで泣いている少女は給仕としては幼く感じた。


違和感を覚え、私は少女に声をかける。


「ごめんなさい。何かありましたか?」


「えぇ……」


しゃがみ込んでいた少女が、私の方へ振り返る。


少女を観察する。


やはり幼く感じる。


しかし不釣り合いな手首の青あざが今の少女の状況を暗示していた。


「誰かに何かされたの。お姉さんに聞かせて」


「駄目だよ……。私、殴られる……」


「……」


少女の会話に、小さかった時の私と重ね合わせる。


私も、そうだった。強大なものが立ちはだかって何も出来なかったあの時を。


けど今なら、


「私が、あなたを助けてあげる」


「えっ……」


「大丈夫。これでもお姉ちゃん強いからね」


「けど……、もしばれたら……」


「殺されちゃうね。たぶん私も、あなたも」


「!!」


「けどね、この後に希望がないとしたら、私がもしあなたならその人にかけるかな」


「かける……?」


「人生ってね、運だと思うの。何処に生まれて、どんな生活をするか、そしてどう死んでいくか。全部が運」


「……」


少女は黙り込み、私の言葉に頷く。


「もし、あなたがこの先の未来を変えたいなら私に託してみない? 今の未来が絶望しかないのなら」


少女は、考え込む。そして……


「わかった。お姉ちゃん。私を助けて……」


「じゃあ聞かせて。今のあなたの状況を……」


少女は、順を追って話してくれた。


親に借金があった事。


借金の形に、この少女が売られた事。


そして、今日別の家の元で使用人として働くこと。


「……」


私は、怒りに震える。私もそうだった。


あの時、助けて貰えなければ私も少女のようになっていた。


「あなたの状況は分かった。それじゃあ二つお願いしてもいいかな?」


「お願い?」


「一つは、私のこの服を着てパーティーに参加していて」


「うん」


「そして、もう一つは私の事を誰にも話さない事」


「なんで……」


「私ね。ここにいる人たちに知られちゃいけないんだ。もし話したら……」


「話したら……」


「私は、あなたを殺さなきゃいけない」


私は少女を威圧する。


「!!」


少女は、恐怖に顔を歪ませる。


そして、『うん』と頭を下げる。


「よし。じゃあ交渉成立。そうしたら給仕の服を探して、後はこのドレスをあなたにも着れるようにしないと」


「けど、そんな時間あるの?」


「大丈夫。お姉ちゃん意外と器用なんだよ」


そして私は、給仕室に忍び込み、給仕服を盗み、更衣室に待機させ少女と服を取り替える。


しっかりと、青あざのペイントアートを手首に塗る。


「あっ、これあげる」


私は、給仕室で見つけたシュシュを少女の両手に付けてあげる。


「青あざ、目立っちゃうからそれで隠して。それじゃあ私は行くね」


「お姉ちゃん!!」


私は、少女のに顔を向ける。


「ありがとう」


「それは、私があなたを助けられたときに取っておいて。それじゃあ約束忘れずに」


「うん」


私は、来賓館を歩いていると……


「おい居たぞ」


黒服の男たち数人に囲まれる。どうやら青あざで判別しているようだ。


「よくも逃げやがったな」


私の体にボディーブローを浴びせる。


「うっ……」


おい、行くぞ。こんな風に痛い事されたく無ければ言う通りにしろ。


「わかりました……」


私は、黒服に導かれ目的地への通行券を手に入れた。



※※※



「残念だったね。久我実さん」


仮面の少女は、クスクスと笑いながら久我に近づく。


「なんで……。彼が飲んだお茶は君も飲んで……」


久我は苦悶の表情を見せる。


「えぇ、飲みました。彼に渡された直後はあのお茶に毒は入ってません」


「じゃあ、どうやって」


仮面の少女は、唇に指をさす。


「まさか……」


「そのまさかです。私の下唇に毒を塗っていた。彼は私の口をつけた部分を使ってお茶を飲み、今に至るわけです」


「しかし、彼がその飲み口の場所を使うとは……」


「私は彼に会った直後からそうするだろうと思っていました。しかしあなたの言う通りそうしないことも考えられる。その時は久我さんが麻痺で倒れた時に不意を突いて殺そうと考えてました。


淡々と少女は語る。


「しかし……、私の毒はどうやって……、お茶を飲まされるのも私の方を差し出されていたら……」


「それは、単純です。あなたのカップの半分の縁に麻痺毒を塗っておいただけです」


「半分って……逆のコップの縁を使っていたら……」


仮面の少女は、首を振る。


「あなたは、左利き。ティーカップは片方しか持ち手がない。使う利き手側のカップの縁に塗っておけばいい。もし、私が飲ませられれば右手で飲めば毒は避けられる」


久我は少女の言葉に恐怖する。


「きみは……いったい……」


「知る必要はないです。どうせ死ぬんですから」


少女はスカート中に仕込まれたレッグホルスターからナイフを取り出す。


「じゃあ、教えて。久我実。久我美佐子の場所を……」


仮面を取り姿を現した夢咲華は、久我実の胸元に左手をかけ、右手に収まったナイフを首筋に当てた。


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