来賓館にて
俺は、来賓館の構造を確認する。
来賓館は、資料のあった通り二階構造で一階はダンスホール。
二階は、各部屋が用意されて応接室が二十室ほど用意されていた。
二階に向かう階段は、警備員に閉鎖されており確認はできない。
通路を通る貴婦人たちを確認する。
皆、入場時に渡された仮面を付けている。
「そうだよな……」
今回は表向きは、ある富豪歓迎会として催されている。
参加者は歓談を楽しんでいた。
「さてと……」
俺は、来賓館を一通り確認しているとポケットのスマートフォンがブルブルと揺れている。
首元に付けられたチョーカー型の装置に手をかける。
「……晴翔。聞こえる……」
俺は、一言「あぁ」と連絡先の慶に答える。
「これ以降は、一方的に話す……。ここのセキュリティに侵入できた。今、見取り図を送る」
俺は、スマートフォンを確認する。送られた資料には、警備人の人数から、セキュリティポイントなどが細かく書かれている。
「それと、今回の久我の件だけど……、ここで会談が行われる予定のようだ……。怪しいと思う所……。調べたから確認……して」
確認すると、その来賓室の数か所にマーカーが引かれていた。
「最後に、来賓室に向かう際はその場所の最短距離の場所は警備がかなり厳重……。遠回りにはなるが迂回ルートを進める……」
「わかった」
俺は、再度一言告げる。
「それじゃあ、予定通り……、開始一時間後……に」
『ブツッ』
一方的に電話は切られる。
時計を確認する。パーティ―開始十分前だった。
「さて、戻るか……」
俺は、踵を返してパーティ―会場へと戻る。
※※※
『パーティー開始五分前』
「晴翔、遅い」
華は、腕組みをし俺を睨みつけながら話しかけてくる。
「悪い。慶の報告で時間がかかった」
「はぁ……」
華は、ため息をつきながら腕組みを解く。
「それよりも、確認できたか? ターゲットの久我は」
「ごめん。多分此処にはいない」
「なぜそう思う?」
周りを確認する。仮面を被った数百人の人たちで埋め尽くされている。
「体格、身長、癖、資料の情報を照らし合わせたけど一致するのは居なかった」
華は、平然と話す。
この数百人をこの短時間で調べる能力。華の分析力・洞察力は人一倍優れていた。
「じゃあ、やっぱり久我は二階にある応接室の何処かか」
「多分ね。けど検討はついているんでしょ」
俺に華は、質問を投げかける。
「あぁ、華のスマホに慶から送られてきた資料を送っておく。警備が厳重な場所が一か所だけある」
華は、スマホのデータを確認する。
「なるほどね。今回の仮面の件はカモフラージュ。応接室に居て、私たちを攪乱しようとした」
華は分析を始める。
「そうだな。そうしたら……」
「分かってる。それじゃあプランCで」
「あぁ」
華は、ポケットにスマホをしまうと俺に背を向ける。
「そうしたら、私は此処を離れる。準備をしないと。それじゃね。晴翔。また一時間後に」
そう言葉を残した華は、右手を挙げながら来賓館のダンスホールを後にする。
「それじゃあ、俺も……」
俺は、パーティーの開始を待った。
※※※
程なくして、パーティーは開始される。
ダンスホール内に置かれたテーブルには、高級な食材で作られた料理、酒が給仕によって置かれていく。
そして、中心部に広がるスペースには貴婦人達が、ダンスをしている。
俺は、近くに設置されていたソファに腰を据える。
俯瞰しながら、俺はふと物思いにふける。
「呑気なものだな……」
平和ボケしている。
安全なこの国の人間は、自分に何かが降りかかることなんて感じていない。
俺たちとは違う。
俺たちは一歩間違えれば死と直結する。
華も慶も壮馬も。
華が、車の中で話していたことを思い出す。
俺も、華と同じだ。
俺だって使い捨ての駒なんだと。
そんな風に、考えていると
「すいません。あの……」
俺に一人の仮面を付けた少女が話しかけてくる。
「はい? 何か?」
話しかけられた少女に仮面越しに微笑みかける。
少女は、俺と同い年ぐらいで白いドレスで清楚な雰囲気が感じられる。
「すいません。少しお悩みのようでしたので声をかけてしまいました」
おしとやかな声を俺に向ける。
「いや、すいません。こんな盛大なパーティーに辛気臭い雰囲気を出して」
俺は、少女に頭をさげる。
「いえいえ。体調が悪いかと思いましたもので安心致しました。あの、失礼かとは思いますがお名前は……」
「榊 圭吾です」
俺は、渡されたプレートの名前を少女に伝える。
「圭吾様ですね。私は小夜。神楽坂小夜です。それでは圭吾様。この夜を楽しみましょう」
そう言うと、小夜という少女はにこっと口元をつり上げ、その場を離れパーティの人ごみの中に消えていく。
「今日は……、女難の相でも出ているのか……」
俺は、腕時計を確認する。任務開始時間十分前だ。
「さてと、俺も準備するか……」
俺はソファーに、もう一度腰掛けるとゆっくりと目を閉じた。