SANGUIS(サングイス)
創一郎は、装飾さえた椅子にドスンと座る。
俺たち4人はその場の重圧に支配されている。
「さて、今回の依頼だ」
『ドスン』
丸いガラステーブルに厚みの資料が散乱する。
俺は、その中の一枚の資料を手に取る。
そこには、ある集まりに関する名簿の一覧が記載されていた。
創一郎は、話始める。
「今回の、依頼はある要人の暗殺。そして、本日あるパーティにその男は現れる」
『パラッ』
ガラステーブルに写真が二枚置かれる。
「要人の名前は、久我実、久我美佐子の夫妻二人だ」
「久我……」
聞いたことのある、苗字に俺は『ピク』っと反応する。
「何だ。晴翔知り合いか」
俺に対して、創一郎は右手で顎を摩りながら問いかける。
「いや、同じクラスに同じ苗字の奴がいたんで」
「そのまさかだ。この夫妻の子供はお前と同じ学校に通っている」
「それじゃあ、その子供も暗殺するのか?」
俺は、創一郎に問いただす。
「いや、今回はこの二人の暗殺だ。その子供は対象外だ」
「そうか……」
少し俺は安堵していた。
知っている人間に手を出すときには、少なからず危険が増すからだ。
「それで、私たちはどう動けばいいの」
華は、創一郎に問いかける。
「まず、晴翔、華は現場へ潜入してもらう。そして鉄はその建物の情報収取。壮馬はある場所へ向かって待機してもらう」
「また、待機かよ。俺必要か? 晴翔と華だけでも全然……」
「俺の指示に口を出すのか?」
創一郎は壮馬を睨み付ける。
「わ、わかったよ。創一郎さん……」
壮馬は、恐る恐る答える。
「それじゃあ、晴翔、華は此処に待機。鉄はこっちの部屋を利用しろ。最後に壮馬は後ほど場所は伝える。物を用意して外で待機しろ」
『了解』
そして、俺たちは各自の持ち場に向かうため席を立ち解散する。
「おい、華。お前は今日のパーティー参加の為に着替えをしてもらう。そっちの部屋で着替えこい」
「わかった。親父さん」
華は、創一郎の指示に慣れているかのように別部屋に入る。
その場には、俺と創一郎二人になる。
「おい、晴翔」
「なんですか、親父……」
「お前、何かあったな。学校で」
「何かあったとは……」
「そのままの意味だ。お前が学校の生徒の名前なんて覚えるような奴じゃない。今日の久我の息子と何かあったか」
「実は……」
俺は、学校で起こった出来事を報告する。
久我との事、そして学校の姫里という生徒に一杯喰わされたこと。
俺は、隠さず話した。
「なるほど。そういうことか」
俺は、創一郎に胸ぐらを捕まれそして右頬をストレートで殴られる。
その反動で、宙を舞いその場の地面に倒れこむ。
「お前、少し弛んでるんじゃないか。この仕事をしてる意識が足りない」
「ウッ、すいません。親父……」
「しかし、その姫里っていう女は気になるな。少し調べておこう」
「……」
俺は、その場を立ち上がると、扉が開く音が聞こえる。
「親父さん。これでいいかな」
赤いドレスを着た、華が姿を現す。
大人びているのも相まってとても中学生には見えない。
「おう、馬子にも衣装だな。華」
「親父さん。それ嫌味かな」
「じゃあ、俺も着替えてくるよ」
俺も、華の入った扉に向かう。
「おい、晴翔」
扉に入る前に、創一郎に呼び止められる。
「なんですか? 親父」
「期待しているぞ」
「あぁ……」
俺は、扉の奥にある被覆室で今日の夜の準備をする。
※※※
夜の九時。
俺と、華は目的地に向かうため車の中に居た。
車は黒塗りのリムジンで広い車内に二人言葉も交わさず座っている。
いつもそうだ。仕事の前はどのメンバーとも口をしない。
しかし、今日は違った。華がこの無言の空間の中、口火を切る。
「ねえ、晴翔。さっき親父さんに殴られてたよね」
「あぁ、そうだな」
「やっぱり、何かあったんだ」
「まあな」
「そう」
「どうしたんだ。急に……」
「私たちってさ、やっぱり使い捨てなのかな……。親父さんから見たら」
「どうして、そう思う」
「わからない。けど、最近不安なんだ。私もいつ捨てられるかって思うこともがある」
「大丈夫だよ。俺がそんなことはさせない」
「なんで? 晴翔と私は別に何の関係もないんだよ」
「俺は、そうは思わない。親父とは違う……」
「そうか。分かった。ごめんね。仕事前に……」
「あぁ……」
そんな会話を話していると、車が停車する。
到着して数分後、車のドアが開く。
「晴翔様。華様。到着いたしました」
開いた扉から、正装した先ほどのバーテンダーの男が俺たちに声をかける。
「行こうか。晴翔」
「あぁ」
俺と、華は車を出て目的の場所に歩みを向ける。
※※※
到着した場所は、郊外にある来賓館だ。
入口から、装飾に彩られた柱や地面には一面大理石が引き詰められて高級感のある佇まいだ。
そこに警備員が何人も配置されており、警備の厳重さを物語っている。
入口に到着すると、俺と華は警備員に制止させられる。
「申し訳ありません。招待状を確認いたします」
「これでいいか?」
俺は、創一郎から渡された招待状を警備員に提示する。
「確認いたします。少々お待ちください」
警備員が、俺の渡した招待状を手にすると事務所に戻る。
数分後……。
「かしこまりました。招待状を確認致しました。こちらネームプレートです」
「ありがとうございます」
俺は、ネームプレートを確認する。
『榊 圭吾』『榊 雅』
俺たちの名前ではないプレートが渡される。
「それと、今回ですが趣向が変わりましてこれを……」
ネームプレートとは別に仮面が渡される。
「これは……」
「今回、趣向として仮面パーティーとなります。どうぞお楽しみを」
「……」
俺は、警備員に会釈すると会場内に入る。
俺と華は、小声で歩きながら会話する。
「はぁ……」
「ねぇ、晴翔。これって」
「これ、まずいな」
「うん。仮面パーティの話なんて情報には」
「そうだな。今回のパーティにはそんな余興はなかった」
「面倒だね。ターゲットの久我の顔は確認しているけど……」
「仮面を付けてじゃ、確認出来ない」
「これってやっぱり……」
「あぁ。確実にここで何か起こるかも知れないと感じた何者かが、この趣向を加えたと考えたほうがいい」
「厄介だね」
「まぁ、親父もそのために二人を潜入させたと考えてもいいかもな」
「何か、感じていたってこと」
「喰えない親父だよ。それじゃあどうするか……」
「それなら、私に任せて。私はターゲットの目星を付けるために色々と調べておく」
「わかった。それじゃあ俺は館内を確認してくる」
「了解。じゃあ此処からは別行動だね」
「華、慎重にな」
「晴翔もね……」
「それじゃあ始めるか……」
俺たちは、別の道へと歩みを向ける。
『SANGUIS THE DAWN』
俺たちは心の中で掛け声を上げた。