九ノ瀬晴翔と仲間
教室から出て、俺は帰宅のために電車のホームへ向かっていた。
俺の自宅は学校から、最寄りの駅から三駅先の場所にある。
「はぁ……」
気が重かった。学校の事を報告しなけれはいけなかった。
あの男に。
駅に到着すると、俺は改札を抜けてホームで電車を待っていた。
待っていると、後ろから声をかけられる。
「あれ? 晴翔?」
俺は、声の元へ目線を向ける。
「華」
俺は、目線の先にある少女、夢咲華に話しかける。
俺の近くの中学校に通っている。
中学生としては少し大人びており高校生と言われても勘違いされそうな風貌だ。
髪の色は黒髪ロングで、スカートが校則に反しているだろうと思うぐらい短かった。
「なに、晴翔。なにかあったの?」
「いや、何も」
「あー、今回のテストもしかして一番になれなかったの?やばいよ。親父さんまぢ厳しいから」
「……そんなんじゃないよ。それに今回も一番だった」
「じゃあ、何があったの?」
「まぁ、色々……」
「ふうーん。まぁ、別にいいけど……」
華は急に、興味の無くなったようにスマートフォンを開く。
「げっ……」
華は、苦悶の表情を見せる。
「どうした。華」
「晴翔。これ……」
華は、俺の顔に画面を開いたスマートフォンを近づける。
『春花の香りを漂わせながら馬の軽鉄はその場で音を立てる』
俺も携帯を確認する。
同じ文章が、SMで送られてきた
「全員集合かぁ。めずらしいな」
「うん……。今日友達と夜予定入れちゃったのに……」
「あー、じゃあこっちの電車じゃないな」
「そうだね。しかも今回は晴翔とか」
「そうみたいだな」
「仕方ない……」
華は、頬を両手で『パン』と叩くと、
「それじゃあ、行こうか。晴翔」
それまでの、雰囲気が変わる。今までの学生の姿はそこには無かった。
「行くか。華」
「うん」
俺たちは、別のホームの電車に乗り換え、目的地に向かう事にした。
※※※
俺と華は古いビル群の中にいた。
道端のそこらに、酒瓶が散乱し壁には飲んだくれたホームレスがビルに靠れている。
昔は繁華街で賑わっていたようだが時代の流れが原因かここは廃墟のようになっている。
中高生が歩くには不釣り合いの場所だった。
そのビル街の一角で俺たちは立ち止まる。
そこは、地下に続く階段がある。
俺と、華は慣れたように階段を下っていく。
下りきると、そこに白い扉が現れた。
扉の横には、手のひらのマークが付いた装置があり、マークに合わせて手をかざす。
『ピィー』
機械音が鳴ると、扉の鍵が開錠される。
俺は、取っ手に手をかけ引く。
手前に開くと扉の先には、バーになっている。
カウンターには、一人のバーテンダーがテーブルの前でコップを拭いている。
男は、俺たちを目で確認すると、
「悪いな。まだ開店前なんだ。それに未成年はお断りだ」
と俺たちに話しかける。
俺は、その問いに対し答える。
「夜の帳は今日も深く」
そう告げると、バーテンダーの男は反応する。
「SANGUISに栄光あれ」
そう告げると、バーカウンター男はカウンタの下を探る。
すると、カウンター後ろの酒を並べられた棚がガラガラと動き始める。
バーテンダーに頭を下げると、その先に進む。
進んだ先には大きく開けたホールになっていた。
中心には、ガラステーブルが設置され、テーブルの周りには半月型のソファーが二つと一脚の高級そうな装飾のされた椅子が設置されている。
「俺たちが先に到着か」
「いや……、僕が一番……」
そう、告げる声の先に目線を向ける。
髪は長めで顔が確認出来ず、左手にはノートパソコンを持ち右手でカチカチと操作をしている。
「慶か。早いな」
「まぁ、ほぼ此処にいるから……」
「本当に、慶くんはパソコンオタクだよね」
華がそう伝えると、
「華も……、最近服装乱れてない……。男でも誘ってる……あービッチだっけか……」
二人の中で、バチバチと言葉の攻撃が繰り広げられる。
「あー、あー、夢咲も鉄もいつにも増して仲がいいな」
俺と華の通ってきた道から、声が響く。
「よう。晴ちゃんも久しぶり」
「壮馬か。さしぶりだな」
通路から、縣 壮馬が現れる。
茶髪で短髪、服も今どきな感じで容姿はホストのようと言うのが一番しっくりくる。
俺たちは半月型のソファーに向かい、二人ずつ腰に掛ける。
俺の隣は華、壮馬の隣は慶が座る。
「それにしても、4人が集まるなんてな」
「俺は、最近呼ばれてなかったからな」
壮馬は、頭を掻きながら話す。
「僕は……、いつも呼ばれる……」
慶は話しているが、髪のせいで表情がわからない。
「私なんて、2日前に仕事したばかりだよ」
華は、両手で頭の後ろに組みながら遠い目をしている。
俺たちが、座って雑談をしている途中だった。
「おう、全員そろったようだな」
4人が、その場の空気が変わるのを感じる。
白髪交じで身長は高く、顔には切傷の跡そして年齢に似合わない筋肉質の体。
そう、この組織のリーダー九ノ瀬 創一郎が俺たち4人に声をかける。