裏の顔
「おい、またあいつかよ」
校内中の生徒が、どよめきあう。
生徒達は、掲示板に貼られている名前と数字の書かれた紙の眺めている。
定期考査の結果が張り出されていた。
「おい、晴翔また、一番かよ」
俺の隣にいるクラスメイト、海斗が話しかけてくる。
「別に。結果なんて関係ないよ」
「お前、嫌味かよ。ほら、あっちで眼鏡が睨んでるぞ」
離れた場所から視線を感じる。
眼鏡こと、同じクラスメイトの久我が悔しそうな視線を送ってくる。
「あいつさぁ、勉強しかないからお前のこと結構妬んでるみたいだぞ」
「そうなのか? 俺は普通に授業受けているだけどな」
「お前、その話は俺だけにしておけよ。俺以外ならお前友達いなくなるぞ」
「いや、今もいないから平気だ」
「おい、俺がいるだろ」
焦ったように、海斗が俺に話してくる。
「あー、そうか。そうだった。ごめんな。海斗」
「お前、本当にひどいな。俺、傷ついたよ」
「悪いな」
と言いつつ、俺は困っていた。
そういう感情が俺には分からなかったから。
「それに、その……えっと久我だっけ。あいつの上にもう一人居ただろ。あいつはどうなんだ」
俺は、張り出された定期考査を指差す。
俺の名前の書かれた下の名前を読み上げる。
『姫里陽向 495点』
「あいつは、何で恨まれないんだ」
「バカか? 姫里の事知らないのか。あいつは別だろ」
「別?」
「学校の人気者で、女子からも尊敬されてる。それに……
「あれ? 九ノ瀬くん?」
黄色い声が、俺に向けて話しかけてくる。
「あっ、姫里さん」
海斗が、頭を掻きながら俺の告げた紙上の名前を黄色い声の少女、姫里陽向に向けていた。
「あー、海斗くん。九ノ瀬くんと一緒なんだ」
「そうなんだよ。こいつ友達俺しかいないから」
「いや、俺はお前と友達になった覚えは……」
「ひどいな。晴翔」
姫里は、クスクスと笑っている。
「本当に仲がいいんだね。海斗くんと九ノ瀬くんは」
「いや、だから俺は……」
「お前、まだ言うか」
「まぁ、二人の事はわかったから。それよりまた、九ノ瀬くんに負けちゃったな。今回は自身あったのに」
「晴翔は別に興味なようだけどな」
「そうだな」
「ふーん。九ノ瀬くんには興味あるんだけどな」
姫里が俺の顔の正面まで近づいてくる。
「あのー、近いんだけど」
「あーごめん。人の間隔って苦手で」
「ねぇ、陽向」
遠くから、姫里を呼ぶ声が聞こえてくる。
「あっ、ごめん。それじゃあ九ノ瀬くん、海斗くんまた教室でね」
姫里はその場から立ち去る。
「あー、姫里さんいつもに増してかわいいな」
「そうかな?」
俺は、海斗に疑問を投げつける。
「なんだよ。お前興味あるって言われてたんだぞ。本当に嫌味か」
「いや……」
俺は、海斗に聞こえない程度にぼそっと呟く。
「喰えないやつだな」
俺は、海斗と共に教室に戻った。
※※※
放課後。
「おい、晴翔帰ろうぜ」
「あぁ」
俺は、机にかけた鞄を肩にかけ下駄箱まで向かう途中だった。
「あっ」
俺は、ズボンのポケットと摩ると違和感を覚える。
「海斗。すまん。教室に戻る」
「どうした? 忘れ物か」
「教室に忘れ物したみたいだ。探してくる。今日は先に帰ってくれ」
「いや、校舎前で待ってるよ」
「探すのに時間かかる可能性もあるからいいよ。また明日、学校でな」
「おう。わかったよ」
海斗とその場で別れ教室に踵をかえす。
教室に戻ると、教室には一人も生徒は居ない。
外は西日が差し、窓が開いておりカーテンがひらひらと靡いている。
「さてと……」
俺は、自分の机へと戻り中を探る。スマートフォンが一台机に入っていた。
スマートフォンを手に取るとと後ろから声をかけられる。
「おい、九ノ瀬」
声の元へ向きを返るとそこには見慣れた眼鏡の男が立っている。
両手でがっちりと固定された、ナイフが銀色に鈍く光る。
「えっと……久我だっけ。何のつもりだ」
「とぼけるな。あんな手紙を出しといて」
「手紙? 何のことだ」
「まだ白を切るつもりか? 馬鹿にしやがって」
久我が俺に向かいナイフを向け突進してくる。
『ヒュッ』
俺は、久我の突進を回避する
「おい、待てよ。何がどうなってるか説明しろ」
「うるさい。黙れ」
「聞く耳持たずか……」
俺は、もう一度来る久我の突進を回避し、久我の手に手刀を振り下ろす。
「痛っ」
久我は、手に握られていたナイフを落とす。
すかさず俺は地面に落ちたナイフを手に取る。
そして、そのナイフを久我に向けた。
「いいか。今日のことは黙っておく。次はないと思え」
「ひぃ……」
久我は、少しの悲鳴をあげると逃げるようにして教室を後にする。
「ふぅ……」
俺は、少し安堵すると廊下から視線を感じる。
「誰だ」
俺は、視線の感じる先に体を動かす。
「ごめん……。見るつもりは無かったんだ……」
俺は廊下の入口扉から一人の少女が姿を現す。
「えっと、確か……」
「姫里です。すいません。忘れ物があって取りに来たら……」
「……」
姫里は、自分の机の中にある手帳を取り俺に向けて振りながらアピールする。
「ごめんね。それじゃあ……」
「待て」
俺は、帰ろうとする姫里を制止する。
「何……?」
怯えるような様子を見せる。
「少し、気になることがある」
「気になることって……」
「お前、一体何者だ」
「何。急に……」
「まず、俺は携帯電話を探しに来たが俺は今日携帯電話なんて触っていない。机の中にあることがおかしいんだ」
「それが私に何の関係が……」
「実はさ、俺のポケットにこんな物が入っていた」
俺はポケットから、携帯の大きさに成形された段ボールを取り出した。
「これは、誰かが携帯とこの段ボールをすり替えたってことだ」
「だから、私に何の……」
「お前だろ。すり替えたの」
「!!」
姫里は、視線を俺から反らす。
「もし、入れ替えられたとしたらお前がさっき俺に近づいて来た時だろ」
「……」
「おい、俺に一体何の……」
「言ったじゃない。興味があるって」
俺に視線を戻すと、そこには今までにない顔をした姫里がそこにいた。
「九ノ瀬くんに興味がある。私はあなたの事がもっと知りたい」
「おい、お前……」
俺は、ゾクッとする。
姫里は、俺の方へ距離を詰めてくる。
「これ、撮っておいたんだ」
ポケットからスマートフォンを取り出す。
そこに写されていたのは、俺が久我にナイフを持って脅している姿だった。
「これ、クラスの皆に見せたらどうなるかなぁ」
にやにやと俺に笑顔をふりまく。
「何が目的だ……」
俺は、ごくりと唾をのむ。
「目的? それはねぇ……」
俺の前に、到着すると姫里は俺に告げる。
「友達になりたいな」
いつも表情の姫里に戻っていた。
「はぁ?」
「だから友達になりたいんだって」
「いや、そんな事でこんな状況を……」
「だって、こんな事ぐらいしないと九ノ瀬くん絶対になってくれないでしょ」
「……」
俺は、あっけにとられ黙り込む。
「何? まさか何かすごい要求されるとかと思ってた」
ニコニコと俺に愛想をふりまく。
「……わかった。降伏する」
「それじゃあ、携帯番号交換しよ」
「はいよ」
俺はスマートフォンを操作すると電話番号を姫里に送信する。
「ありがと。それじゃあ、今回の事は二人の秘密という事で」
姫里は教室を後にしようとする。
「ちょっと待てよ。久我は? あいつもこの事を知って……」
「大丈夫だよ」
俺の方へ姫里は向き変えると俺に告げた。
「久我くん。明日から学校来れないと思うから」
「!!」
姫里のニコニコとした表情は変わらないまま、そのまま俺に背を向け教室を後にした。