残された物達
崩落事故はこの小さな村に甚大な被害を与えた。
村人達は皆家族の誰かを無くし、家屋や家畜などに大きな被害を被った家もあった。
事故にあった村人の亡き骸を見つける事も殆ど出来ず、無くなった人達を埋葬する事さえ許されなかった。
小さいけれど活気のあった村は一夜にして元の姿を無くし、深く大きな悲しみに包まれていた。
まだ6歳で一人残されたティアには自分で出来る事は何もなく、ミセス・レオラと共に日々を過ごしてた。
「じゃあ、行きましょうか。」
レオラとティアが井戸に水を汲みに行くと、ミセス・カーリーンが丁度水を組み終わり帰るところだった。元々痩せていたカーリーンは更にやつれ、とても疲れた顔でレオラに話しかけてきた。
「レオラはどうするの?もう事故から1ヶ月たったわ。ミレーも村を出ていってしまったし…」
「そうね、ウェルキンさん家も3日後には出ていくらしいわ。」
「皆、村を出てしまうのね…」
レオラもカーリーンも崩落事故のあった方向に自然と目を向けた。こんな遠くからでも山肌があらわになり、道が無くなっているのが見える。
ティアがふと不安になり、レオラのスカートをギュッと掴むとレオラはハッとした様に明るく言った。
「私は残るつもりよ!ここにはダンの思い出もあるし、ティアもいるしね!」
「そう。そうだね、うちはまだ考え中なんだ。ティアも……元気…だすんだよ」
カーリーンはティアの頭をやさしく撫でた。
ティアは小さく頷いた。まだ幼いティアは死というものが実感出来ていなかったし、変わりすぎた日々に適応する事に必死だった。
そんな時だった、後ろから声がしたのは。
「すいません、ローラ・アルドナはどこでしょう?」
……ママのなまえ。
ティアが振り返ると、金髪碧眼の綺麗な人が従者を従えて立っていた。服といい髪といい、一目で貴族と分かる身なりだ。
「私、アリツィア・ノーフォークと申します。ローラとは遠い親戚なんですの。この村で大きな事故があったと聞き、手紙を書いても返事は来ないし、心配で直接来たのですわ。ローラは??」
レイラとカーリーンは顔を見合わせた。
「ここではちょっと…。家にどうぞ。」
レイラはティアの手を握りしめ、突然現れたアリツィア・ノーフォークを自宅へと案内した。
◆◆◆◆◆
レイラはアリツィアを自宅に招くと、今までの出来事を説明して聞かせた。
自分はローラの隣人だと言う事。
崩落事故で夫を無くした事。
ローラは4人家族だったが、ティアが一人だけ取り残された事。
今はローラと二人で暮らしていてこれからもそのつもりだと言う事。
アリツィアは目を見開き驚き、声も出ないようだった。目に浮かんだ涙を柔らかそうなハンカチで拭き、ゆっくりとレイラにしがみついているティアに目を向けた。
「そう、あなたがローラの忘れ形見なのね。」
ティアは何も話さず、ただただレイラにしがみついたままだった。何かが変わってしまうような予感を感じていたのかもしれない。
「すみません。元はとっても明るい子だったんですよ。あの事故からほとんど話もしなくなってしまって…」
「そう…そうよね。」
ホロリホロリと泣いていたアリツィアがレイラを前から真っ直ぐ見直し、決心した様に言った。
「ミセス・レイラ、私にティアを引き取らせてもらえませんか?必ず大切に育てます」
レイラは突然の申し出に驚きティアを見た。
レイラの目に入ったのは先程よりも更に強くレイラのスカートを握りしめるティアの姿だった。