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【リクエスト番外編⑨】子ウサギ(セシリア)と狼(ベイル)のラブラブファンタジー(顔獣人)

※このお話は、もしも、ベイルが狼族で、セシリアがウサギ族の獣人だったら?というIFのお話です。


【狼族なベイル視点】



 文明の進化と共に、動物としての原始的な本能は廃れていった。


 栄養価の高い合成肉が発明された昨今では、肉食獣人も狩りを忘れ、草食獣人も危機感すら持たず、同じ街で暮らしている。


 だから、すっかり忘れていた。


 自分の祖先が、かつては狡猾な捕食者だったことを。

 


*



「お前の婚約者だ」


 父にそう紹介されたランチェスタ家の令嬢は、フワフワの茶色い毛を持つ、ウサギ族の少女だった。


「セシリア=ランチェスタです」


 ピクピクッと彼女の長い耳が動いた。


「ベイル=ペイフォードだ」


 ベイルが名乗ると、セシリアの丸く大きな瞳が、恥ずかしそうに伏せられた。その場に同席していた妹もセシリアに挨拶をする。


「私は妹のクラウディアです。初めまして、セシリア様」


 セシリアが頬を赤く染めながら「初めまして。クラウディア様」と言い、ニコリと微笑んだ。すると、なぜか突然、ベイルの胸は騒めいた。


(なんだ?)


 セシリアを見ていると、今まで味わったことの無い強烈な感情が沸き上がってくる。


(ああ、彼女はなんて……)



 ーー お い し そ う



 それは、信じられない衝動だった。


 ベイルはウソだ、あり得ないと慌てて否定する。


 妹のクラウディアが「お兄様、お庭でもご案内したらどうですか?」と言うので、庭園をセシリアと二人で並んで歩いた。


 咲き誇る花々の香りに混じって、今まで嗅いだことの無いかぐわしい香りが、セシリアから漂ってくる。


 その香りを嗅いでいると、恐ろしいことに口の中が唾液で溢れてきた。


 気がつけば、ベイルは頭の中で、彼女を押し倒してその柔らかそうな腕に噛みついている姿を夢想していた。


「ベイル様?」


 名前を呼ばれて、ハッと我に返る。


(俺は、今、何を考えていた?)


 おぞましい想像に自分が恐ろしくなる。


 婚約者との顔合わせを終えて、帰る彼女を見送ったあと、ベイルは父に『この婚約はなかったことにしてください』と、何度も伝えようとした。それなのに、その度に彼女の香りや柔らかそうな腕を思い出してしまい、どうしても言えなかった。


(もし、次に会った時に、セシリア嬢にうっかり噛みついてでもしてみろ、俺は犯罪者だぞ)


 分かっているのに、心のどこかでもう一度、セシリアに会いたいと思ってしまっている。


(そうだ、あの感情は気のせいだったということもある。もう一度彼女に会えば、それが分かる)


 自分でも苦しい言いわけだと思ったが、結局、セシリアに会う当日までなんの対策も取れず、そのまま会うことになった。


 二度目に会ったセシリアは若葉色のワンピースを着ていた。


「ベイル様」


 彼女に名前を呼ばれてフワッと微笑まれたとたん、またあの強烈な感情が湧き起こって来た。


(なんて、美味しそうなんだ……)


 目の前の女性を、確実に捕食対象として見てしまっている。それなのに、セシリアは少しもこちらを警戒しようとはしない。


 気軽に近づいてくるし、耳がぴょこぴょこと動いて愛らしい。


(くそっ! 少しは俺を警戒してくれ! じゃないと……)


 口の中に溜まった唾液をゴクリと飲み込み、セシリアから距離を取る。それに気がついたセシリアが「ベイル様?」と不思議そうに近づいてきた。


 またあの、かぐしい香りを近距離で嗅いでしまい、プツンと理性が切れる音がした。


 気がつけば、ベイルはセシリアに飛びかかっていた。




【子ウサギなセシリア視点】


 目の前のベイルが急に飛びかかってきた。


 勢い良く押し倒されて、腕に噛みつかれた。噛まれた腕は少しも痛くない。


(あ、これが……甘噛み)


 ベイルの妹である麗しいクラウディアに憧れてからというもの、セシリアは少しでもクラウディアのことが知りたくて狼族のことを調べに調べていた。


 それがどういう誤解に繋がったのか、ベイルの婚約者になってしまった。


(初めは、婚約の事を断ろうと思ってペイフォード家に尋ねて行ったのに……)


 その場に予想外に憧れのクラウディアがいたため、緊張しすぎて何も言えなくなってしまった。


(それに……)


 初めて会ったベイルは、背が高く鋭い瞳と牙が怖そうだったが、彼の尻尾が背後でバッサバッサと左右に激しく揺れていた。


(しっぽを振るのは、好きのアピールよね? あ、でも、警戒している時もしっぽを振るって書いてあったわ)


 ただ、側にいたクラウディアが必死に笑いを堪えていたので、もしかしたら、気のせいではなく、本当にベイルに気に入られたのかもしれない。


(ベイル様は、見た目ほど怖い方ではないみたい)


 二度目に会ったベイルも、それまで動いていなかったしっぽが、こちらに気がついたとたんにバッサバッサと動き出した。


(ベイル様って……可愛いかも)


 そう思っていたのに、ベイルが急に苦しそうに唸りながら、距離を取ったので心配になり近づいた。


 その結果、ベイルに飛びつかれて、今、腕を甘噛みをされている。


(甘噛みは、愛情表現)


 ベイルは甘噛みを止めると、顔をスリスリとセシリアの首辺りに擦りつけてくる。


(スリスリするのは、甘えたい時)


 そして、頬をベロンと舐められた。


(顔を舐めるのも、甘えたいサイン……これは、狼族の愛情表現。分かっているわ。分かっているけど!)


 さすがに恥ずかしすぎてセシリアが「べ、ベイル様」と、声をかけると、ベイルはハッと我に返り固まった。


「お、俺は……何を?」


 信じられないと言った様子で、ベイルは飛び退いた。そして、「大丈夫か?」と、慌てて腕を引いて起こしてくれる。


「芝生の上に倒れたので、大丈夫です」


 セシリアがワンピースに付いた草をはらっていると、「すまない」とベイルに謝られた。見ると、耳もしっぽも垂れ下がり、目に見えてシュンとしてしまっている。


「私は大丈夫ですよ。これが狼族の愛情表現なのですよね?」


 ベイルが驚きながら「愛情、表現?」と、言葉を繰り返した。


「あ、そうか、俺は……美味しそうって、捕食ではなく、そ、そういう意味か!?」


 何かを一人で納得したベイルは、ボッと顔を赤くする。


「……? なんの話ですか?」


「なんでもない! なんでも、ないんだ!!」


 咳払いをしたベイルは「すまない、愛情表現が行き過ぎてしまった」と素直に謝ってくれた。


「いえ、大丈夫です。ウサギ族の愛情表現とは、少し違って驚きましたが……」


「ウサギ族は、どのような愛情表現をするんだ?」


「そうですね。お互い驚かないように知っていたほうがいいですね」


 ベイルに「ウサギ族は、鼻先を擦りつけたり、相手の手や指を舐めたくなったり、とかでしょうか?」と、伝えるとベイルは口元を自分の手で覆い、顔を逸らしてブルブルと震え出した。大きなしっぽが、またバッサバッサと揺れている。


「ベイル様?」


「な、なんでも、ない……」


 なんでもなさそうには見えなかったが『種族が違うので、きっと分からないこともあるのね』と、セシリアは納得した。




 次に会った時に、ベイルに真剣な顔で「貴女を撫でてもいいだろうか?」と聞かれたので「どうぞ」と答えた。


 鋭い爪がついた大きな手が恐る恐るこちらに伸びてきてセシリアの頭に触れた。


 撫でる手つきがとても優しくて心地良い。


(あ……私、ベイル様のこと好きかも)


 撫でるベイルの手に、そっと鼻先を擦りつけると、ベイルはピシッと固まった。そして、とても真剣な顔をする。


「俺と結婚して欲しい」


「はい」


 コクリと頷くと、ぎゅっと抱きしめられた。美しい銀色の毛並みが視界一杯に広がる。


 ベイルが「セシリアは柔らかいな」と、うっとりとした声を出した。


「ベイル様は、温かいです」


 顔を見合わせて微笑み合う。


「セシリアに似た子は可愛いだろうな」


 違う種族同士が交わると、子供は両親のどちらかの種族を受け継ぐことになる。なので、狼族かウサギ族、そのどちらが生まれるかは分からない。


 気が早いベイルの話にセシリアは頬が赤くなってしまう。


「ベイル様に似ると、とっても綺麗な子になりますね」


 ベイルはまたブルブルと震えた後に、カブリと肩に噛みついてきた。甘噛みなので痛くはないが、急にされると驚いてしまう。


 それに、ベイルのヨダレが服に付いてしまうのも少し困る。ただ、ハムハムと甘噛みをするベイルの顔が、とても幸せそうだったので、セシリアは何も言わずに微笑んだ。




【リクエスト番外編⑨】おわり



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