【リクエスト番外編⑦】レオとエミーのその後
【謝罪】
※今さらですが、レオは、クラウディアのお話『やり直し転生令嬢はざまぁしたいのに溺愛される』の、やり直す前の人生で、狂王アーノルドの参謀だったという裏設定がありました。が、それはどこにも書かれていない(私の脳内にだけあった)のです、すみません。
特に書かなくても問題がなかったので、最後まで、この設定を書くか悩んでいたのですが、今回、書かないとレオが幸せになるのが難しかったので、本当に今さらながらに書きました(汗)
本編でうまく設定を出せず……己の未熟さを痛感しております(土下座)
このお話は、『やり直し転生令嬢』と『地味令嬢』の話を両方読んでいないと、訳が分からないかもしれません!!でも、『やり直し転生令嬢』を読んでもレオは出てきません(土下座)
【レオ視点】
夢を見た。
愛する女性を手に入れるために、狂王と呼ばれるアーノルド陛下に忠誠を誓い、その参謀として多くの残忍な戦をくり返す夢。
全身に返り血を浴びて、錆びた血の匂いが体中に染みつき取れなくなったころ、ようやく愛おしい人を手に入れられた。
(やっと、やっとだ。エミー)
レオが歓喜で心を震わせながら、純白のドレスに身を包んだ彼女のベールをそっと上げると、そこには、青ざめひどくおびえるエミーがいた。
「エミー、どうしたの?」
(長く会っていなかったから、私の顔を忘れてしまったのかな?)
レオがそっとエミーの頬にふれると、エミーはガタガタと震え涙を流した。
「こ、殺さないで……なんでも、します。だから、私の、一族はどうか、お見逃しください……」
(彼女は何におびえているのかな?)
エミーの澄んだ瞳は、恐怖で濁っていた。
「閣下に、永遠の忠誠を……」
愛する人に名前すら呼んでもらえず、レオはようやく気がついた。
(ああ、私は……間違ってしまったんだね)
やっとの思いで彼女を手に入れたのに、彼女の愛は、もう二度と手に入らない。
(私は……どこで、何を、間違ったのだろう?)
奈落の底に落ちていくような絶望の中、レオは夢から覚めた。
呼吸が荒く頭が重い。全身が汗でぐっしょりと濡れている。
「ひどい……夢だ」
恐ろしいほどに鮮明で生々しい夢だった。
レオは、深呼吸をくり返し、現実に意識を向けた。
ここは、自国のとある公爵家が所有している屋敷の一室だった。レオは、王宮のように豪華な部屋を与えられていた。それだけではなく、公爵直々に「レオ殿下に、決して失礼なことがないように」と命じられたベテランの執事やメイドたちに最高級のもてなしを受けていた。
(全ては、ベイルの計画通りだ)
ベイルの訴えにより、公爵のクズ息子は裁判にかけられた。その裁判をきっかけに、レオは公爵とその息子に恩を売り、公爵家に潜り込んだ。クズな息子も、今ではすっかりレオに懐いている。
(ああいう女性蔑視タイプは、自分より優秀な男に認められたい願望を持っていることが多いからね)
クズ息子も漏れなくそういうタイプだった。
厳格な父親に育てられ、認められず苦しみ歪んでいく。だったら、父親の代わりに認めてやればいい。
――君はすごいよ。
――優秀だね。
――君ならできる。
ずっとクズ息子がほしかったであろう言葉を、レオは毎日、蜜のごとく注いでやった。
それだけで、クズ息子は簡単に落ちた。今では、レオのことを兄のように慕い、なんでも言うことを聞いてくれる。
息子の素行の悪さに頭を抱えていた公爵は、すぐに第五王子であるレオの後ろ盾を名乗り出て、レオを内に抱え込んだ。
「レオ殿下、どうか息子の師として、導いてやってください」
公爵のその言葉にレオは「息子さんの友としてなら、お受けします」と、わざと聖人のような回答をした。
気がつけば、公爵家はレオを中心に回るようになっていた。
公爵はレオを重宝し、息子はレオに付き従う。信頼を得たのを良いことに、レオは、公爵家が今まで行ってきた薄暗い闇を調べつくし、いつでも公爵家を取り潰せるほどの強力な弱みをにぎった。
誰が公爵家の当主か分からないくらい、レオの影響力は日に日に大きくなっていく。そのうちに、公爵から屋敷も土地も与えられ、巨額の財産を得た。
ベイルとの約束は、無事に果たせた。
今となっては、誰もレオを軽視することも、指図することもできない。ここまで登りつめるには、ベイルの協力が必要不可欠だった。ベイルは、いつでもレオが求める人材を的確に迅速に送ってくれた。
(この短期間で、私は地位も名誉も財産も、全て手に入れた)
だから、今日、レオはエミーに会って結婚を申し込むと決めていた。
せっかく大金があるのだから、彼女に喜んで貰えるように、何か特別なことをしようと考えた。
(エミーの好きなことなら良く知っている)
お転婆なエミーは馬に乗り駆けるのが好きだ。エミーの美しい金髪が風になびくのを見るのが好きだった。
エミーは野イチゴが好きで、ダンスも好きだ。
買い物も好きだし、友達をとても大切にする。
アマリリスの花が好きで、雷が嫌い。
「……?」
気がつけば、レオの頬に涙が流れていた。
地位も名誉も財産も無いよりあったほうが絶対に良い。でも、その全てを手に入れた今、本当に必要だったのか急に分からなくなった。
結局、レオはエミーに会う当日にアマリリスの花束を買った。真紅のアマリリスはきっとエミーに良く似合う。
久しぶりに会ったエミーは、一段と美しくなっていた。
こちらに気がついたエミーが「もう!」と、ため息をつく。
「エミー、どうしたの?」
「どうしたの? じゃないわよ!」
エミーの綺麗な瞳は、怒りで釣り上がっていた。
「レオったら、いっつも『忙しい』って言ってぜんぜん会ってくれないんだもん! 私たち、本当に婚約しているの?」
エミーは「手紙だけのやり取りなんて、不安だよ……」と、うつむいてしまった。
(ああ……私は、また間違えてしまった)
激しい後悔と共に、優しくエミーを引き寄せ抱きしめる。
「ごめんね、エミー。どうして、私はこんなにも間違えてしまうのかな?」
腕の中のエミーは「レオは、難しいことばっかり考え過ぎよ」と怒っている。
「……そうかな? そうかもしれない」
「レオって、いったい何がしたいの?」
レオの頭の中に、いろいろな言いわけが頭をよぎったが、その全てを追い払うと、答えはとても簡単だった。
「君と一緒に、幸せになりたい」
ようやく出てきて本当の願いを聞いたエミーは、嬉しそうに微笑んだ。
「だったら、ずっと私の側にいなくっちゃ!」
「そっか……そうだね。どうして、私はこんなにも簡単なことが分からないんだろう?」
イタズラっぽい笑みを浮かべたエミーに「レオって、頭良いけど、抜けてるよね!」と言われて、「本当にそうだね」と納得してしまう。
「フフ、今日のレオは素直ね。良い子良い子、なーんて!」
エミーに優しく頭をなでられると、なぜか涙がこぼれた。
「ええっ!? レオ、大丈夫?」
「エミー、私と結婚して?」
それは、涙を流しながら、好きな女性に『結婚してほしい』と懇願するという情けないプロポーズだった。
(もっとカッコ良くて、エミーがうっとりするような告白をしようと思っていたのに……)
そんなことを考えているから、間違えてしまうのだと今なら分かる。
(私は、ベイルのようにカッコよくはなれないけど、ベイルのように素直にはなれる)
「エミー、愛している。私は、良く間違えてしまうけど、君が側にいてくれたら、きっともう間違えない。だから」
エミーはレオの背中に手を回すと、ギュッと抱きしめてくれた。
「もちろん、いいよ! 結婚してあげる!」
嬉しそうなエミーを抱きしめてから、レオは持っていた花束を渡した。
「わぁ、私の好きなアマリリス! レオ、ありがとう」
頬を染めたエミーは幸せそうに笑ってくれた。
(ずっと、この笑顔が見たかった)
エミーに会って愛を伝えて、花を渡す。ただそれだけで幸せになれたのに、その幸せを手にするために随分と遠回りをしてしまった。
「これからは、ずっとエミーの側にいるよ」
「うん! ねぇねぇ、結婚式、どこでしよっか?」
「その前に、エミーのご両親に結婚の報告に行かないと」
「そっか、そうだね! ……あれ? もしかして、私、レオと結婚したら、隣国の王族になっちゃう?」
「私は第五王子だよ? 結婚と同時に、臣下に降ろされるよ。エミーは王族になりたかったの?」
ううん、とエミーは明るく笑いながら首を振った。
「レオと一緒なら、なんでもいい!」
エミーはそう言ってくれるけど、エミーには少しの苦労もさせたくない。
(もし、爵位を貰えなかったら、お金で爵位を買えばいいか。やっぱり……エミーを守るためには権力や、お金はあったほうがいいよね)
レオが一人でウンウンとうなずいていると、エミーに「また変なこと考えてない?」と言われてしまう。
「変なことじゃないよ。君との幸せを真剣に考えているんだ」
「ふーん? まぁ、いいけど!」
レオは、エミーとしっかりと手を繋いで歩き出した。
**
【エミー視点】
結婚式の準備中。
レオは、また何かを考え込んでいるようだった。
(レオって、昔からこうなのよね)
こういうレオを見るたびに、すぐ側にいるのに、ここにはいないような気がして、エミーは少し寂しい気持ちになっていた。
(今までだったら、声をかけずにそっとしておいたけど……)
もう、そんなことはしない。
(だって、レオが私の事を愛しているって分かったから。私のために何かを考えてくれているんだって分かったから)
ただ、それがいつも少しズレているのが問題だった。
(だから、もう変なことを考えこまないようにしてあげる)
無言になっているレオに、エミーは勢い良く抱きついた。ハッと我に返ったレオに、「私を見てー!」とワガママを言う。
(今までだったら絶対に、こんなことはできなかったけど)
ベイルとセシリアのように幸せになるには、素直になるのが一番だと分かった。
「レオ、何を考えてるの? またズレた変なことを考えてない?」
「……考えてないよ」
レオが気まずそうに視線をそらす。
「絶対に考えてたでしょ!?」
レオの胸板にエミーが頭突きをくらわせると、レオが「う」と苦しそうにした。
「もうさー、レオは頭は良いけど、私に関する悩みはズレてて、全部間違ってるんだからね!? 悩むくらいだったら、私に直接聞いてよ!」
レオの頬を両手ではさんで「ほらほら、今すぐ悩みを言いなさい! 言うまで離さないからね!?」と脅迫すると、レオは重い口を開いた。
「……私だけ、こんなにも幸せでいいのかなって。エミーは私と結婚して幸せになれるのか不安で……。エミーくらい素敵な女性なら、もっと財力があって地位が高くて」
「はい、ズレてる!!」
レオの頬を思いっきり左右に引っ張り、エミーはレオを黙らせた。
「あのね、今のレオは、私の実家よりお金も領地もたくさん持っているの。そんなレオ以上のお金持ちって、もう、どこにいるのよ!? それに、私はレオが好きなの! レオが側にいてくれたら幸せなの! いい加減、私を信じなさい!」
驚いた顔でレオは、まっすぐこちらを見つめた。
「……そっか、私はずっとエミーを信じてなかったんだね」
「そうよ! レオの話を聞くと、私ってお金と地位が大好きなダメ女じゃない! レオって私のこと、そんな風に思ってるの?」
レオは、慌てて首を左右に振る。
「そんなこと思っていないよ」
「だったらどうしてそんなことを考えるの? もう、レオは本当に困った人ね」
「……ごめん」
素直に謝るレオを見て、あきれながらも『可愛い』と思ってしまう。
「でも、そういう困ったところも大好きよ。さぁ、話を戻して結婚式の準備を進めましょう」
決めないといけないことは、まだまだたくさん残っている。
「ねぇ、レオ。花嫁のベールはどれが私に似合うと思う?」
レオはとても深刻な顔をして「エミー、お願いだからベールはつけないで。ベールの下の顔を想像するのが怖い」と言ってきた。
「よく分からないけど、分かったわ」
「詳しく聞かないの?」
「良いの! 私はレオと違って、愛する人のことを信じていますからね!」
エミーが笑顔で嫌味を言うと、レオは「ごめんって……」と、困った顔をしている。
「いじめるのは、これくらいにしてあげるわ。じゃないと、レオがまた変なことで悩みそうだし!」
「だから……ごめん」
本当に困った様子のレオを見て、エミーは「許してあげる」と微笑みかけた。
「レオがまたズレたら、私は何回でも抱きついて頭突きをするわ。だから、もう大丈夫。私たちは、きっと素敵な夫婦になれるわ。おじいちゃんとおばあちゃんになっても、ずっと一緒にいましょうね」
レオは珍しく照れた様子で「そう、だね」と答えて、嬉しそうに口元を緩めた。
おわり
【蛇足】
※やり直す前の人生では、レオとベイルは戦場でバチバチに戦っていた(書いてません、私の脳内でだけ)ので、『地味令嬢』内で、この二人が手を組んだ時、「あっつい展開だ~」と一人で思っていました。
※あと、手に入らない女性を愛している者同士、狂王アーノルドと、血まみれのレオは、男の友情のようなものを感じていました。