【リクエスト番外編⑤】ベイル、セシリア、ディア、アーノルドの4人でピクニック
セシリアはとても浮かれていた。
(明日は、憧れのクラウディア様とピクニック!)
正確には、クラウディアとその婚約者のアーノルド、そして、ベイルとセシリアの4人でのピクニックだ。クラウディアからこのお誘いを受けた時は、セシリアは心が弾んで背中に羽でも生えたような気分になった。
ベイルの妹であるクラウディアは、この国の王位継承権を持つアーノルド王子の婚約者だ。高貴で尊い存在の女性なのに、セシリアにもとても良くしてくれている。
(ああ、お美しい上に、お優しいなんて! さすがクラウディア様、完璧だわ)
聞けば、ペイフォードの領地内でのピクニックだから、それほど遠くには行かないらしい。
(何を着て行こうかしら? 失礼のないようにしないと)
自分の部屋で浮かれていると扉がノックされた。入るように伝えると、大きな箱を抱えたクラウディアの専属メイドが姿を現した。
「セシリア様、クラウディア様より、こちらをお預かりしました」
「クラウディア様から?」
不思議に思いながらも、テーブルに置かれた箱を開けるとそこには、淡いピンク色でチェック柄のワンピースが入っていた。
「これをクラウディア様が?」
手に取り広げると、襟の部分がレースになっていてとても可愛い。同じ柄のリボンの髪飾り、靴下や靴までセットで入っていた。
「はい、明日のピクニックには、ぜひ、そちらを着てきて欲しいとのことです」
「クラウディア様は……今日は、王城かしら?」
「はい」
クラウディアは、次期王妃になるための教育を受けていて忙しく会うことが難しい。
(直接お礼を言いたかったけど、無理そうね)
「分かったわ。明日のピクニックには、このワンピースを着ていくわ。クラウディア様に『セシリアがとても喜んでいた』と伝えてね」
メイドは丁寧に頭を下げると静かに部屋から出て行った。
(可愛いワンピースだわ)
嬉しくて全身鏡の前に立ち、洋服を当ててみる。切り替えが腰部分ではなく、胸の下に入っているのがまた珍しく可愛らしい。
(こういうタイプのワンピースは着たことないわね。でも、どうしてクラウディア様は、このワンピースを私にくださったのかしら?)
理由は分からないが、次の日、セシリアは、約束通りクラウディアがくれたワンピースを着た。結ってもらった髪にワンピースとお揃いのリボンを付けてもらう。
鏡越しに目が合ったメイドが、「とってもお似合いですわ」と褒めてくれた。
「ありがとう」
準備ができたので、自室から出るとそこには、予想外にクラウディアが立っていた。クラウディアは、花のような笑顔を浮かべて「おはようございます、セシリア様」と挨拶をしてくれる。その手には大きなバスケットを持っていた。
「お、おはようございます!」
セシリアは慌てて挨拶を返した。セシリアが、可愛いワンピースをくれたお礼を伝えようとすると、先にクラウディアに「そのワンピース、着てくださりありがとうございます!」と、お礼を言われてしまう。
「セシリア様、とてもお似合いですわ。私、一度でいいから『お揃いコーデ』というものをしてみたかったのです」
「おそろい、こーで?」
そう言われて初めて気がついたが、クラウディアは同じ作りの色違いの水色ワンピースを着ていた。髪にもワンピースとお揃いの柄のリボンを付けている。
「あ、もしかして、私達が着ているのは、同じ服の色違いですか?」
「そうです! だから、お揃いコーデ」
『そんな!? 恐れ多い』と思ったが、クラウディアが嬉しそうにセシリアの手を引いたので、何も言えずに着いていく。
玄関ホールでは、二人の青年が立っていた。クラウディアは「まだ時間があるのに、アーノルドもお兄様もせっかちね」と不服そうに呟いた。
「本当はセシリア様と二人で早めにお出かけして、男性陣が来るまでの間、女子トークをしたかったのですが……」
「仕方ないですね」とクラウディアはため息をついた。
「アーノルド、来てくれて嬉しいわ。いらっしゃい」
クラウディアが呼びかけると、赤い髪の青年がこちらを振り返った。そして、「ディア、今日もとっても可愛いね」と満面の笑みを浮かべる。
クラウディアは、「ありがとう」とお礼を言うと、セシリアの腕に自身の腕を巻き付けた。
「ねぇ、見て見て! 今日のワンピースは、セシリア様とお揃いなの」
「わぁ、すごくいいね! 二人ともとっても可愛いよ」
少しも照れることなく女性をべた褒めするアーノルドは、婚約者のクラウディアを溺愛していることで有名だった。誠実そうな瞳で、愛おしそうにクラウディアを見つめている。
「ありがとう、アーノルドもとっても素敵よ」
微笑み合う二人はお似合いだった。アーノルドはすぐにクラウディアの持っていたバスケットに気がつき、さりげなく荷物を持ってあげている。
(素敵……)
お似合いの二人にうっとりしていると、その後ろにいたベイルと視線が合った。
「ベイル」
嬉しくなってセシリアが名前を呼ぶと、ベイルは勢い良く顔を反らし、左手で口元を押さえた。ベイルは少し震えているようにも見える。
(どうしたのかしら?)
ベイルは可愛いものを見た時に、こういう反応をすることがある。
(あ、このお揃いのワンピースが可愛いから?)
確認のために「このワンピース、クラウディア様からいただいたの」と伝えると、「……良く似合っている」と、無理やり絞り出すような感想が返ってきた。
クラウディアはあきれた様子で「もうお兄様ったら……。セシリア様、お兄様のことは気にせず、ピクニックに行きましょう」と、ため息をついた。
*
【ベイル視点】
妹とお揃いの色違いのワンピースを着て現れた愛おしい妻を見てベイルの意識は飛んだ。
いつもとは違う雰囲気のどこか幼げなワンピースを身に纏い微笑むセシリアは、この世のものとは思えない可愛さだ。
(……な、んだ、ここは? 妖精の国か?)
そうとしか思えない。
腕を組みじゃれ合う妖精達を眺めていると、その妖精の一人に名前を呼ばれた。
ベイルがハッと我に返ると、セシリアが不思議そうにこちらを見つめている。
「あ」と小さく呟いたセシリアは、「このワンピース、クラウディア様からいただきました」と見惚れるような笑みを浮かべた。
(ごはっ!?)
内心、セシリアの可憐さに悶えながらも、なんとか「……良く似合っている」というありきたりな感想絞り出したが、クラウディアのあきれた視線が突き刺さる。
(くっ、仕方ないだろうが!)
『お揃いのワンピースを着る』などという神懸かり的な発想をクラウディアがどうして思いつくのか、我が妹のことながら不思議で仕方がない。
「もうお兄様ったら……。セシリア様、お兄様のことは気にせず、ピクニックに行きましょう」
そう言って、クラウディアはセシリアの手を引いて歩き出した。並んで歩く妖精の後ろを、アーノルド王子と並んで着いていく。
「アーノルド殿下。ご無沙汰しております」
敬意を表して先にベイルから挨拶をすると、アーノルドはニコリと笑った。先ほどは、アーノルドに会ったとたんに、二人の妖精が舞い下りたので、言葉を交わす暇がなかった。
「お久しぶりです、ディアのお兄さん」
なんとなく、アーノルドに『お兄さん』と呼ばれることに抵抗があるので、「私のことはベイルとお呼びください」と伝えると、「では、僕のことはアーノルドと呼んでください」と返されてしまう。
「それは……できません」
アーノルドはこの国の次期国王だ。気安く名前で呼べるはずもない。
「それでは、僕はベイルお義兄さんと呼ばせていただきますね」
「……はい」
アーノルドからは、有無を言わせない圧のようなものを感じる。
前から思っていたが、アーノルドはクラウディアの前と他の人の前では態度が異なっていた。
妹のクラウディアの前では、子猫のように無邪気に振る舞っているが、それ以外の前では、丁寧に振る舞うように見せて常に一定の距離を取っている。そこには、他人に対する拒絶や、内に秘めた固い決意のような感情が見え隠れしていた。
その様子をベイルは『危なげだな』と感じることもあるが、亡くなった第一王子や、第二王子とは比べものにならないくらい、アーノルドは優秀な王族だった。
勤勉で頭も良いし、剣術の腕も優れている。他の亡くなった王子達のように、残虐性もなければ、公務に支障ができるほど、女遊びを繰り返すこともない。
(アーノルド殿下は、お仕えするに相応しいお方だ)
そして、クラウディアを心底愛しているということがベイルは気に入っていた。
(兄としては、妹が愛されていることは嬉しいが……)
このアーノルドが、公私を弁えず、あちらこちらでクラウディアとイチャイチャするせいで、貴族全体の恋愛観が変わってきている。
少し前までは、親同士が決めた相手と結婚することが当たり前だったのに、今では積極的に相手を探さなければ、婚約者を探すことすら難しい。しかも、簡単に婚約破棄ができてしまうことも問題だった。
(そのせいで、俺がどれほど、婚約者探しに苦労したか!)
アーノルドに会ったら文句を言ってやろうと思っていたが、前を歩くクラウディアに熱い視線を送っているアーノルドを見ていると、ベイルは『まぁいいか』と考えを改めた。
(アーノルド殿下のおかげで、セシリアに出会えたとも言えるからな)
隣から、アーノルドの「可愛い……」と言う独り言が聞こえてくる。
「はい、可愛いですね」
こちらを振り返ったアーノルドは少しだけ笑みを浮かべた。そして、同時に口を開く。
「本当に、ディアは可愛い」
「本当に、セシリアは可愛い」
そろった声にお互いが顔を見合わせた。
「僕は、お義兄さんが結婚してくれて本当に嬉しいです」
遠まわしに『この元シスコン野郎が』と言われているような気がするのは考え過ぎだろうか。
目的地に着いた様で、クラウディアが大きな木の下で手を振っている。
「ディア、今、行くよ!」
まるで主の元に駆け寄る飼い犬のように、アーノルドは駆けていく。
(本当にディアのことを愛しているのだな)
その溺愛っぷりを見て、微笑ましいような、恥ずかしいような気分になったあと、セシリアを溺愛している自覚のあるベイルは『俺も周りから見たら、あんな感じなのか?』と、少し不安になった。
つづく




