【追加リクエスト】ブーケトス
※「ブーケトスが見たかった」というご感想をいただいたので、お話を追加しました^^
ーーその後、ペイフォード家にて行われた披露宴の野外会場にて。
真っ白な花束を持ったクラウディアが優雅にセシリアに近づいてきた。
「ベイルお兄様、セシリア様。ご結婚おめでとうございます」
憧れのクラウディアに見とれながら、セシリアは花束を受け取った。心がフワフワして夢のようだ。
「ありがとうございます」
クラウディアは月の女神のように美しい笑みを浮かべている。
「実はこのあと、セシリア様にブーケトスというものをしていただきたいのです」
聞いたことがない言葉にセシリアは首を傾げた。
「ぶーけとす、ですか?」
「はい、私も記憶が曖昧なのですが、確か花嫁が後ろ向きに投げた花束を、未婚女性が受け取ると次に結婚できる、とか、そのようなことだったと思います」
「この花束を、私が投げるのですか?」
せっかくクラウディアに貰った花束を投げたくないと思ったが、クラウディアが考えてくれた企画をやらないと言う選択肢はない。
「分かりました」
セシリアが笑顔で了承すると、念のため隣にいるベイルにも確認を取った。
「セシリアが良いなら」
その言葉を聞いたクラウディアが、披露宴の司会を担当していた男性に合図を送ると、司会の男性は参加者にブーケトスの説明を始めた。
参加者の中から、若い女性が集まってきた。その中には、クラウディアや友人のエミーの姿もあった。皆、楽しそうに瞳をキラキラさせている。
(上手く投げられるかしら?)
セシリアは、今まで生きてきて、物を投げたことがほとんどない。不安に思っていると、ベイルが「ディアは、後ろを向いて投げると言っていたぞ」と教えてくれる。
「そ、そうでした!」
慌てて後ろを向くと、司会者のかけ声に合わせて、セシリアは花束を空へと放り投げた。
晴れ渡った青空に真っ白な花束が吸い込まれていく。花束が見えなくなると、背後で歓声が上がった。
(誰が受け取ったのかしら?)
セシリアがワクワクして振り返ると、白い花束を抱えたクラウディアが綺麗な瞳を大きく見開いていた。司会者に呼ばれ、クラウディアがセシリアの元に近づいてくる。
「私が取ってしまいました」
花束を抱えたクラウディアは戸惑っていた。
「クラウディア様、おめでとうございます。次のご結婚はクラウディア様ですね」
セシリアがそう声をかけると、クラウディアの白い頬がほんのりと赤く染まる。
「セシリア様、お兄様と結婚してくださって、本当に……本当にありがとうございます。お兄様は幸せ者ですわ」
クラウディアの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「そんな……私のほうこそ」
二人で手を取り合い、クラウディアと微笑みを交わす。そのエメラルドのように美しい瞳を見つめていると、吸い込まれてしまいそうだ。
ベイルに「セシリア」と呼ばれたのでセシリアは我に返った。クラウディアは嬉しそうに婚約者のアーノルド王子に駆け寄り、二人で微笑み合っている。
アーノルドに向けた無邪気な笑顔は、大人びたクラウディアをいつもより幼く見せた。
(クラウディア様、か、可愛い!)
セシリアがキュンキュンしていると、左横から視線を感じた。見ると、ベイルがジッとこちらを見つめている。
「ベイル様?」
声をかけると、ふいっと顔を逸されてしまう。
「え?」
逸した顔を覗き込むと、ベイルは「さすがに妬ける」と呟き不機嫌そうな顔をした。
その様子を見て、セシリアは何故か胸がときめいた。
(あ、あれ? えっと……)
目の前のベイルは、とても凛々しく鋭い美貌の持ち主だった。それだけではなく、沈着冷静で判断力に優れ決断力もある。『どうしてこんなに素敵な男性が私を選んでくれたの?』と今でも思ってしまうほど、尊敬できる最高の伴侶だ。
それなのに、自分の妹に妬いて拗ねているベイルが、とても可愛く見えてしまう。
「ベイル様……じゃなくて、ベイル、可愛い」
少しからかってみると、ベイルはサッと目元を赤くした。しかし、すぐに咳払いをして元の冷たい顔に戻る。
「俺をからかうとは……セシリア、後で覚悟しておくように」
「後で、ですか?」
鋭い瞳がさらに細くなり、ベイルは意味ありげに笑った。
「俺に『可愛い』などと言ったからには、本当に可愛い貴女には、その百倍『可愛い』と告げなくては」
ベイルの手が、ゆっくりとセシリアの頬をなぞる。
「もちろん、二人っきりでたっぷりと」
そう耳元で甘く囁かれると、セシリアの頬は瞬時に熱くなった。
ベイルは、話している司会者を見ながら、「もうそろそろ披露宴も終わりだな」と嬉しそうに言った。そんなベイルを見て、セシリアは『披露宴が終わったあとが、少し怖いわ』と思い、こっそりとため息をつくのだった。
【追加リクエスト】ブーケトス おわり