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31 ベイルとのお約束

 豪華な晩餐が終わるとベイルは、セシリアを来客用の部屋までエスコートしてくれた。その間、セシリアの頭の中には、先ほどのベイルとペイフォード公爵の会話がぐるぐると回っていた。


 ――セシリア嬢は失踪したことにする。それを利用して、ランチェスタ家が折れてこちらに泣き縋ってくるまで追い詰めるぞ。


 ――はい。では、セシリアが途中で乗り換えた馬車を使いましょう。ランチェスタの馬車が何者かに襲われたように偽装し、乗っていたセシリアが行方不明になったように見せかけます。


(ベイル様達は、私が行方不明になったことで、お父様とお母様を追い詰めて、私達の結婚を認めさせようとしているのだわ)


 ベイルに「何か不安なことでも?」と聞かれ、セシリアは慌てて顔を上げた。


「だ、大丈夫、です」


 気がつけば、セシリアのために準備してくれた来客用の部屋の前に着いてしまっていた。


「疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」


 ベイルはそう言うと、くるりと背を向けた。


「ベイル様!」


 セシリアは名前を呼んでとっさにベイルの服の袖を掴んだ。ベイルが驚き振り返る。


「その、聞いていただきたいお話が……」


 すぐに言葉にはできなかった、ベイルはいつもセシリアが話すまで黙って待ってくれている。セシリアは覚悟を決めた。


「あの、先ほどのお話ですが、私が行方不明にと」


「ああ、その話か。すまない。不安にさせてしまったか?」


「そうではなく! そうではなくて……」


 ベイルの顔を真っすぐに見れない。


「……私が行方不明になったくらいで、父と母は追いつめられるでしょうか?」


 これまでは、仲の良い家族だと思っていた。両親に愛されていると思っていたし、セシリアも両親を愛していた。でも、情けないことに今となっては、とてもそうとは思えない。


「わ、私がいなくても、弟さえいれば、あの人達は幸せなのでは……?」


 優しく腕を引かれセシリアはベイルの腕の中へと納まった。ベイルの低い声や体温、香りはいつの間にか、とても心を落ち着かせるものになっている。


「心配しなくていい。貴女は確かに両親から愛されている。ただ、その愛が今は歪んでいるだけだ」

「そ、そうでしょうか?」


「そうだ。そうでなければ、貴女の優しさの説明がつかない。両親に愛されていないのなら、どうして貴女はこんなにも優しく愛情深いんだ?」


 ベイルの言葉はいつでも信頼できる。さっきまでの不安は噓のように消え去っていた。


「でしたら、ベイル様もご家族から愛されているのですね。だって、いつもとってもお優しいから」


 ベイルが何かを堪えるように目を閉じた。目元が赤くなり、心なしか腕が震えているような気がする。


「……セシリア、就寝前に部屋の鍵は絶対にかけるように。絶対だ」


「は、はい」


 ベイルがあまりに真剣だったので、セシリアは驚きながら頷いた。


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