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21 淡い恋心の気づきと終わり

 ベイルはセシリアを『妹のクラウディアがお気に入りのお店』に連れて行ってくれた。


(ここがクラウディア様のお気に入りのお店!)


 憧れの女性の新情報に前のめり気味に食いついてしまう。その店は、周囲が木で覆われていて、まるで森の中にある隠れ家のような雰囲気だった。


(妖精さんが出てきそうだわ。さっすがクラウディア様)


 ベイルが「気に入ったようだな」と言ったので、セシリアは「はい!」と、つい熱い返事を返してしまう。


 二人で店の中に入ろうとしたとたんに、背後から「もういい!」と女性の大きな声が聞こえた。セシリアが驚いて振り返ると、エミーがこちらに向かって走ってきていた。その後ろにはレオの姿も見える。


 エミーはセシリアの腕を持つと、怒った顔のまま「セシリア、一緒に食べよ!」とセシリアを店の中へと引っ張った。


「あ、でも、ベイル様が……」

「ベイル様はレオと食べるわよ! 男同士の方が気が楽でしょ!」


 言われてみればそうかもしれない。


「分かったわ。一緒に食べましょう」


 とりあえず席に着くと、エミーが食事のメニューから、適当におススメランチを選び二つ注文してくれた。注文を取った店員が席から離れたとたんに、エミーの表情が暗くなる。


「何があったの?」


 エミーは顔を苦しそうに歪めた後、「レオが……」と呟く。


「レオが、ベイル様みたいな男性と結婚すると幸せになれるって。『じゃあ、私がベイル様と結婚したらレオは嬉しいの?』って聞いたら、『そうだね』って……」


 エミーの瞳からポロポロと大粒の涙が溢れた。


「今日の買い物、私はすごく楽しみにしてたけど、レオからすればベイル様と私をくっつけるためだったみたい」


 その言葉を聞いて、なぜかセシリアも胸が苦しくなった。


(エミーとベイル様はとてもお似合いだわ)


 二人は家柄も容姿もつり合いが取れている。


(私も、少し前まで、二人をくっつけようとしていたくらいだもの)


 エミーは、泣きじゃくりながら両手で顔を覆ってしまう。


「わ、私、もうレオのことなんて知らない……う、ううっ、私、ベイル様と結婚する……」


 その言葉を聞いて、セシリアは頭から冷水を浴びせられたような気分になった。そして、セシリアは気がついてしまった。


(私はベイル様のことが好きなのね……。お友達ではなく、一人の男性として)


 ただ、それを口にするにはもう全てが遅い。


(エミーがつらい想いを振り切って、ようやくベイル様と幸せになると決心したとたんに、私もベイル様のことが好きだと気がついてしまうなんて……)


 どうして、ベイルとのダンスが夢のように楽しかったのか?

 どうして、『ベイル様が本当の婚約者なら良かったのに』と思ったのか?


 今まで気がつこうと思えば、気がつくチャンスはいくらでもあった。でも、セシリアは気がつかない振りをした。ベイルが好きだと気がついてしまうことが怖くて、無意識に必死に心にフタをしていた。


 それなのに、ベイルを取られそうになると、手のひらを返して自分の恋心を認めてしまった。それは、ベイルを取られたくないと、だだをこねる子どものようで、とても恥ずかしいことのように思えた。


(私ってこんなにも、浅ましい人間だったのね)


 浅ましい人間は、ベイルの隣に立つ資格はない。


 セシリアは、にっこりと笑顔をつくった。作り笑いや、愛想笑いは昔から得意だった。子どもの頃から両親に『お前は地味なんだから、せめて愛想くらい良くしておきなさい』といつも言われていたから。


「エミー、私、貴女の新しい恋を応援するわ」


 セシリアが、芽生えたばかりの淡い恋心を無理やり押さえつけると少しだけ涙が滲んだ。


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