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20 人の振り見て我が振り直せ(ベイル視点)

 店を出るとセシリアに「エミーとレオ様はどこでしょう?」と聞かれた。


 ベイルが「二人にしてあげよう」と返すと「そうですね」とすぐに笑顔で納得してくれた。


(俺がセシリア嬢と、二人っきりになりたいだけだがな)


 それだけではなく、本当にレオとエミーを二人にしたほうがいいとも思うのでウソはついていない。


 水色のワンピースを身にまとうセシリアは、とても美しかった。彼女が歩く度にシルバーのイヤリングがゆらゆらと揺れている。


(セシリア嬢が、俺の目の色と俺の髪色をまとっている)


 自分の色に身を包むセシリアを見ていると、ベイルは胸の内に湧いたどす黒い支配欲のようなものが満たされていくのを感じた。彼女は俺のものだと大声で叫んでいるような気分にすらなってくる。


(何が『妹』だ。妹にこんな感情を抱いてたまるか)


 セシリアに触れたかった。ただそれは、彼女が野ウサギのように愛らしいからではない。ベイルの目の前にいるのは、美しく可憐な一人の女性だ。


(俺はもう、今までのように、下心なく彼女に触れられない)


 隣を歩くセシリアが立ち止まり「あ、これクラウディア様に似合いそうですよ」と輝くような笑顔を浮かべたので、『相変わらず、俺には興味がないのか』と不機嫌になってしまう。


 大人げなく「俺に似合いそうなものはないのか?」と聞くと、大きな瞳をパチパチさせた後、「ベイル様は、とても素敵なのでなんでもお似合いですよ」と言われてすぐに機嫌が直ってしまう。


(いや、このままでは駄目だ。なんとかセシリア嬢に俺を見てもらわなければ!)


 ふと気がつけば、高級店街を通り抜けて広場まで出てきてしまっていた。セシリアが「少しここで待っていてもらえますか?」というので、ベイルが大人しく待っていたら、露店で何か箱のようなものを買って戻ってきた。


「ベイル様、これを見てください」


 セシリアが持っている箱に顔を近づけると、中から勢いよく木彫りの鳥が飛び出した。バネで繋がれた鳥は、大きく左右に揺れている。


「ビックリ箱か」


「あれ? ぜんぜん驚きませんね?」

「ああ」


 そんなことよりも、ビックリ箱で驚かそうとしてきたセシリアが可愛すぎて、ベイルは内心悶えていた。


(うっ、ぐ、発想が、発想が! か、可愛すぎるだろう!!!)


 セシリアは「そうですか……。弟のお土産に買ったのですが喜んでもらえないかもですね」としょんぼりしている。


「弟がいたのか?」

「はい、とっても可愛いんですよ」


 その言葉にベイルはモヤっとした。


「……仲は良いのか?」

「はい、一緒に寝たり、あとは……」


 セシリアは無邪気な笑顔を浮かべた。


「一緒にお風呂に入ったりしています」


 その言葉にベイルは急に激しくむせた。


「だ、大丈夫ですか!? ベイル様!?」


 心配するセシリアに、ベイルは「大丈夫だ」と手で制する。


「それより、セシリア嬢は、今……なんて言った?」

「大丈夫ですか?」


「それではなく! ほら、弟と!」

「あ、一緒にお風呂に入る、ですか?」


(俺の聞き間違いではなかった! なんだそれは!? 姉弟の仲が良いの次元を超えているぞ!?)


 ベイル自身、妹のクラウディアのことを可愛がっている自覚はあった。周囲には「過保護すぎる」やら「溺愛しすぎ」「いいかげん妹離れしなさい」などと言われたこともある。


 今までは、どうしてそんなことを言われるのか分からなかったが、たった今分かった。


(たとえ血が繋がっていても、男女だからだ!)


 距離感を間違えてはいけない。


(今なら、俺がどうして婚約を断られまくったのかが分かる)


 自分の夫になる相手が例え妹であろうが、他の異性を溺愛していると良い気はしない。


(実際に、今、俺は弟にものすごく嫉妬をしている!)


 ただ、セシリアは妹を溺愛しているベイルのことを、友達として快く受け入れてくれた。


(俺が、弟を溺愛しているセシリア嬢を受け入れないわけにはいかない)

 

 自身の内側から溢れ出す黒い感情を必死に抑えながら、ベイルはセシリアに話しかけた。


「弟は、その、どういう気持ちでセシリア嬢を……?」


「はい、いつも『おねえさま、だいすき』って言って抱きついてくれますよ」


(……殺したい)


 軽く殺意を覚えてベイルは慌てて首を振る。


(駄目だ! セシリア嬢の実の弟だぞ!? 殺してどうする!? それより、一度会ってどんな男なのか直接判断したほうがいいな)

 

 そんなことを考えていると、セシリアが、ものすごく恥ずかしそうに、ものすごく言いにくそうに「あの、ベイル様。食事にしませんか? 私、お腹がすいてしまって……」と呟いた。


(がはっ!?)


 愛おしい人の羞恥の表情に瀕死のダメージを受けながら、ベイルはひとまず弟問題を先送りにした。


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