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17 セシリアは自分の可愛いを探したい

 セシリアがハッと我に返ると、右手にスプーンを持っていて、なぜかそのスプーンでお皿の上にあるパンを食べようとしていた。


「あ、あれ? 私はいったい……?」


 食卓テーブルを挟んで座っている父と母が、心配そうにこちらを見ていた。もう食事が終わったのか、幼い弟の姿はない。


 母が「昨日の夜から、ずっとぼんやりしてるわね。熱でもあるんじゃないの?」と言い、メイドに体温計を持ってくるように指示した。


「いえ、大丈夫です。少し考え事をしていて……」


 父は「夜会で何かあったのか?」と眉をひそめている。


「そういうわけではありません」


 ただ昨日、馬車から下りた後の記憶がはっきりしない。


(確か、ベイル様が送ってくださって、馬車から下りた時、私が足を踏み外して……)


 とたんに、ベイルの逞しい腕やがっしりした身体を思い出し、瞬時に顔が熱くなる。


(そうだったわ。私が落ちそうになったら、ベイル様が抱き止めてくださったのよね)


 助けてもらっただけなのに、今感じているこの恥ずかしさは、前にベイルにお姫様抱っこされた時の恥ずかしさとは、また種類が違うような気がする。


(そのあとに、ベイル様が『呪いを解く』とかなんとか言って……)


 額に押し付けられた柔らかい唇の感触を思い出してしまい、セシリアは勢いよく食卓テーブルに突っ伏した。


「セシリア!?」


 両親の驚く声が聞こえる。


(そうだったわ。ベイル様が私の額にキスして……)


 余りに予想外の出来事に、情報処理が追い付かず、その後から今まで記憶が飛んでしまっていたらしい。


 父が「いったい何があったんだ!? ベイルくんに何かされたのか!?」と鼻息を荒くしたので、セシリアは慌てて顔を上げて「何もされていません!」と首を振る。


 両親は顔を見合わせた。


「あなた……やっぱり、セシリアは夜会で嫌な目にあったのよ」

「そうだな。あのベイルくんの隣に、セシリアみたいな地味な子がいたから、きっと嫌がらせでもされたんだろう。可哀想に」


 両親は内緒話というには大きすぎる声でそんなことを言い合っている。


 それを聞いたセシリアの頭に、急にベイルの言葉が頭に浮かんだ。


 ーーあなたはあなたのご両親に日常的に『地味だ』と侮辱されている。どうかその言葉を『仕方ない』と受け入れないで欲しい。


(ベイル様はああ言ってくださったけど、今の私は確かに地味だわ。でも、これから可愛くなる努力はしても良いのかもしれない)


 ベイルはウソをつかない。短い付き合いだけど、セシリアはそれだけは確信が持てた。


(ベイル様は『私とクラウディア様はあまり違いがない』って。でも、『可愛いの種類は違う』って、おっしゃていたわ)


 『地味だから』と諦めるのではなく、これからは『自分なりの可愛いを探してみたい』と今ならセシリアは思えた。


「お父様、お母様、新しいワンピースを一枚買っても良いでしょうか?」


 我が家はお金に困っていないが、記念日以外に贅沢品を買う習慣はなかった。


 父は憐れむような表情で「一枚と言わず、好きなだけ買っていいぞ」と言ってくれた。母は「いつもの服飾屋を呼びましょうか?」と聞いてくれる。


 セシリアは首を左右に振った。


(いつもの人達は、きっといつものように地味なものを勧めてくるわ。それじゃ何も変わらない)


「いいえ、街に買い物に行きます」


 母は傷ついた我が子を憐れむような瞳を向けている。


「そうね。気分転換してきなさい」

「ありがとうございます」


(でも、さすがに一人で行くのは勇気がいるわね。エミーを誘ってみようかしら?)


 お誘いの手紙をエミーに送ると『いいよー!』とすぐに手紙で返事をくれた。


 しかし、それには続きがあって、『レオも一緒に行きたいって言っているの。あと、ベイル様も誘ってほしいんだって。嫌なら私からレオに言っておくから、遠慮しないで言ってね』と書いてある。


(できればエミーと二人で行きたいけど……。もしかしたら、これをきっかけに、エミーとレオ様の仲が進展するかも?)


 エミーには恋を叶えてぜひとも幸せになって欲しい。


(うん、私は二人を応援しよう! ベイル様にも事情を説明したら、協力してくれるかも?)


 ベイルに手紙を送ると、翌日には『事情は分かった。俺も協力しよう』と返事が届いた。


「良かったわ」


 当初の目的の『可愛くなるための買い物』ということをすっかり忘れて、セシリアは「よし、エミーのために頑張るわよ!」と気合を入れた。

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