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10 期待と不愉快(ベイル視点)

 数日後、ペイフォード公爵家にセシリアからベイル宛に荷物が届いた。


 ちょうど朝食を終えたところだったので、同席していた父とクラウディアが興味深そうにこちらを見ている。


「お兄様、セシリア様からですか?」


「ああ」


 箱には、二つ折りのメッセージカードが添えられていた。カードを開くとセシリアらしい可愛い手書きの文字が並んでいる。


 ーーベイル様、素敵なドレスと本を下さりありがとうございます。


(ああ、なるほど)


 セシリアに贈ったドレスは、春の野原のようで、彼女のために作られたかのように思えた


「前に、俺がセシリア嬢に似合いそうなドレスを贈ったので、その礼のようです」


 父が「お前が、思いを寄せる女性にドレスを贈るなんて……。選んだ品が意外とまともで安心したぞ」と失礼なことを言っている。


 メッセージカードには続きがあった。


 ーーお礼にベイル様が喜ぶものをお贈りします。セシリア


(俺が喜ぶもの?)


 父から「ベイル、開けて見なさい」と指示を受け、箱を開けるとそこにはクラウディアの絵姿が入っていた。


 席から立ち上がって箱を覗き込んたクラウディアが「わ、私!?」と驚きの声を上げる。ベイルは箱の中の絵姿を震える手で取り出した。


「こ、これは、ディアが殿下の婚約者に選ばれた際に、有力貴族達への顔見せも兼ねて限定枚数で配布された、あの希少な絵姿!」


 ベイルも欲しかったのだが、クラウディアに「お兄様は私の顔を知っているでしょう? これを持つ必要はありません」ときっぱり断られてしまった。


「こんなに貴重なものを俺に!? やはり、俺の婚約者はセシリア嬢しかいない!」


 ベイルは改めてそう強く思ったが、そんなベイルを見て父が静かに頷いた。


「セシリア嬢を逃すと、ベイルは一生結婚できないな」


 その言葉を受けたクラウディアは「そうですね。お兄様の幸せのためにも頑張りましょう」と言いながら、深いため息をついた。


「まずは、私がセシリア様にお会いしないと」


 父が「どうする? また茶会でも開くか?」と言うと、クラウディアは「いえ、セシリア様に警戒されないように、できれば偶然を装ってお会いしたいのですが……」と言いながらベイルを見た。


「お兄様、今度お城で開催される夜会に、セシリア様と一緒に参加していただけませんか?」


 夜会は苦手だった。ベイルが返事に詰まると、クラウディアは「お兄様が贈ったドレスをセシリア様が着てくださると良いですね」と微笑む。


「……分かった。セシリア嬢を誘ってみよう」


 夜会への誘いの手紙をセシリアに送ると、セシリアは二つ返事で承諾してくれた。しかも、『ベイル様にお会いできる日が楽しみです』という嬉しい言葉まで添えられていた。


(俺が夜会を楽しみにする日が来るとはな)


 それから、あっと言う間に夜会が開催される当日になり、ベイルは馬車に揺られてランチェスタ侯爵家を訪問した。玄関ホールで出迎えてくれたランチェスタ侯爵夫妻は、とてもにこやかだった。


「ベイルくん、ようこそ」

「セシリアはすぐに来ますわ」


 その言葉通りにセシリアは、階段から降りて来た。


「お待たせしました。ベイル様」


 愛らしい笑みを浮かべるその人は、ベージュのドレスを身にまとっていた。


(これはこれで似合っているが……。セシリア嬢には、俺が贈ったドレスのほうが断然似合うぞ)


 ベイルが少しもどかしい気持ちになっていると、ランチェスタ侯爵夫人が「早くしなさい」とセシリアを急かした。


 ランチェスタ侯爵も「そうだぞ。時間をかけても、お前が地味なことには変わりないのだから」と言いながら何がおかしいのか楽しそうに笑っている。不快な言葉を投げかけられているのに、セシリアは気にした様子もなくニコニコと笑っていた。


(俺は今、どうして不愉快なんだ?)


 セシリアが自分が贈ったドレスを着ていないから?


(違うな。今のセシリア嬢もとても愛らしい)


 ベイルはセシリアの左手を取ると、その手の甲に唇を落とした。驚くセシリアの手を引き、ベイルの腕を掴むように優しく誘導する。妹のクラウディアをエスコートする機会が多かったので、女性のエスコートなら問題なくできる。


 その様子を見ていた侯爵が「やはり、華やかなベイルくんと地味なうちの子では、釣り合わんなぁ」と笑ったので、夫人が「おほほ」と笑いながら侯爵の背中を叩いた。


(ああ、なるほど)


 殺意にも似たような鋭く冷たい怒りがベイルの胸の内に渦巻いている。


(俺の『数少ない大切な人』を侮辱されているから、こんなにも腹が立つのか)


 ベイルは怒りを押し殺して、セシリアの歩幅に会わせゆっくりと歩き出した。


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