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5話目 春風の便りとしてはあまりに過酷な現実を知らされた

嬉々として、今にもスキップしそうな上機嫌で教室に向かうエンの後を付いて行く。

おばちゃんはともすれば勝手にいろいろな方向に行こうとする火力バカ共のリードをコントロールするのに四苦八苦していた。

魔牛乳帝様、他人に預けるならもう少しちゃんと躾けてくださいね。

リードを持った者には絶対服従と言うことを心と体に刻み込んでください。

躾ければ何とかなるに違いない火力バカ共にかまけていたら、一番野放しにしてはいけないエンの奴がどんどん離れて教室に向かって行っているじゃないですか。


3年生の進級時にクラス替えはないので、俺は2-8組から3-8組にそのまま持ち上がりだ。

クラスメートには当然、お淑やかな大男さん、火力バカ共、そして、土壁の不落城のチームメンバーもいる。


火力バカどもが言うことを聞かないせいで、先に行くエンが廊下の角を曲がって、その姿が見えなくなってしまったじゃないか。


うぁぁぁ、このままだと3-8組がパニックになるぞぉ。

おばちゃん、急げぇ。

エンが暴れ出す前に何とかしなきゃ。

そうだ、ぱっちゃの形見で再々復活したエンの毛根を刈り取り、礼拝堂の裏にある修道院にザビエル君の弟として送り込んじまおうよ。

ザビエル君の弟なんていったらいきなり幹部候補生じゃないか、修道院では。

エンも大出世で幸せだぞ。

一生涯、下界には戻してもらえない高みに上るけどな。

まぁ、それで肉壁の穴と魔法学校の平和が保たれる。

2年生が進級してくる前に、あいつが18歳になる前に、エンを高みに上らせようよ。

何なら本当の高みに・・・・・、いや、あいつは地獄行きが確定だった。


"こいつら全くいうこと聞かないわね。

犬小屋(意訳: 3-8の教室の後ろすみで床に正座)に連れて行こうとしているだけなのに

魔牛乳はいったいどういう躾しているの。

乳ばっかりでかくなりやがって。"


もしかして、元の犬小屋、2-8の教室に行こうとしてんじゃないの。

進級したことをちゃんと教えてないから、乳を育てるのに忙しくて。


"あっ、そういうことかぁ。道理で階段を登りたがっているわけだわ。"


3年生の教室は1階にあるのだ。

取りあえず、リードを引っ張って、引きずって行くしかないな。

3匹を引き受けようか。


"お願い。2、4、5号をお願い。"


俺はリードを3本、おばちゃんから受け取って、それを背中に担いでぐいぐい引っ張った。


ぐぇっ、げぼっ、ぐぐぐっ。


なんかやばい音が聞こえたが、気にしてはいけない。

それよりもエンを早く追いかけねば俺たちのクラスがまずい、パニックになる。

いつもはいないはずのエンが朝の教室で大暴れだ。


"まぁ、ちょっとした騒ぎにはなるけど手が付けられない暴動暴挙騒ぎにはならないでしょ。"


えっ、そうなの。

もしかして、もう慣れっこなの、クラスメートの女子は?


"そんなことはないわよ。

みんな相当嫌がっているわよ。"


じゃぁ、やっぱり大騒ぎだよ。


"でも、悲鳴なんてのは聞こえてこないわよね。

何か廊下を走って逃げるよう音は聞こえるけど。

あとはびしゃっと顔を叩くような音も聞こえてこないわよ。"


もう、エンの弩スケベな行為をどうこうしようとか、騒ぎ立てるのはあきらめて逃げの一手ということなのか。


"まあ、そんなとこね。"


しょうがないというあきらめか。

エンの奴をひいきしているわけじゃなく、どうしようもないというあきらめなのか。

こんな状態をさらにこの1年間、受け入れるってことなのか。

耐えられるのか、みんなは。


"耐えられないから、皆が逃げ出しているんでしょ。"


そうしたら、やっぱり、憲兵に突き出して軍法会議に掛けろとまでは言わないけど、礼拝堂裏の修道院に幹部として永久就職はさせるぐらいはしないと。


"まぁ、この火力バカ共が同じことをやらかせば当然、そうなるわね。"


そうだったらエンにもそうはしないと。

やっぱり、ひいきされているような気がするな。

何でだ?


俺は火力バカ共のリードを引きずりながらその理由を考えた。

俺が物思いに沈んだところでおばちゃんがさらに念話をおくってきた。


"エン君のチームの役割は何。"


おばちゃん、いまさら何言ってんの、そんなの斥候職だよな。

ボケたのか。


"誰がボケたババァじゃぁぁぁぁ、ちがうわぁ。怒

そっ、彼はお淑やかな大男さんチーム、いえ、3帝が所属する中隊の唯一の斥候職なの。"


それが奴の弩スケベな行いがあきらめられていることとなんか関係があんのか。


"まずは聞いてくれるかな。

3帝の実力は本物、来年軍に就職すればその活躍が期待されているわよね。

おそらく激戦地かかなり不利な戦場に送られて形勢の一発逆転を期待されているわよ。

もちろん、リュウ君もね。"


俺のことは良くわからないけど3帝についてはそうだな、おそらく。

火力の魔牛乳帝様、防御と回復の座敷童帝様、そしてなんといっても人類の切り札とでもいうべき雷属性魔法術士の弩S腐女帝様。

軍の新戦力として大いに期待されているのはわかるよ。


"その3帝が所属する私たちの中隊はこれから激戦に次ぐ激戦になるわよ。"


そうだよな。

でっ、それとエンとの話がどうつながるんだ。


"私たちの中隊が来年、激戦地を抱えたある実働部隊に配属されるのはわかったわよね。

激戦地に送られた私たちの中隊の中で敵に最も近い所にいるのは誰か。"


最前線、かぁ。

攻撃しないと敵を倒せないから、そうすると火力バカ共か。


"ちょっと違うかなぁ。

いつもの演習の時を思い出して。

攻撃するにしても退却するにしても必要な事があるでしょ。

その重要な事をもたらす者が最も敵に近い所にいるんじゃないかしら。"


攻める、退くに必要なモノ・・・・、あっ、もしかして敵の情報か。


"そっ、さすが私のリュウ君だわ。

良く分かったわね。

その敵の情報を誰がどこで集めるの? "


そりゃぁ、斥候が敵の前面で・・・・・・。

そうか、斥候職って部隊の一番前に出て、こっそり敵状を探るのかぁ。


"そっ、斥候職は味方の防御職に守られもせずに最前線に出ていくのよ。"


ということは、エンは来年、最も激しい戦いが行われる戦場の、しかも敵に一番近い所に行くことになるのかぁ。


"人類軍の斥候職の10年の生還率って知ってる。"


軍に就職して、10年後にどれだけの斥候職が生存しているかってことか。

基本的に敵と戦うわけじゃないから8割ぐらいじゃないの。


"魔法術士とそれを守る防護職の肉壁ちゃんはそれぐらいね。

火力担当の肉壁ちゃんは6割ぐらい。

そして、斥候職はさらにぐっと下がるの。"


えっ、そんなに少ないのか。


"そうよ。

平均的な斥候職でさえそのぐらい。"


平均的って、どういうこと。


"言いたいのは最前線と言えども部隊はいつも敵と戦っているわけじゃなくて、むしろ、敵とにらみ合っている、待機している時間の方がはるかに長いってことよ。"


じゃぁ、激戦地に配属されやすい俺たちの中隊は。


"常時あちこちの戦いに駆り出されるってことはないでしょうけど、他の中隊に比較して戦っている時間の方が長いでしょうね。"


おばちゃん、それって・・・・・、エンの奴は・・・・・・・。


"幼馴染のリュウ君には本当に言い難いけど、あと何回誕生日を迎えられるか、普通に考えると片手で数えられるぐらいかもしれないわね。

そして、このことはクラメイトの全員が察しているし、当然、エン君もそれはわかっていると思うの。"


おばちゃんの話に動揺した俺は、思わず握っていたリードを離してしまった。

自由を得た火力バカ2、4、5号は待ってましたとばかりに階段の方に突撃して行った。

俺は目でそれを追ってはいたが、そんな些細なことは今はどうでもよく、しまったということさえ頭の中に浮かんでは来なかった。

おばちゃんの話からエンのこれからの過酷な定めを思い知らされて、それ以外のことは俺の心は何も受け付けなくなってしまっていた。


ここまでの成果

魔力回復: 8%

次にスキルを発動するまでのクールタイム: 27時間16分

(動揺しています。ひたすら、動揺しています。)


活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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よろしくお願い致します。


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