30話目 作戦開始を待つ
いつでも次の作戦行動に移れるように準備を整えつつ、俺たちは目標地点に急いだ。
原野の移動は足元がおぼつかないため、かなりの体力を使う。
下草があまり深くないところを選んでいるため、足元を確認しながら進めるのがせめてもの救いだった。
"えっと、もう100m進んだところが目標地点よ。"
おばちゃん、こんな原野で目標地点が分かんのか。
さすが年の功だ。
"なに言ってんのよっ、リュウ君。
こんな、ぴちぴちのギャルを捉まえて、年の功だなんて。
プンプン♡
リュウ君じゃなきゃ、頭の天辺の毛根と永久に別居生活になっていたところよ。
話を戻すと、エン君に9時から1時の方向を索敵しつつ、私たちの周りに敵がいないかを探ってもらっているんだけどね。
そのついでに、目標地点までの距離を時々教えてもらっていたの。"
だから、年甲斐もなく♡をむやみにぶっ放すのはやめれぇぇと、何度言ったら。
まぁ、それは良いとしてだ。
なんだぁ、おばちゃんはエンと仲が良いな。
"あら、やきもちなの。
大丈夫、私はリュウ君一筋だからね。
一生離れないから、にたぁ~♡。"
背中に直径80cmのアイスランスを3本ほど突っ込またれ様な悪寒が。
"さぁ着いたわよ。
エン君が見ている範囲では魔物や魔族を探知できないって。"
そう言うとおばちゃんはチームの先頭、お淑やかな大男さんの前に進み出て、ハンドサインで行軍停止と目的地に到着を示した。
さらに、自分の近くに寄るように合図を送ってきた。
これからチームへの指示を出すつもりらしい。
そして、小声で話し始めた。
「ここが目的地よ。
エン君の索敵の報告からこの周囲1kmには魔物も魔族も発見できなかったって。」
「弩スケベはどこに居んだ。」
「ここ先さらに500m先の地点にいるわよ。
彼の周囲にも何もいないって。
恐らくオーガとクマさんが集団で行進してきたんで、皆逃げちゃったんじゃないかな。」
「それで、これからどうするのジャンカちゃん。」
隠れ弩S帝様の言葉に真顔になってうなずく、おばちゃん。
「火力バカ共のチームがオーガ、そして、クマさんへ攻撃をしたら作戦の開始です。
攻撃を開始したことは音や煙でわかるとは思うけど、エン君が知らせてくれることになっています。
クマさんを攻撃して2分間、エン君が魔族の偵察隊を索敵します。
クマさんたちを攻撃したことで魔族の部隊が姿を現すかもしれないので、そこを捉まえるということ。
運良く? 運悪くかなぁ、魔族の偵察隊が見つかって、且つ、その規模が大隊レベル以上であれば、急いで第3中隊の下に戻ります。
その間にエン君が敵の情報をさらに収集して、次の行動については第3中隊の陣地で決めまします。
中隊以下であった場合は、エン君に敵の場所を指示してもらい、そこにリュウ君がウォターニードルをぶち込み、アイスフィールドを展開して敵を冷凍、最後に巨大なアイスランスで範囲攻撃ね。」
アイスランスって、範囲攻撃に使用するものなのか。
"魔力が余っているんでしょ。
ば~っんと使っちゃいなさいよ。
そうしないと魔力総量が増えないでしょ。"
そして、さらに魔力を持て余すと。
"肉壁の穴を卒業して、最前線に配属されたらいくら魔力があっても困らないわよ。
最前線の戦いを何とか生き延びて、年季が明けたら退官。
そして、あこがれの駄菓子屋生活♡。
良いわねポチ、駄菓子屋を開店するための退職金を稼ぐまでは何としてでも生き延びるのよ。"
ブレないなぁ、おばちゃんは。
直ぐ近くに敵がいるかもと言うのに。
「えっと、汚物君が敵を発見できなかったら? 」
「その時は予定通りね。
まずはこのまま500m前進するの。
到着したらリュウ君がそこから、第17師団の最前線基地のある方向を12時として、9時~13時の方向にウォターニードルを振り撒くの。
エン君がその範囲を観測して、索敵。
見つからなかったら、12時の方向に500m移動して、またアイスニードルを振り撒くの。それを繰り返すのよ。
あ、アイスニードルの到達距離は550mに調整してね、リュウ君。」
「そんな細かい魔法制御ができるかわかんないぞ。」
「だいたいで良いわよ。
実は敵がいなかった、全くの無駄足だったということも考えられるしね。
その時は魔法制御の訓練をしたと思えば少しは気が晴れねんじゃない。」
"それでも不満だったら、今晩はオオカミに変身して、私を洞窟に引きずり込んで野生に還っても良いわよ。
好きなだけ私でうさ晴らししてねぇぇぇ♡。"
今晩は久しぶりのまともな夕飯なんだぞ。
自炊のキャンプ飯じゃないんだぞ。
今晩はそれに俺の全てを賭けるんだぁ。
おばちゃんの分も食べてやるぅぅぅ。
"ちっ、何で私を食べちゃうって言えないかなぁ、リュウ君の根性なしぃ。"
「ジェンカちゃん、弩阿呆は倒れるまで魔法を使わせれば良いと思うけど、作戦としては敵が発見できない場合に、弩阿呆と汚物君のウォターニードルによる索敵はどこまで続けるつもりなの。」
「5kmぐらいにしましょうか。」
「だったら、アイスニードルの到達距離を500mじゃなくて1kmまで伸ばした方が良いと思うわよ。
縦の索敵の範囲は移動するから広がるけど、横は500mのままよね。
横を1kmまで伸ばして、魔力が尽きた弩阿呆は捨てて行けばいいんじゃないの。」
俺の夕飯がぁぁぁぁ、俺の実地訓練の唯一の楽しみが奪われていくぅぅ。
くっそぉぉぉっ、弩S炸裂だぁぁ。
"あっ、それも良いわね。
魔力が尽きて、倒れるリュウ君。
気が付いたら側には私しかいない。
私を襲って食べちゃえぇぇぇ♡。"
あっ、そん時は背中に背負ってきた携帯非常食のビーフジャーキーをかじるから良い。
"リュウ君、今日はとことんいけずねぇ、もぉっ。"
「ジェンカちゃん、これで作戦の詳細が決まったよな。
じゃぁ、火力バカ共の攻撃を待たずに、周囲を確認しながら500m前進するってのはどうだ。」
「ボルバーナちゃん、焦らないで。
ジャンカちゃんがさっき、シュリちゃんたちが魔物を攻撃した刺激で、魔物を操っている魔族部隊が飛び出すてくるのを待つといってたわよ。
私たちが攻撃前にのこのこ出ていたら、作戦上まずいわよ。」
「そっかぁ、わかった。このまま待機だな。」
「ボルバーナちゃん、そう焦らなくてももう直ぐよ。
火力バカ共も第3中隊の陣地から2km弱の移動でしょ。
私たちよりもちょっとだけ移動距離が長いだけよ。
もう直ぐ攻撃が始まると思うわよ。」
おばちゃんが凶暴な幼稚園児を諭しているときに、爆撃音、多分、巨大なファイヤーボールかファイヤーランスをぶち込んで、地面で炸裂したような音が聞こえてきた。
慌てて音のする方を見ると、何やら黒い煙が上がっているのが見えた。
「始まったわね。」
隠れ弩S帝様がその二つ名に恥じない凶悪な目を輝かせながら、黒い煙の方を見てつぶやいた。
ここまでの成果
魔力回復: 25%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 23時間11分
(始まったか。
緊張しながら作戦開始を待っていたらクールタイムが伸びちゃったぞ。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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