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4話目 肉片はハンバーグになりたい

入学式後一週間が経って座学の授業も始まり、漸く周りのクラスメイトとも気恥ずかしさを感じないで自然と話をできるようになった頃だった。

帰りのホームルームで例の義足の教官が杖を教壇にどんどんと打ち付けて、俺たち生徒の目を引き付けてから叫ぶように話を始めた。


「お前ら、来週から軍事訓練(意訳: 肉壁ちゃんに変身するための訓練)を始めるから4~6人の、できれば5人でチームを組んでおけよ。

まずは取り敢えずで良いからな。

気の合った者同士とか、補完し合えるスキルを持った者同士とか。

合わなかったら、後で別のチームに移動しても構わんぞ。

もちろん、隣のクラスの奴でもいいぞ。

実習はクラス合同で一緒にやるからな。

まぁ、普通はこの肉壁の穴1年生の間に、卒業後も一緒の肉壁になる仲間を作り上げているような感じだ。

取り敢えず来週からの肉壁の実習までに決めとけ。

あぁ、万が一どのチームにも入れない肉の切れ端が出たら、わかっているよな。」


肉の切れ端・・・・・、あぁ、肉の塊に入れなかったかわいそうな余りもののことね。

まあ、俺には関係ないや。

誰とやるなんてあまりこだわりはないからな。

どっかに混ぜてもらえるだろう。


とっ、気軽に考えていた時期がありました。

俺は他のクラスメートが休み時間や寮の中でチームを作るために奔走していたときにだな、まぁ、何だぁ、たらふく3食を優雅に食っていただけだった。

飯はタダだからな。腹に入らなくなるまで喰うのが軍人としての心得だろ。

いざ戦いが始まったら、飯なんていつ食えるかわかんないんだからな。

俺は一人で頑張った。

もう、俺のチームは食堂のおばちゃんたちで良いと思うくらい、食堂に居る時間を大事にしてたんだ。


飯をかき込み続けること一週間。

朝のホームルームでいつもの様に義足の教官が杖をドンドンと床に打ち付けてから話しを始めた。


「お前ら実習チームは決まったか。

確認するからチーム毎にちょっとまとまってみろ。

そして、チームの代表はこの紙にメンバーをかき込んで提出しろ。

チーム名が決まっていたら書いても良いが、中〇のような、最強○○とか参上、激烈○○のようなヤツは却下な。

そういう阿呆はクループ全員で放課後に訓練場50周な。

少しは落ち着くだろう。

もう、いい年なんだから、そう言うのは止めような。

わかったら、早く動け。」


再び教官が杖をドンドンと床に打ち付けたのを合図に、クラスメートたちはワイワイしながら移動を開始した。

クラス40人の一斉の移動だ、がやがやうるさい。

俺のような御大尽様は皆が動いたからゆっくり動くべきだな。

それが大人の余裕って言うもんよ。


とっ、優雅に皆が移動するのを眺めていた。

さぁて、どのチームに入ってやろうかな、と思いまわりを見渡すと・・・・・・。


えぇぇぇぇっ!!

なんで皆はもう名簿用紙に名前と中〇なチーム名を書き終わって、義足の教官に提出してんの。

何を仲良く雑談何か始めちゃっているの。

今はホームルーム中でしょ。

静かにしようよ。

そして、もう一度良おぉぉぉぉく、チームのメンバーを選らび直そうよ。

俺、今フリーだよ。

今なら食堂のおばちゃんとツーカーな俺がチームに入ってやれるんだよ。

俺がいれば食堂で黙っていても大盛り、てんこ盛りのご飯を出ししてもらえるんだよ。こんな人材どこにもいないよ。


声を掛けられるのを期待して、そんな風に体も心もオープンにして、キョロキョロとクラスの中を見回した。

その時の俺はきっと、捨てられて子犬のような顔をしていたに違いない。

超可愛いだろう。

何方か拾っていただけませんか。

お願いします。

このままだと、肉片になっちゃいます。


さらにウルウルすること数分。

皆はチームの仲間と雑談するのに夢中で俺の方なんて見向きもしてくれねぇ。


と、捨てられた肉片として生きて行く、孤独な紙様として生きて行くことを覚悟したそのとき、ついに、俺の肩を叩く者が現れた。

なんだぁ、もっと早く誘ってくれよぉ、肉片決定かと思ったよぉ。

もう、こんなにじらすなんていけずなんだからぁ。

とっ、心をときめかせながら叩かれ肩の方を振り向いた。


「なんだぁ、リュウはどこのチームにも誘われていないんだ。」

「なんだ、エンか。」

「どうしてとも言うなら、俺のチームに入れてやらんこともないぞ。」

「えっ、そうなのか。こんな肉片でも拾ってハンバーグの一員にしてくれるのか。」

「まぁ、しょうがねぇな。

ちょっと待ってろ、チームの名前を書く用紙をもらって来るからよ。」


というと、エンは颯爽と教官の方に走って行った。

心なしか弾んでいるように見えた。

エンってなんて優しいんだ。

持つべきものは同郷の友達、幼馴染だな。

俺はエンの後ろ姿に後光を見た。


そうして、心の中で手を合わせてエンを崇めていると、例の用紙を手にして戻ってきた。


「俺が名前を書くから、次にお前の名前を書け。良いな。」

「おぉっ、わかった。

でも、俺が2番目でいいのか。先に決まっていた他のメンバーが先に書くべきじゃないのか。」


俺は用紙に自分の名前を書いていたエンに話しかけた。

漸く拾ってもらった肉片だからな、ハンバーグになじむまでは謙虚でいないとな。

後で、ポロっと俺だけハンバーグからはじき出されて、肉片に戻るとかは困るからな。


「良いんだよ、これで。

それより名前を早く書け。」


そう言って、用紙を俺の面前に突き付けてきた。

俺は用紙を受け取って、エンの下に名前を記入しながら言った。


「悪いな皆、先に名前を書かせてもらうよ。

まぁ、名前を書く順序なんて関係ないよな。

良し、出来た、次は誰が書くんだ。」


と、次に記入するメンバーがいる後ろを振り向いた。

んっ、右を見た。左を見た。上を見た。下を見た。

そして、正面を見た。

エンがただ一人、俺の前に座っていた。


もう一度、前後左右上下を見たが、正面のエン以外は俺の周りに誰もいなかった。


俺は恐る恐るエンに尋ねた。

「俺たちの他のチームメンバーはどこだ。他はトイレか。」

「二人だけだぞ、それがどうした。

とにかく良かったな、チームに入れて。」


てっ、エン、てめぇもおひとりさまの肉片だったかぁ。


「でも、教官は4~6人のチームを作れって言ってたんだよな。」

「リュウが3人分働けばいいんじゃねぇか。」

「えっ。」

「人の3倍も飯を食ってんだから当然だろ。」

「あっ、まぁ、そう言われるとそうかなぁ。」


「俺は斥候職なんで、基本一人で働くから本陣はお前に任せた。

頼むぞ。」

「あぁ、わかった頑張るよ。」


その時に突然、頭の中に女の子の声が響いてきた。


あぁ、女神の声が聞こえる。

肉壁ちゃんにもなれずに、紙様のまま天に召されるのかも。


"なん言ってんのこの阿呆は。"


まさかのツンデレの女神様でした。

どうせ召されるなら可愛くて、優しくて、ボインボインの女神様が良かったな。


"このセクハラ大食らいの間抜けな肉片がぁ。"


大食らいはしょうがないけど、まぁ、セクハラも許容範囲としよう。

でも間抜けは言い過ぎだと思いますが女神様。


"間抜けが嫌なら、セクハラ大食らいの阿呆で間抜けな肉片。

ってか、肉片は否定しないの。

まぁ、それは良いわ。

本体に阿呆で間抜けなヤツしかいないところになんて魔法術士なんて誰も来てくれないわよ。"


えっ、そうなの。なんで。


"とことんどうしようもない阿呆ね。

頭にご飯粒が詰まっていて、その上で青カビが生えてんじゃないの。"


いやぁ、そんなに褒められても何も出ませんよ。

てか、頭にご飯が詰まっているならいつでも食べられて便利だよな。

俺って、超使える奴じゃねぇ。


"は~ぁ。肉片な訳がわかったわ。

誰もチームに誘わない訳だ。"


ここまでの成果

魔力回復: 0%

次にスキルを発動するまでのクールタイム: 58時間35分

(ついに魔力回復がなくなったぞ。でっ、クールタイムの意味あんのか。)


活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願い致します。


本作品は前作「聖戦士のため息」シリーズのパラレルワールドの位置付けとしています。

本「聖戦士のめまい」とともに「聖戦士のため息」シリーズも合わせてお楽しみいただけたら幸いです。


"聖戦士のため息シリーズ "

シュウとエリナ、イリーナ、輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。


・本編 : 聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます

・別伝1 : 死神さんが死を迎えるとき

・別伝2 : 優しさの陽だまり

・別伝3 : 陽だまりからの贈り物 優しさの陽だまりから

・外伝 : アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記

・別伝4 : 炎の誓い


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