39話目 演習 後編
おばちゃんは腕を組んで少しの間考え込んでいた。
「よし、ここに居てもらちが明かないわね。攻めましょう。」
火力バカの狂犬たちが待ってましたと言わんばかりに、吠えまくる。
「「「よっしゃぁ、行くぞう。
漸く俺たちの出番だぁ。
ゴホゴホ、ゲホッ。」」」
そんなにリードを引っ張るな、首が締まっているぞ。
リードを持つお淑やかな大男さんも困っているだろ、多分だけど。
「まずは、火力バカ共3体が森の左、真ん中、右に分かれて突撃。
敵がいれば攻撃、いなければそのまま森の向こう側まで走り切れ。
ただし、森からは出ないで一旦は待機。」
「「「えぇぇぇぇっ、そのまま突撃じゃないの。」」」
おばちゃんは一つ小さくため息をついた。
「言うことを聞けない奴はここで待機になるけど良い? 」
「「「それは・・・、わかりました、指示があるまで森から出ませんです。
だから、連れてってください。」」」
狂犬たちは餌を"待て"されたように悲しそうに言う。
「よし。
真ん中の火力バカは向こう側に着いたら、今度は森の中を移動し右の奴と合流。合流したら突撃してもいいわよ。」
「おばちゃん、左はどうすんだ。」
「左は右が突撃した雄叫びを聞いたら行ってもいいわよ。」
確かに、こいつら突撃するときに雄叫びを上げるからな。
「火力バカ共は敵を発見したら真っ直ぐ突っ込むんじゃなくて、敵の後ろに回り込むようにして。
その途中で遠距離側面攻撃をしてもいいから、兎に角、真っ直ぐには突っ込まないで。
ファイヤーアローで相手をけん制しつつ、何とか後ろに回り込んで。
後ろに回り込んだら、ファイヤーランスを掲げて突撃してもいいから。
相手を森の方に少しでも誘導してほしいの。」
そんな高度なことがこいつらにできるのか、誘導するなんて。
"実際はそこまで期待していないわ。
相手の注意が森の方から少しでも火力バカ共の方に逸れればOKなの。"
「残りのメンバーは真ん中の火力バカの後を追いかけて、同じく森の真ん中を進軍。
向こう側の森の端から20mの所で待機。そこで攻撃態勢を整えるわよ。
まずは敵の状況を確認し、改めて攻撃方法を指示します。」
「ジャンカちゃん、敵が森の中に入っていたらどうすんだぁ。」狂暴幼女様
「多分、森の中ではなくて、できるだけ森から離れていると思うんだけど。
少しでも私たちの攻撃を遅らせるために。
まぁ、森で敵を発見したら火力バカはそのまま突撃。
残りは火力バカの戦闘音のする方向に急ぐわよ。
そして、相手を発見したら敵陣の手前50mで一旦停止。
リュウ君が水平にアイスアローを掃射して相手の攻撃をけん制しつつ、魔法術士と防御担当の肉壁ちゃんたちで陣地の構築。
陣地の守りを固め次第、リュウ君とスナイパーさんで敵を減らすわよ。
さっ、残り35分というところね。
森を抜けるだけでも20分はかかるから、急ぎましょう。
あっ、敵を発見した時以外は叫ぶのは厳禁ね。
スナイパーさん、火力バカ共が進軍時に叫んでたらやっちゃっていいから。」
「・・・・・ウィ・・・・・・。」
スナイパーさんの目が輝いて、無表情だったのに口元が少し緩んだように見えた。
敵味方関係なしに、兎に角、狙撃できれば満足だというアピールなのか。
おばちゃんの戦闘の合図でまずは火力バカ共のリードが放たれた。
火力バカ共は目を輝かせてそれぞれの進軍方向にダッシュ。
さすがに後ろから狙撃されそうなオーラが充満していたため雄叫びはなしだ。
「さっ、私たちも急ぐわよ。」
おばちゃんの一言でお淑やかな大男さんチームとしいちゃんを含んだ土壁の不落城チームは真ん中を駆ける火力バカの後ろを追い始めた。
もちろん、肉壁ちゃんたちが大事な魔法術士を守るような陣形で進軍だ。
ちなみにエンは磔されたままでお留守だ。
敵が俺たちをすり抜けてやって来ないことを天に祈れ。
ザビエル弟の願いだったらもしかして神様に聞き届けてもらえるかもしれん。
エンの信仰するパンツの紙様でも良いかもしれんが。
んっ、それって紙おむつ様か。
俺がいる中隊本体がもう20mで森の端にたどり着こうと言うとき、森の中から叫び声と爆発音が聞こえてきた。
火力バカ共が突撃した真ん中と右端のその中間ぐらいの方向だ。
「森の中に入って、木の後ろに待機。
爆発音で良く聞こえなかったけど、火力バカの2号と5号の叫びだったような気がする。」
走りながらおばちゃんが後ろを振り返って、指示を出す。
それに従って、俺たちは森に入ってすぐのところに生えている木々の後ろに隠れた。
あいつら生きてたんだ。
てっきり、敵の本体に袋にされてあちらの世界に旅立ったとあきらめていたのに。
"敵から逃げているのか、或いは相手を追いかけているのかいずれかね。"
火力バカ共が相手から逃げるなんてありえねぇよ。
どんなに不利な状況でも前にしか進めない奴らだろ。
引くということが理解できない奴らだからな。
"そうすると逃げる敵を追って時々聞こえる爆発音はファイヤーランスが相手の魔法防御壁に当たっている音かしら。"
だんだん爆発音と叫び声が大きくなってきて、なんか真ん中を突撃した1号と右を進んだ4号の雄叫びも聞こえてきたんですけど。
"爆発音と叫びに反応して突っ込んで行ったら、敵を発見して、そのまま2号と5号に合流して一緒に追いかけているということかもね。"
そうするともうすぐ敵がこっちに来るんじゃないのか。
おばちゃんは周りに散会した中隊メンバーだけに聞こえるような声で指示を出す。
「ここから左の方に30m移動して、同じように木に隠れて。
この付近に来ると思われる敵をやり過ごすわよ。
急いで移動して。」
おばちゃんの指示で俺たちは森を左の方に密かに移動する。
移動の途中でさらなるおばちゃんの指示が。
「敵が森を抜けてたら攻撃開始。
リュウ君はアイスランスレベル3を密に生成し、斉射。3度続けて。
スナイパーさんはリュウ君が打ち漏らした敵を狙撃して。
出来ればで良いけど火力バカ共には当てないであげてくれるかな。
無理にとは言わないけど。まぁ。できたらっていうヤツで。」
俺とスナイパーさんは声を出さずにおばちゃんへ頷いた。
火力バカ共よ、当たったら不運だと思ってあきらめろ。
お前らは突撃できただけで本望だろ。
生き残るなんていうのはお前らにとっておまけのおまけだよな。
むしろ恥じか。
俺たちは素早く移動し、おばちゃんに指示された地点で木に隠れて、敵とそれを追ってくる火力バカ共を待った。
叫びと爆撃音がさらに大きくなる。
さらに身を縮めて、敵に見つからないように待つ。
「「「「まてぇ、こりゃぁ、逃げんじゃねぇ。」」」」
バッコーン
ついに、敵が通り過ぎる。かなりの数がいる、中隊規模だ。
それを追って、叫びながらファイヤーランスを放つ火力バカ共。
4人で追っているが、走りながら発動するためファイヤーランスは散発的になっている。
それでも4人で一個中隊を追い詰めているのだから、火力バカ共を調子に乗せると怖いな。
敵が森から出て10mほど進んだ。
火力バカ共はまだ森の中だ。
「よし、隠れるのは止め。陣地構築。
リュウ君とスナイパーさんは攻撃準備。」
うちの中隊の防御肉壁ちゃんが魔法術士を守るように防御態勢に入る。
俺はレベル3のアイスランスを10個生成し始める。
スナイパーさんはさっき作っておいたダイヤモンドの弾を発射用の魔道具である孔の開いた細い筒に込めている。
森を抜けた敵の一人が、後ろを振り返った。
俺たちを、攻撃準備が整った新たな敵を発見して、驚愕な表情に変わる。
火力バカ共が放ったファイヤーランスが敵を後ろから襲ったが、何とか防御魔法で直撃は避けた。
その瞬間、おばちゃんの指示が飛んだ。
「リュウ君、やっちゃってぇぇぇぇぇぇぇ。」
ここまでの成果
魔力回復: 7%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 34時間33分
(いよいよ戦いだというのでアドレナリンが溢れ出て来てスキルUP。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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本作品は前作「聖戦士のため息」シリーズのパラレルワールドの位置付けとしています。
本「聖戦士のめまい」とともに「聖戦士のため息」シリーズも合わせてお楽しみいただけたら幸いです。
"聖戦士のため息シリーズ "
シュウとエリナ、イリーナ、輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。
・本編 : 聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます
・別伝1 : 死神さんが死を迎えるとき
・別伝2 : 優しさの陽だまり
・別伝3 : 陽だまりからの贈り物 優しさの陽だまりから
・外伝 : アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記
・別伝4 : 炎の誓い