37話目 演習 前編
火力バカ共はほっとくと開始の合図とともに敵に突撃しようとするため、俺たちと中隊を組むときは首輪と色違いのリードを着けさせている。
そのリードを持つのはお淑やかな大男さんの役目だ。
流石、お淑やかな大男さんだ。
火力バカ5匹分の突撃したい推進力を完全に殺している。
その上、リードで首が必要以上に締まらないようにうまくそれを操っている。
見掛けは犬橇って感じだな。
"どれにしようかな。赤が良いか、青が良いか。
皆元気すぎて迷うわ。
そんなに死に急ぎたいのかしらねぇ。
よし、どれでも良いなら青と白にしよう。"
青と白?
"今日は青のリードが火力バカ2号で、白のリードが5号よ。"
まさに生贄が2号と5号に決まった瞬間だった。
どうして、そいつらにしたんだ。
"私の今日のラッキーカラーが青で、履いているパンツが白だから。
確認する? "
占いの本でも持ってきているのか。
演習中にそんなものを見たらまずくないか。
作戦が運任せのように見えるよ。
"もう、わかっているくせに胡麻化して。
パンツの方よ、私の真っ白パンツ。
演習の途中で私のパンツを見たいだなんて、リュウ君のエッチ♡。"
今の話で俺がスケベな要素何てあったか?
「おっほん。
おい、火力バカ2号と5号。
そうそう、青と白のリードの奴だよ。
今からお前らを放出する。
森の中に突撃して敵を発見したら転写してもらったファイヤーランスを最大限にレベルを上げてぶつけなさい。
良いわね。」
おばちゃんすげ迫力だぁ。
逝ってこいと言われているはずなのに勢いに押されて悲壮感を全く感じてないぞ、占いとパンツの奴。
「「やったぁ、中隊長ご命令通り、森に突撃するであります。」」
「「「なんで、2号と5号だけ突撃できるんだ、俺の方が絶対活躍できるはずだ。」」」
先に逝ってしまう方が大喜びで、生き残る方が悲壮感を漂わせるとは。
「先に逝っても中隊の戦力に影響が少ない方を囮に突撃させるのは常識でしょ。」
えっ、戦力として頼りにならないからって言う理由だっけ。
パンツの色と今日の占いの結果じゃないの。
"いいのいいの、こいつらタダ突撃したいだけだから。
選んだ理由なんてどうでもいいの。"
「「俺たちは戦力にならないから突撃だぁ。」」
使えない上にとっとと逝って来いと言われているのに喜び踊る火力バカの2号と5号。
「「「くっそう、何でこいつらが先なんだぁ。俺の方がもっと使えないぞぉぉぉぉ。」」」
おばちゃん、2匹じゃなくて、もう一斉に放したら。
どうせ3匹残したって、役に立たない気がしてきた。
"いきなり全部生贄に捧げるのはねぇ。
捧げた結果、相手の居所が分からなかったら、今度は私とリュウ君の番だから。
一緒に仲良くあの川を渡って幸せになろうね♡。"
あっ、生贄は2回に分けて捧げようか。
さすがにそれで敵の動きが分かるでしょ。
むしろ、5回に分けた方が良いんじゃねぇ。
"ちっ。"
何でちっなの。
生贄なんて嫌でしょうが。
"リュウ君と一緒ならどんと来いよ。"
兎に角、このままじゃ埒が明かないから早く占いとパンツを突撃させてよ、おばちゃん。
"そうよねぇ。火力バカ共が取り敢えず逝っちゃってくれないと私とリュウ君も愛の生贄になれないわね。"
おばちゃん、訳の分からないこと考えてないで、早くパンツ占いを突撃させようよ。
"なんか別のモノになった気がするけど、わかったわよ。"
俺の後ろにいたおばちゃんは走って、お淑やかな大男さんの前に出た。
そして、パンツと占いを指差した。
「こいつらのリードを放して、お淑やかな大男さん。
2号と5号はダッシュで森の中に突撃。
索敵し、敵を発見次第、ファイヤーランスをぶち込んで。」
お淑やかな大男さんは大きくうなずくと占いとパンツのリードを手放した。
占いとパンツは一言、"よしっ"と叫ぶと100m先の森の入り口に向けて駆けだした。
残った火力バカ共は前に手を思いっきり伸ばしてパンツ占いを追いかけようとしたが、リードに引っ張られて首が締まって喘いでいた。
放たれた狂犬が早くも森の入り口にたどり着こうかというところで、森の中から矢のようなものが占いとパンツに飛んできた。
あっ、あれはファイヤーアローか。
占いはまだしもパンツはやばくねぇ、燃えちまうぞ。
転写してもらっていたファイヤーシールドで何とかそれを中和すると、狂犬たちはファイヤーアローが飛んできた方向に向けてファイヤーランス、たぶん直径20cmぐらいの奴をぶち込んだ。
「ギャー」っという叫びと共に森の中でドサッと倒れる音が聞こえてきた。
おそらく敵の斥候だな。
「よっしゃぁぁぁぁっ」という雄叫びと共に占いとパンツは森の中に走って消えて行くのが見えた。
リードを離したら逝っちゃうまで止まらないからな、火力バカ共は。
森の入り口付近で倒れていた敵の斥候はファイヤーランスをまともに食らったようでそのまま燃えていた。
「よっちゃん、取りあえず消火をお願い。
そして、治癒魔法レベル1で演習中死なない程度に治療しておいて。
死なない程度でいいからね、演習中に復活されても困るから。」
よっちゃんは死なない程度というおばちゃんの言葉を聞いて、焦ったような真剣な表情になった。
「中隊長、了解です。
相手戦線離脱者の消火と治療を行います。」
そして、よっちゃんは森の中で燃えている個所を確認すると「エイッ」と言って二つの魔法を森に放った。
直後に森の中では白い煙が立ち上がり、やがてぼんやりとした光の塊が見えてきた。
治療魔法が発動している。
発動しているということはまだ生きているということだな。
「まずいわね。」
えっ、おばちゃん、いくら敵だからと言って、演習が終われば同じ釜の飯、同じ肉壁の穴の同級生なんだから、逝っちゃまずいって。
それを生きているのがまずいって、何か個人的に恨みでもあんのか、あの消し炭に。
"あっ、そういう意味のまずいっていうことじゃないの。"
んっ、じゃぁ、なんでまずいんだよ。
敵の斥候をつぶしたんだから初戦は上々じゃないのか。
"中隊規模になると斥候は基本二人一組で出されるはずよ。
でも、あそこには一人しかいなかった。
もう一人は私たちの情報を陣地に持ち帰ったということね。"
斥候は二人で行くのが基本なのか。
俺たちの中隊はエンだけだよな、磔の刑で役に立ってないけどな。
"うちは念話が使えるから情報を持ち帰る必要がないからね。
通常の斥候は一人が情報の伝達役、もう一人が敵の監視役なのよ。"
じゃぁ、今倒したのは敵が送り込んできた監視役ってことか。
"そうなるわね。"
「敵には私たち"お淑やかな大男さん"チームが入っているっのがばれたわね。」
「そうなのか。暴力幼女が引っ付いているのが見えたからか? 」
「弩阿呆が。俺じゃねぇ。エンの野郎が陣地前に磔になってんのが見えるからだろうが。」
「エンって、有名なのか。一目で誰だかわかるほど。」
「毎日、各クラスの女子にパンツの色を聞いて回ってるんだぞ。
有名じゃない方がおかしぃだろうが。」
「なるほどな。
しかっし、エンはとことんどうしようもないな。
斥候職なのに相手に情報を駄々洩れさせるなんてな。」
「くっそう、申し訳ねぇ。
俺がエンの弩スケベを磔にしたばっかりに迷惑を掛けちまった。」
「あ~っ、ちっちゃい子が後先考えずやっちゃってのは仕方がないから。
まぁ、気にすんな。
ちっちゃな子の面倒を見るのが俺たちお兄ちゃん、お姉ちゃんの役目だ。
なんならオムツも替えてやろうか。」
「てめぇ、リュウ、人が下手に出でれば付け上がりやがってぇ。
演習が終わったら、てめぇもザビエルカットの上、磔の刑だぁ。」
狂暴幼女よ、そんなにいら立っているとはオムツが濡れて気持ち悪いからか。
「さて、困ったわねぇ。」
「替えのオムツ持ってきてないからなぁ。」
「てめぇ、リュウ、ぶっ潰す。」
「オムツ替えのことは置いといて。」
「えっ、早く替えてやんないとお尻が爛れるんじゃないの。」
「リュウ、今すぐ殉職者にしてやる。」
ここまでの成果
魔力回復: 6%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 31時間29分
(オムツを早く替えなくちゃぁ、と焦っていたら、クールタイムが減ったぞ。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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本作品は前作「聖戦士のため息」シリーズのパラレルワールドの位置付けとしています。
本「聖戦士のめまい」とともに「聖戦士のため息」シリーズも合わせてお楽しみいただけたら幸いです。
"聖戦士のため息シリーズ "
シュウとエリナ、イリーナ、輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。
・本編 : 聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます
・別伝1 : 死神さんが死を迎えるとき
・別伝2 : 優しさの陽だまり
・別伝3 : 陽だまりからの贈り物 優しさの陽だまりから
・外伝 : アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記
・別伝4 : 炎の誓い