31話目 公開演習の意味 前編
朝晩の空気がひんやりと感じる季節、秋になった。
俺が肉壁の穴に入って、7カ月が経った。
チームメイトのメンツも変わることなく順調に訓練を積んでいる。
エンはギリギリで追試を突破したとのこと。
マジでかなり危なかったらしい。
つまりそれって、俺よりもエンの方がアホってことでいいんだよな。
"どっちも弩阿呆でしょ。エン君はその上に弩スケベだけどね。"
やっぱり俺の方がまだ人類に近いってことだよな。
ドアホでドスケベなんて、本能で生きている原種のお猿さんだよね。
"弩阿呆だけでも十分に人類から遠いと思うけど。"
その時に教室の中を走って、俺の方に近づいてくる奴がいた。
噂の人類の遠い祖先、原種のお猿さんのエンだ。
「リュウよ、聞いて喜べ。
次の公開演習には3帝様と風神様・雷神様が来るらしいぞ。」
「次の公開演習って、丁度一週間後だったよな。」
「そうだぞ。楽しみだよな。
ほんとつくづく肉壁の穴に入って良かったと思うよ。
世紀の美少女集団と言われる3帝様と風神様・雷神様に俺が演習で大活躍しているところを見てもらえるなんてな。
俺の活躍ぶりにその全員が俺に一目ぼれして"来年はあなたのチームにぜひ入れてください"なんて言われちゃうんだぞ。
うおぉぉぉぉ、5人のうちだれをチームに入れればいいんだ。
どうしようかリュウ。
あっ、それは違うな。5人と俺の新チームを結成すればいいんだよ。
何だぁ、悩む必要なんてないじゃないか。
と言うことで、リュウ、ジェンカ、お前たちに罪はない。
魅力的過ぎる俺が悪いんだ。
まぁ、新たなチームメンバーでもさがして、そっちはそっちで新チームを結成してくれ。」
「エン君、弩阿呆で弩スケベな君の弩ゲスすぎる考えのどこから突っ込んだらいいかわかんないぐらい突っ込みどころが多いんだけどね。
前提として、君って斥候職だよね。
基本は隠密行動だよね。
見学しているその5人や仮想の敵に公開演習で見つかったら負けだよね。」
エンはおばちゃんの言葉にはっとした後、何か考え込んでいるような顔になった。
「確かに俺は斥候職、見つかったらアウトだ。
よし、こうしようじゃないか、リュウ。」
「エン、何すんだ。」
「お前が斥候職、俺が火力職をする。」
「俺が斥候職でお前が火力職?
まぁいいけど。
おばちゃん、俺に斥候職何てものが務まるのか。」
チームでは俺の脳みそと言われているおばちゃんもちょっと考え込んでいる。
「風魔法術士が入ってくれればいけるかも。
探索系の魔法を転写してもらえばいいんじゃないかな。
それも良いわね。
探索魔法レベル3を転写してもらえば、リュウ君はその発動時にレベル5~7ぐらいまでは上げられるよね。
探索魔法レベル7かぁ。ちょっとと言うか、かなりまずいわね。」
「探索魔法レベル7なんて言ったらズボンの中のパンツどころかその下まで丸見えじゃねぇか。いいなぁ、リュウ。俺も欲しいよ。」
「エン君、そんな能天気なこと言っていても良いの。
学校の裏山の反対側もしっかり見える探索魔法レベル7よ。
開始と同時に相手がどこにいるか丸わかり。
そこに転写された攻撃用の風属性魔法の鎌鼬をレベル6でたたき込むリュウ君。
あ~ら、開始30秒で相手は全滅。
リュウ君が一人だけ目立って、私もエン君も何もすることが出来なくて公開演習は終わりよ。
それでもいいの。
まぁ、私はリュウ君に"やっておしまい、ポチ"と指示する役目があるけどね。
一応は目立つかしら。」
おばちゃんの言葉を聞いたエンはこの世のものじゃないものを見たような驚愕の表情を顔に張り付けていた。
「えっ、それって俺はいらない子、味噌っかすってこと。
凶暴幼女並みに? 」
その時、エンの首にはどこから出てきたのか凶暴幼女の例のロープが巻かれていた。
「あの世を見てこいやぁ。」
窓の方にそのまま引きずられて行った。
エンがテルテル坊主になった。
明日も晴れますように。
「エン君、ハーレムを作る前にモズの早贄になっちゃった。」
「カラスに突かれる前に脱出できると良いんだけど。
まぁ、カラスとハーレム作ればいいんじゃねぇ。」
入学して半年。
肉壁の穴も半年過ぎると後期の授業が始まる。
午前中は座学、午後は訓練や演習が行われるのは変わらない。
しかし、金曜日は一日中演習で、しかも、公開されるのだ。
公開と言っても、隣町の小学生を招待して肉壁ちゃん候補生のかっこいいところを見せて、肉壁の穴に興味を持ってもらおうという軍の下心満載のイベントではない。
そう言うのは学園祭、通称"肉壁祭、肉祭り"で行われる。
演習を見に来るのは教会本山の魔法術士育成学校の一年生、そう俺たちと同学年の魔法術士に見てもらうためだ。
なぜ見てもらうかと言うとだな・・・・・。
何でかな。エンの言う通りナンパか。
"リュウ君はまだ理解できていないようだから説明は私が代わろうか。"
おばちゃん、おねげぇします。
"任されました。
肉壁ちゃん候補生は中学を卒業するとその資格のある者はここ肉壁の穴に入ってくるの。
そこで、1年間修行して、紙様じゃなくて、肉壁ちゃん候補生として認められると各地の肉壁の穴から教会本山の肉壁の穴、本家肉壁の穴に入ることかできるわ。
一方、魔法術士候補生は中学校の代わりに幼年魔法学校に入るの。
そこを無事に卒業すると教会本山にある魔法学校へ集められるの。"
魔法術士の場合は肉壁ちゃんより一年早く教会本山の本校に各地の幼年魔法学校から集められると言うことだな。
"ここまでは以前話したからわかるわよね。
リュウ君でもわかったんだから大丈夫よね。
わからないあなた、マジまずいわよ。
原種のおサルさんのエン君でも理解しているからね。
続けるね。
同学年の魔法術士候補生と肉壁ちゃん候補生は1年次には別々に演習や訓練をしているけど、2年生では教会本山で一緒に訓練や演習をすることになるわ。
そのために、2年生への進級時に肉壁ちゃんたちと魔法術士のチームを新たに結成する必要があるのよ。"
そうかぁ、今年は幼年魔法学校の生徒がランダムにチームに入って訓練を積んでいるけど、来年は同学年の魔法術士が入ってくれるのかぁ。
"それも先生から指定されて一時的に入ってくれるんじゃなくて、チームのメンバーとして魔法術士が固定されるのよ。"
肉壁ちゃん数名と魔法術士1名の新チームを結成するっていうことか。
"多くのチームは2年生時に結成されたそのままのメンバーで両育成学校を卒業し、軍に就職することになるわ。
どうしても合わない場合はメンバーを変更する場合もあるけども。
ほとんどのチームは2年生時に新たに結成されたチームメンバーで軍に所属し、魔族と戦うことになるわ。"
と言うことは、2年生の進級時に結成するチームが将来を考えた場合に非常に大事だということだな。
でも、どうやって新チームを結成するんだ。
"それが公開演習と関わってくるのよ。"
公開演習って、新チーム結成のために行われているのか。
"そうよ。
私たち肉壁ちゃん候補生やチームの情報が魔法学校1年生に公開されているのよ。
その情報を見て、来年結成するチーム構想を既に練っていると言うことだわ。
でも、資料だけではわからないことも多いから、実際に演習を見に来て不足している情報を補完したり、情報の確認をしているのよ。
それを何回か繰り返して、気に入ったチームがあれば入学前に肉壁ちゃんチームに招待状が届くの。
私とチームを組みましょうって。"
なるほど。そいうことか。
ここまでの成果
魔力回復: 3%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 34時間37分
(話を聞いてちょっとだけ賢くなったな。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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本作品は前作「聖戦士のため息」シリーズのパラレルワールドの位置付けとしています。
本「聖戦士のめまい」とともに「聖戦士のため息」シリーズも合わせてお楽しみいただけたら幸いです。
"聖戦士のため息シリーズ "
シュウとエリナ、イリーナ、輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。
・本編 : 聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます
・別伝1 : 死神さんが死を迎えるとき
・別伝2 : 優しさの陽だまり
・別伝3 : 陽だまりからの贈り物 優しさの陽だまりから
・外伝 : アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記
・別伝4 : 炎の誓い