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26話目 少しづづすれ違っていくんだね

待ち合わせは寮の門の前だったよな。


俺は今日支給された軍票を握り締めて、学校の購買に来ていた。

おばちゃんに補習のお礼に、隣町に行ってお茶とお菓子をおごる約束をしていたが、まぁ、購買でアンパンを1つ購入するぐらいはかまわないだろう。


てか、お茶とお菓子なんて隣町に行かなくても、ここの購買でいいんじゃねぇ。

わざわざ30分もかけて隣町に行くのめんどくさくないのかねぇ。

アクティブなおばちゃんだな。

ゴロゴロしながら煎餅片手に雑誌を読むのがおばちゃんのスタンダードじゃないのかね。


まぁ、隣町の駄菓子屋に行って、おばちゃんには懐かしいお菓子とジュースでも買って、店先のベンチで座って食べるのが希望だというんだからいいけどな。

わざわざ、隣町の駄菓子屋ねぇ。

隣町の駄菓子屋になんかいいものがあるのか。

まぁ、隣町の駄菓子屋だったら、どう考えても2人分で2500バートも使うなんてないな。

アンパンもう一個いっとくかぁ。


俺は100バートのアンパンを2個買って、購買の横で食べているところだ。


普段の土曜の午後ならば授業がないため、のんびりとした雰囲気が漂っているはずの校舎も今日は何か淀んだような空気に支配されていた。


俺の横を淀んだ眼の奴らが通り過ぎる。


俺の横を通り過ぎるときに奴らは"ちっ"だの"お前もジェンカがいなかったらこっち側の人間だろ、むしろこっち側の先頭を歩んでいるはずだよな"と言う様な舌打ちや嫌みなつぶやきが聞こえてきた。

そう、こいつらはこれから追試の為の補習だ。

この肉壁の穴には追試を受けるような阿呆どもには休息など与えられぬ。

食事やシャワー、トイレ、睡眠などの最低限の生活上必要な事を除けば、後は授業と演習、そして補習と自習の勉強漬けの2週間を送ることになる。

まさに肉壁の穴の囚人と化すのだ。


俺はこいつらが罵るように本当はあっちに行くはずだった。

それをおばちゃんが救って・・・・・・、ねぇよな。

こいつらは2週間だけど、俺は3週間もおばちゃんの私的囚人、おもちゃだったからな。

俺の方が絶対に不幸だよな。

こいつらに同情する必要はないよな。


まぁ、追試を受けなくても済んだので、その点はおばちゃんに感謝しているがな。

そう言うことで、お礼は駄菓子屋の梅昆布で十分だろう。

よし、そうなるともう一つぐらいアンパンを買っても良いか。


俺は懐に余裕を感じたのでアンパンを追加購入するために、購買のおばちゃんの方に再び歩み寄った。


「おばちゃん、アンパンもう一つ。」

「リュウ君、パンは売り切れちゃたよ。」

「えっ、いつも土曜の午後は5個ぐらいは買うよね。

俺用に多めに仕入れてくれているんだよね。」


「ここ3週間ほど買いに来なかったから、いつもの仕入れに戻したんだよ。

来週からはちゃんと仕入れておくからね。

代わりに、この梅昆布なんてどうだい。

しゃぶれば、つばでお腹も膨れるよ。」


うぁぁぁぁ、おばちゃんに囚われ、弄ばれている間にも世の中は大きく動いていたのかぁ。

梅昆布は駄菓子屋でおばちゃんにおごってやるってやる約束をしているから、ここで買う必要はないな。

そうだ、アンパンの代わりに駄菓子屋でソース煎餅を買えばいいんじゃないか。

こうしちゃいらんねぇ、早くおばちゃん連れて隣町の駄菓子屋行かなくっちゃ。


「梅昆布はこれから隣町の駄菓子屋で買う約束をしているからいらないや。

これからはちゃんと買いに来るからアンパンを多めに仕入れてほしいんだけど。」

「あいよ。

わざわざ隣町まで梅昆布を買いに行くのかい。

よっぽど暇なんだねぇ。

まぁ、気を付けて行くんだよ。」


俺は購買のおばちゃんに手を振りながら、掃除のおばちゃんの待つ寮の門に急ぐことにした。

ソース煎餅も売れ切れていたら、俺はマジで泣くぞぉ。


既におばちゃんは門の前で待っていた。

(スタート)締まりのないにやけ顔 → よだれをハンカチで拭く → ハッとして、頬を赤らめて下を向いてもじもじする → (スタート)を何度も繰り返していた。

何をやってんだ。

トイレでも行きたいんか。

それぐらい待ってやる、漏れる前に行って来い。


俺はそれをまずおばちゃんに伝えるために、全力で走った。

漏れたら大変だ。

いい大人が恥ずかしすぎんだろ。


「おばちゃ~ん、いい大人が漏らしちゃだめだぁ、早くトイレ行って来いよぉぉぉぉぉ。」


切羽詰まったおばちゃんのために俺はこれまでの人生で一番の大声だ叫んだ。


だらしないにやけ顔が一瞬で鬼のような形相に変化し、そして、どこから出したのがばっちゃの形見を抜く体勢に入った。


「えっ、何すんだ、おばちゃん。

せっかくトイレに行って来いと勧めているのに。

漏らしたら風邪をひくぞぉ。

びしょびしょになって着替えに行ってたら、ソース煎餅が売り切れちまうだろうがぁ。」


全力で走っていた俺は急に止まることも出来ずにばっちゃの形見の範囲に飛び込んでしまった。


シユッ


空間を切り裂く鋭い音。


そして、はらりと幾筋もの細い黒い物体が俺の目の前を散って行った。


「なにすんだぁ、ザビエル君の双子の弟に逆戻りだぁ。

3週間かけて漸くザビエル兄さんとお別れしたばっかりだというのに。」


「ちっ、仕損じたか。

副業が強面の厳つい自由業の教官の子分にしてやろうと思ったのに、ザビエル君止まりとは。

無念。」


うあぁぁぁっ、やっぱりザビエルさんと兄弟になってるよ。


「でも、いいのか。おばちゃん。

そんなに気張って、大刀なんか振り回して。

ちびったんじゃないのか。

年なんだから、緩んでるんでしょ。」


シュッ


返し手のばっちゃの形見さん、再び登場。

そして、ハラり。


「今度は予告通り、副業が強面の厳つい自由業の方の子分にしてやるぅぅぅ。」

「うあぁぁぁ、教会からいかがわしい休憩所に職場変更かぁ。


「ふっ、武人の情けだ。頭皮を晒すまではかんべんしてやる。」


「それって、掃除のおばちゃんから散髪屋のおばちゃんに転職するってことですか。」

「リュウ君はタダで散髪して上げるね。虎刈りオンリーしかできないけど。」


遠慮しておきまする。


土曜の午後、思いがけず散髪? をしてもらっていたら、門の周りには誰もいなくなっていた。

いゃ、一人いた。

憮然とした顔でこちらを見ている奴が。


「エン、お前は補習に行かなくて良いんか。」

「うるせぇ、土曜の午後にここで待ち合わせして楽しくお出かけするやつらがいっぱいいるのに、何で俺は補習なんだ。

まぁ、それは良いとしても、何で俺より阿保なリュウが補習じゃないんだ。

おかしいだろ、絶対に。」


「そんなの決まってんだろ。」

「決まってる? 」

「そうだよ、決まっているの。

リュウ君はポチだから。

ポチには毎日のお散歩が必要なのよね。」

「おっ、おぉ、おばちゃんの言う通りだ。

俺には補習よりも散歩が必要だからな、わかったか、エン。」


エンが呆れた顔で。


「リュウはついに人であることをやめたのか。

獣人の犬族になったのか。人類の敵に。」

「いえ、犬族じゃなくて、私のポチになったの。

さっ、ポチ、行くわよ。

エン君の側にいるとスケベな犬になるわよ。」


あっ、おばちゃんのスケベな犬という言葉に反応したのか、エンがニヤニヤし始めた。


エン、絶対に今思ったことを口に出すなよ。

違う、絶対に考えるなぁ、念話でおばちゃんに伝わったわっちまう。


シュッ、シュッ。

パサパサ。


エンがザビエル君の弟になった瞬間だった。


「私とリュウ君は"まだ"そういうような関係じゃないから。

・・・・・・・時間の問題かもしれないけど・・・・・・、ぼそ

えっと、これでエン君も学校の外へは出て行けないでしょ。

出掛けたとしてもしばらくは教会までね。

とにかく、こんなところでスケベな事を考えてないで補習や追試を頑張ってよ。

ダメ元でも。」


おばちゃんにそう諭されたエンは急にうれしそうな顔になった。


「やったぁ、女の子に励まされたぁ。

よし、補習に行ってくる。」


そう言うと、おばちゃんに敬礼した後に踵を返して、校舎の方に走り去った。

女の子? 凶暴な散髪屋のおばちゃんにザビエル君にされてもエンはうれしいんだ。

今後は俺の頭じゃなくて、エンの頭を刈ってくれ。


「邪魔者も去ったし、隣町のおしゃれな喫茶店に行こうか。

あのケーキセットが食べたいなぁ、リュウ君。

早く行かないと、どこぞのカップルたちで席が一杯になっちゃうよ。」


えっ、おしゃれな喫茶店に行くの?

駄菓子屋じゃないの。

駄菓子屋の店先の長ベンチで梅昆布をしゃぶりに行くんだよね?


"駄菓子屋? 梅昆布? 何それ。

おしゃれな喫茶店で、ケーキセットだよね。"



ここまでの成果

魔力回復: 4%

次にスキルを発動するまでのクールタイム: 37時間41分

(アンパン3個喰ったから元気いっぱいだぜ。)


活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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