25話目 ジェンカの秘めた思い 後編
本日は時間をずらして、3話の投稿となります。
これは3話目、最後です。
お楽しみくださいな。
そうして、次の日、祖母以外のすべてを捨てる覚悟で私は肉壁の穴にやってきた。
しかし、私のスキルを聞いたクラスメートは、案の定、私に心を閉じた。
やっぱり、ここでも私は一人か。
と、入学一週間で孤独な学校生活を覚悟して、そっと鞄にしまった懐剣を握り締めた。
おばあちゃん、私、頑張るね。
一人でももう大丈夫という気持ちを込めて、握り締めた。
そうするとやがて、心が落ち着いて来た。
そのまま前を向いた時に彼がきょろきょろしていたの。
私は何となく彼の心に語り掛けた。
それを彼は女神の声と勘違いしたみたい。
そして、私をチームに入れてくれた、入るのが当然の様に言ってくれた。
私のスキルを聞いても、特に私に対して思うことはなかったみたい。
心を読まれるとわかっているにもかかわらず、彼は心を閉じるようなことはしなかった。
信じられない。
信じられないことに彼はいつも私に心を開いているどころか、私の心にどんどん話し掛けてくる。
悪友のようにいろいろといじってもくる。
こんな感覚は初めてだ。
中学で適性検査を受ける前にもこんな親しみを経験したことがない。
私と彼の心が大きな綱で繋がっているようだ。
何でも言える、何でも答えてくれる。
そんな不思議な人。そんな大事な人。
リュウ君に私の心を表に引っ張ってもらったおかげで、ボルバーナちゃんという同性のチームメイト、私のスキルを聞いても心を閉じない同性の友達もできた。
彼女の彼氏? 執事? 護衛? であるお淑やかな大男さんも私に心を閉じることはない。
ただ、彼の心は普段は空虚、チームメイトがピンチの時にだけ心が作動するみたいな感じなのだ。
そして、私の大事なリュウ君の悪友のエンの野郎。
彼も私に心を閉じることはない。
多分、ボルバーナちゃんを除く女子生徒全員に心を開いているというか、自分の思いを押し付けようとしている。
先日一度、目が合って、彼の心が私に流れてきた。
紐のようなエロいパンツ一丁で両胸を右手で隠し、顔を赤くして少しうつ向いた私の姿が飛び込んできた。
てめぇ、人の体を勝手にもてあそぶんじゃねぇ。
私は大刀を振るために腕力を鍛える愛用のパイプを取り出し、エロガキの腹にフルスイングでそれを叩き込んだ。
それ以来、演習時以外は彼に私の心を閉ざしている。
この学校で唯一、私が心を閉ざしているのがエンの奴だ。
あいつのホークアイと私のスキルの相性がピタリと言われる度に、あの紐パンが思い出されて、虫唾が走るのは致し方ないと思う。
そして、鉄パイプをフルスイングしてしまうのも致し方ないと思う。
私が許す、あの野郎には全女子が心を閉じても良い。
奴のことはいい、思い出したくない。
G様だ。
そうじゃない、今考えるべきは彼のことだ。
私に心を開いてくれる人なんておばあちゃん以外にいないともう諦めかけていた時に、絶望の淵に居た時に、そこから引き揚げてくれたのがリュウ君なのだ。
そんな彼が私の前から消えようとしている。
せっかく巡り合えたのに、運命の会合を果たしたのに、彼が消え去ろうとしている。
リュウ君が退学させられる・・・・・・・。
彼と離れ離れになる。
嫌だ、絶対に嫌だ。
私のスキルを知っても、なお、私に心を開き続けてくれる彼がここからいなくなるなんて・・・・・・・。
「絶対に嫌だぁ。」
私は立ち上がって、叫んでいた。
「おっ、おい。大丈夫か、ジェンカ。
しばらく何か考えていると思ったら、突然に立ち上がって大声を上げて。」
「ジェンカさん、何が嫌なのですか? 」
ちょっと心配そうに眉をひそめて、優しく聞いてくるエレン教官。
私はあなたの胸に惑わされるリュウ君が心配なんですぅ。
あんな事を時々考えているリュウ君は嫌なんですぅ。
「私たちのお願いが嫌だと言うことでしょうか。」
さらに心配しそうに尋ねてくる副業が教官の強面の厳つい自由業の方。
あっ、本業と副業が逆かぁ、今のところはだけど。
きっと、今の話で私は相当に動揺しているのかもしれないわね。
「えっと、チームメイトのリュウ君が退学になることです。
せっかくチームメイトになれたのに、そんなことで離れ離れになるのが嫌なんです。」
「それじゃぁ、ジェンカ、あの阿呆の補習の面倒を見てくれるか。」
「わかりました、教官。
私が奴に何としてでも赤点を取らないように仕込んで見せます。
実家にいるポチは私が躾けました。
同じようにすればいけるはずです。」
「ちなみにポチと言うのは、どなたですか。」
あっ、副業が強面の厳つい自由業の教官にその話はどういうこったぁと言いたいような顔をされると、裏金融業の借金取りにしか見えないんですが。
怖いです、いかがわしい宿に売られそうです。
「えっと、実家で飼っている犬です。
いくら食べさせてもお腹がいっぱいにならないボケ犬です。」
「んっ、それって、リュウを家で飼っていたと言うことなのか、ジェンカ。」
「まぁ、ある意味そうですね。リュウ君と双子のような犬ですね。」
「それじゃ、リュウ君の扱いに慣れたジェンカさんに彼の補習の件を任せても良いようですね。
宜しくお願いします。」
「よろしく頼む、ジェンカ。
あっ、でも試験問題は事前に教えないからな。」
「教官、わかっています。
絶体に覚えておけっとおっしゃったところはすべて体に刻み付けますから。」
それを聞いた義足の教官は、んっ、というように顔になって私に念を押してきた。
「カンニングもダメだぞ。体に刻むっって。」
「そんな無駄なことはしません。
どこに何を刻んだかなんて覚えていられないでしょ。あの阿呆は。」
「そこまでなのか。」
「ポチですから。」
「それと試験中の念話も禁止ね。」
「エレン教官、わかっています。
念話で教えたら、念話であったことをそのまま書くので、"・・・(答え)・・・とっ、ジャンカが念話で言っていた"と言うところまで回答欄に記入することが目に見えています。
私が教えたことがバレバレですよ。
まぁ、"試験中に話しかけてきたり、念話をしてきたら、食堂のおばちゃんたちに頼んで3日間はめし抜きにするよ"っと、補習で宣言してやれば試験中にそういうことは絶対にしてきませんよ。」
「わかった、その辺は俺もリュウに釘を刺しておく。
事前に食堂のおばちゃんにも根回ししておく。」
「それと補習は明日から始めても良いでしょうか。
もう遅いぐらいですけど。」
「悪いがそうしてくれ。」
「それとリュウ君に補習を告げるのはどうしましょうか。
餌で釣っても良いですが、食ったらただでさえ腐った頭が餌で溢れて、勉強した内容なんて入る隙間がなくなりますよ。」
「まぁ、その点は俺たちが何とかする。奴が補習に参加せざる負えない理由を適当に作ってやる。」
「わかりました。明日から始めたいので、明日の放課後までにそれをお願いしますね。」
「おぉっ、任せろ。
任せろと言ったが、一番大変なのはジェンカか。
自分の勉強もあるのに、何か悪いな。」
「その点は気にしないでください。自分の為でもありますから。」
それを聞いた副業がしたり顔で頷いていた。
私をいかがわしい宿に売って、手にした代金に満足した表情に見えて怖いです。
「ジェンカさんにもきっとご褒美がありますよ。
リュウ君のために必死に頑張ったら。
きっと何か良いことが。
神様がその頑張りに報いてくれないはずはありません。
私にはそれが何かはわかりませんが、頑張った人はきっと報われると信じています。」
それって、いかがわしい宿で頑張って接待すれば、いつかは年季が明けると言うことでしょうか。
心はボロボロになっても、体は自由になれるからということを夢見て、お客様を懸命に接待しろと言うことですね。
「そうであれば良いのですが。
私に褒美はいりません。
期待もしていません。
リュウ君がここに残れるようになれば私はそれで良いんです。」
「そうですか。」
だから、その笑みが怖いんだって、絶対に裏があるでしょ。
年季が明けそうだと思ったら、その前に別のいかがわしい休憩所に新たに年季奉公に出されると言うことですね。
とっ、あの場では思っていたけど、本当にご褒美が、キタ――(゜∀゜)――!!
リュウ君が男子寮から私の方に駆けてくるのが見えた。
ここまでの成果
魔力回復: 3%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 41時間17分
(おばちゃんの妄想回なので俺のスキルに影響なし。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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