22話目 俺の軍票がぁぁぁぁぁぁ
「それじゃ、お待ちかねの成績を渡すぞ。
番号順に取りに来い。
その時に赤点の奴らには補習への招待状も渡すからな、ありがたく受け取れ。
あぁ、言い忘れたけどな。
土曜日の午後も補習、日曜日も補習だからな。
阿保共に休みなんて必要ねぇ。
あんな簡単な問題で赤点採る奴なんて、ここじゃ生徒としては扱わねぇんだ。
囚人だ、囚人。」
うへぇぇぇぇ、赤点採ると休日なし・・・・・・、って、おばちゃんとの補習も休日なんてなかったな。
それも3週間ずっとだぞ。
囚人の奴らは2週間じゃないか。
"まぁ、ポチと囚人の差なんじゃない。"
ポチにも人権を。
"ワンコだから無理ぃぃぃぃ。
ポチには越えられない種族の壁っていうものがあるのよ。"
試験結果に自信のある者は顔を上げて堂々と成績を記した紙を取りに行き、余り自信のない者はビクつきながら教壇に仁王立ちの教官のところに歩み寄っていた。
その中で、エンは堂々と前に出て行った。
あいつ自信があるんだ。
普段はスケベなこと以外に頭を使っているところを見ていないけど、俺の知らないところでちゃっかり勉強していたんだ。
エンがにかッと笑って、からこっちに戻ってきた。
「エン、何か自信がありそうじゃないか。陰でこそこそ勉強していたんだな。」
「やったぜ、見てくれ、成績表が赤字だ。
それに赤紙までもらったぜ。」
とっ、自慢げに成績表と赤紙を俺の前でひらひらさせて見せてくれた。
赤紙に補習招集令状と書かれていた。
「何を嬉しそうにしてんだ、エン。
お前、補習にご招待されてんぞ。」
「ほっほぉ、羨ましいか。これが成績優秀者だけに配られる招集令状だ。
リュウももらえると良いな。」
いらんわ、そんなもの。
赤紙をもらって喜んでいるのはお前だけだぞ。
恥ずかしいから、皆に赤紙を見せてまわるんじゃねぇ。
他にも数人、補習招集令状をもらった者がいるようで机に顔を伏せながら、赤紙をひらひらさせたり、頭にのせたりしていた。
お前らも赤紙自慢の一派か。
"私はもちろんセーフよ。
リュウ君に教えているつもりで、実は自分の勉強になっていたのかも。
学年で3番だって。"
そりゃ凄いな。
俺の偉大さに感謝しろよ。
"うふふふ、そうかもね。
リュウ君はどうかしら。"
そろそろ俺の順番なんで、席を立ったらお淑やかな大男さんが前からやって来た。
あっ、肩にちっちゃな手が掛かっているのが見えるから凶暴な幼女も一緒だな。
「凶暴な幼女は赤紙をもらったか。」
背中から甲高い声が多少曇って聞こえてきた。
「弩阿呆のてめぇとは違うんだよ。赤い紙なんざぁ、もらってねぇぜ。」
「でも、さすがに小学生低学年には難しかったよな。」
「てめぇ、言ってはならんことを。
よし、てめぇが俺よりも成績が悪かったらこのロープで首をくくって、屋根からぶら下げてやるからな。
明日は土曜で半ドンだ。
となり町にショッピングに行きてぇから、明日晴れるようにテルテル坊主が欲しかったんだよな。」
「ショッピングって、お前、初めてのお使いの間違いだろ。
どうせまたあの駄菓子屋で買い食いするだけだろうが。
ショッピングに謝れ。」
「もう許せねぇ、お前もとっとと成績費表と赤紙をもらってこい。
俺が確認してやる。」
「へいへい、ところで幼女。何番だった?」
「あっ、10番だ。ちなみに、こいつは11番だ。どうだ凄いだろ。」
お淑やかな大男さんがちょっとにやっとして、お得手のサムズアップ
「まぁ、クラスで10番か。まぁまぁの成績だな。」
「それだから弩阿呆は世間知らずって言うんだよ。
クラスで10番じゃねぇ。学年200人中で10番だ。
ちなみにペーターはクラスで11番だ。」
「初めに、紛らわしい言い方をすんじゃねぇ。」
「いいから、弩阿呆はさっさと赤紙を取りにいけぇ。」
その時、教官から声が掛かった。
「リュウ、てめぇの番だ。
諦めて早く取りに来い。」
諦めて?
教官の物言いが気になったがとりあえず、教壇の前に急いだ。
「良く頑張ったじゃねぇか。ほらよ。」
教官は右手で白い成績を、そして、左手で・・・・・、赤紙、補習招集令状を渡しやがったぁぁぁぁ。
「ぷぷぷふっ、やっぱ弩阿呆だな。
補習に散々付き合てくれたジェンカちゃんに謝れ、弩阿呆。
さって、補習に逃げられる前にテルテル坊主を下げるか。」
俺はあまりの不測の事態に動揺しつつも、何とか後ろを振り返った。
左手に白い成績表、右手に赤紙を握ってだ。
後ろにはお淑やかな大男さんが、その眉毛をわずかに下げて俺の方を見下ろしていた。
表情に乏しいお淑やかな大男さんがそんな悲しそうな顔をするとは。
そうか、君だけは俺の気持ちが分かってくれるか。
俺、何だがやらかしちゃったよ。
「リュウ君、その赤紙はどういうこと。」
おばちゃんにも見えていたか。
あんなに勉強を手伝ってくれたのにな。
「まさか、名前を書かなくて0点とか。
回答欄を一個づつずらしてしまって0点とか。
100点でなかったら㍘にしてくださいと見栄を張ったら、70点で0点にされたとか。
カンニングを疑われて0点とか。
回答用紙に鼻くそを着けて0点とか。
回答用紙にエッチな絵を落書きして0点とか、あっ、これはエン君のことか。
とにかく、あり得ないんだけど、赤紙とか。」
「ジャンカちゃん、弩阿呆はいくら頑張っても弩阿呆・・・・・。
ジェンカちゃん泣かないで、弩阿呆に万が一の希望を持っていたのはわかるけど。
やっぱり世間の水はそう甘くはねぇんだよ。」
幼女に世間の水の味を聞かせられるとはな。
まぁ、赤紙にぎってちゃぁ、何も反論できねぇ。
一つため息をついて、左手に持った成績表を見た。
クラスで15番、全体で86番であった。
200人中で86番。
赤点はたしか平均点の半分未満だったはず。
俺で赤紙っだってことは肉壁ちゃんの3分の2が赤点・・・・・・。あり得るのか。
上位層がどだけ優秀な成績を取ったんだ、86番で赤点だなんて。
あっ、逆に3分の2の肉壁ちゃんの成績が壊滅って言うことか。
"そんなに差が付くような問題じゃなかった気がするけど。
リュウ君だって7割ぐらいはできたんでしょ。
やっぱり変な落書き、副業が厳つい自由業の方の強面だけを強調した似顔絵でも書いたんじゃないの。"
俺はそんな恐ろしいことはしてないぞ。
それって、赤点どころか、今頃は後ろからズドンだよ。
その時、義足の教官が声を掛けて来た。
「リュウ、わりぃ、わりぃ。
お前だからつい赤紙を渡しちまったじゃねぇか。
おまえぐらい赤紙が似合う奴なんてそうそういないからな。
赤紙をリュウに渡すのが当然の必然だと俺の心の叫びに手が反応しちまった。
と言うことで、全部、お前が悪い。」
えっ、俺が悪いのそれ。
"あぁ、良かった。
あれだけ補習して赤点だなんて、どんだけ弩阿呆なポチなの、こいつはわんこよりアホなのと改めて心にぐさりと刻み込まれるとこだったわよ。
弩阿保なポチでも取り敢えず人の領域に近いところには踏み留まったということね。"
おばちゃん、それってまだ人として見ていないってこと。
未だにポチって言うこと。
"補習であれだけ手を焼かせたのが同じ人類だなんて思いたくないわ。
もう、人類に土下座して謝れ、ついでに世の中の全てのポチに謝れ、という思いよ。"
げっ、やっぱりワンコ以下の扱いだったか。
あっ、ポチ扱いなら、ちゃんとエサはくれよ。
"そうねぇ、しょうがないわねぇ。
ポチの飼い主だし。
よし、明日は土曜で午後は自由だから、隣町の喫茶店で何かおごられてやろうじゃないの。
試験の合格祝いに。"
えっ、飼い主がおごってくれんじゃないのか。
"ポチも一応は、生意気にもお小遣いの軍票2500バートを毎週もらっているでしょ。
ポチに軍票は必要ないわよね。
もったいないから、おごられてあげるわよ。
ここんとこ補習続きで使ってないでしょ。
さ、ポチらしくバーッと出しなさい。"
*(1バート = 1円としてね)
あぁっ、軍票ねぇ。
もらったその足で購買であんパン買ったからもうないよ。
まぁ、明日また支給されるけど。
"よしそれをすべて私に貢ぎなさい。アンパン禁止ね。"
えぇっ、おばちゃんに貢ぐのぉ。
"良いから、すべて渡しなさい。2人で有意義に使いましょう。"
俺の久々の休日がぁ、おばちゃんの強欲さで悪夢になろうとしているぞ。
ここまでの成果
魔力回復: 3%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 41時間17分
(おばちゃんに軍票を取られ、アンパンが買えずに腹減りで、スキルが後退しました。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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本作品は前作「聖戦士のため息」シリーズのパラレルワールドの位置付けとしています。
本「聖戦士のめまい」とともに「聖戦士のため息」シリーズも合わせてお楽しみいただけたら幸いです。
"聖戦士のため息シリーズ "
シュウとエリナ、イリーナ、輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。
・本編 : 聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます
・別伝1 : 死神さんが死を迎えるとき
・別伝2 : 優しさの陽だまり
・別伝3 : 陽だまりからの贈り物 優しさの陽だまりから
・外伝 : アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記
・別伝4 : 炎の誓い