38話目 決戦の終焉、そして、新たな戦に
いったいどうしたというんだ。
たかがおしめ幼女がえいっと、いたずらで投げた石が頭に当たったぐらいで。
何時はこのぐらいの衝撃であれば、確かに頭が一瞬グランと揺れるが、足腰に力が入らないぐらいの衝撃となることは無いのに。
俺は足腰に力が入らなくなったために膝を着くしかなかった。
それで上半身は支えきれずに手を地面に着くことになった。
当然ながら、手にも力が入らない。
地面についた手が肘から折れて地面が顔に近づいて来た。
先ほどから俺はここに陣取って、ニャンコ上軍への監視と氷の罠の発動をしていた。
そして、戦況が思いもよらない形で動いて、ニャンコ中軍への雷の罠の発動など予定にない対処をしていたため、俺がうろうろしている場所の下草は程良く踏み固められて俺が顔から倒れた場所は草の寝床のようになっていた。
何だこの感覚は。
体に全く力が入らない。
狂暴幼女の投げた石が俺の頭に当たるまでは普通に立っていられたのに。
頭に石が当たって脳が揺さぶられたのか。
それでも脳震盪の割には意識がちゃんとしているような。
ただ、手足に力が入らない。
こんな経験は初めてだ。
体が崩れ落ち顔面が倒れた草にのめり込む前に俺は何とか頭をひねって左側を向くことに成功した。
何とか視界だけは確保したい一点で。
視界は確保したが・・・・・、まぁ、草しか見えんな。
おしめ幼女が立ってうろうろしていても全身が楽々に隠れるぐらいの草むらだからな。
そのとき、草むらをかき分けておしめ幼女が再び現れた。
「リュウ、てめぇ、何をさぼっていやがる。
標的の魔族部隊はすべて狙撃し、ニャンコたちは罠にはめて動きを止めたといってもまだまだ戦闘は続いてんだぞ。
一人だけ仕事が終わったつもりで気持ちよさそうに草のベッドを作ってくつろいで昼寝してんじゃねぇぞ。
とっとと立って戦場の監視に戻りやがれ。
逃げてくるニャンコ一匹でも見つけ出してみろ。」
俺がサボって寝ていると見えたのか、激おこのおしめ幼女。
珍しく視線が俺より高いと思いやがって、優位に立っているつもりか。
腰に手を当てて、威張り腐っていやがる。
「まだ寝てんのかぁ。
早く動けってんだよ。
働かない弩阿呆なんて、もう、生ごみ・・・・ちげぇなぁ、う●こじゃねぇのかぁ。」
とか言って、草むらに落ちていた枝を拾って俺をつつき始めた。
「ほれほれ何で動かねぇ。
やっぱ、うん〇だからかぁ。
うぁ、何だが臭って来てねぇか。」
このクソガキめぇ、人が動けないのを良いことに、俺を草むらに落ちている□んこ扱いしやがって。
「やめろ、おしめ幼女。」
おっ、体は動かないけど声は出せた。
よし、野ぐ▲幼女の相手なんて口先三寸で十分だぁ。
待ってろよ、よくも人を道端の野△そ扱いしてくれたなぁ。
大人の恐ろしさを教えてやる。
よ~く聞けよ、野ぐ▲幼女。
「あのぉ、実はさっき石が頭に当たって脳震盪を起したらしくて動けないんです。」
ふっ、わかったか、野△そ幼女。
これが大人の対応だぁ。
どんなチビにでも表向きは真摯な態度なんだよ。
俺の真摯な言葉に心を動かされたのか野△そ幼女はびっくりしたような顔をして、悪態をついていた口は言葉を継げないようだった。
そう、お前が投げた石だよ。
それが俺の頭に当たって、脳が揺れて、まともに立つことも出来ないんだよ。
「あ~っ、弩阿呆の頭には脳みそなんて入ってないから脳震盪はないな。
口から出まかせを言ってんじゃねぇ。
もし万が一にノミほど大きさの脳みそがその弩頭に入っていてカランと位置がずれたために体がいうことをきかないなら、もう一回石をぶつければ良いよな。
頭のふけほどの脳みそなんてその程度の衝撃ですぐに元の位置に戻せるぜ。
ちょっと待ってろ、岩を探してくる。」
そうのたまうと凶暴な幼女様は草むらに消えた。
岩? 当たったのはこぶし大の石ですが。
いつの間にか岩になってるんですが。
直ぐに姿を現したと思ったら、漬物石ほどの大きさ岩を両手で抱えてえっちらおっちら俺の方に向かって歩いてきた。
「待ってろ、弩阿呆。
今も戻してやるからな。」
いや、さすがにそれを頭にまともに落とされたら戻ってこれないんですけど。
人生最後の川を渡って、死んだじいちゃんとばあちゃんと仲良くずっとお茶飲み話をする羽目になるんですけど。
ゆらぁ~と近づく、凶暴幼女。
「うあぁぁぁ、戦場だぞここはぁ。
味方をヤルんじゃなくて、敵を狩れやぁ。」
「だからこうして狩ろうとしてんじゃねぇか、敵を。」
まさかの敵扱いだぁ。
「許してください。
もう、幼女とか、幼稚園児とか、おしめとか、チビとか言いませんから。」
「てめぇ、今散々言ってんじゃねぇかぁ。
覚悟しなぁ。」
その時、女神様が。
後から考えるとそう思った自分が許せないだけどな。
「ボルバーナちゃん、リュウ君の今日の活躍に免じて止めは刺さないで。
わたしがよぉ~く言い聞かせて於くから。
言葉でダメだったら体に♡。」
「ジェンカちゃんがそういうのなら仕方ねぇ。
今日のところは見逃してやる。
運のいい奴め。
でも、今度おしめ言ったらスナイパーさんに頼んでなけなしの脳みそを狙撃して、粉砕してやるからな。
わかったな。」
捨て台詞を残して立ち去った。
直ぐに草に隠れて見えなくなった。
んっ、やっぱり凶暴幼女だ。
「リュウ君、どうしたの草むらに寝転んで。」
「いやぁ、凶暴幼女の投げた石が頭に当たって、脳震盪を起したみたいで体に力が入んないんだよ。」
俺の言葉におばちゃんは首を傾げた。
「・・・・・ポチに脳みそなんてあったのね・・・・・」
おいっ、その言い草はおばちやんでもさすがに怒るよ、怒。
おっ、何か閃いたような顔のおばちゃん。
そして、何を思ったのか俺の背中に覆いかぶさった。
あぁぁ、ぷにょ~んが、ぷにょ~んして・・・・・、気持ち良い・・・・・。
あっ、御子息様だけは全快したぁ。
「よし、御子息様だけは回復したようね。
良い子、良い子。
じゅるり♡、じゅるり♡。」
えっ。
「御子息様だけが元気で、体が動けないなんて。
もうなんて素晴らしいシチュエーションなの。
その上、ここで寝転んでいれば草が高くて周りからは見えない。
じゅるり♡。
さっ、戦勝祝いに大人の階段を登ろうかぁ。
じゅるり♡。」
えっ、ちょっと待てヤァ。
「おばちゃん、まだ、戦闘中、作戦行動中。
こんなところでまずいって。
はぐれニャンコが近くを通るかもしれないんだよ。」
「じゃぁ、ポチがケガして動けないので、私が介抱するために第2師団の本隊に戻りまぁす。」
満面の笑顔、しかし目は子ウサギをロックオンした鷹の目だった。
まじだ。
今日はマジだ。
何とか時間を稼いで、脳震盪から回復し、藪の中に引き摺り込まれる前に逃げ出す・・・・・
と考えている刹那、おばちゃんの目がさらに輝きを増した。
なんだその自信は。
もう獲物を狩ったも同然という目は。
「ポチ、時間を稼いで回復を待って、いつものように逃げ出そうとしても無駄よ。」
えっ
「それ脳震盪じゃないから、魔力切れだから。
初めての魔力切れでわかってないと思うけど。
ボルバーナちゃんが投げた石に当たった程度でポチが脳震盪を起すわけないから。」
えっ、魔力切れなの。
なんだぁ、そうなのかぁ。
このまま明日まで回復しないのかと思ったよ。
ただの魔力切れかぁ
それならすぐにスキルで魔力を補充すれば良いだけなんだ。
あと20%ほどスキルで回復する魔力分が残してあるはずだ。
スキルを発動すれば魔力切れが解消、体に力が入らない状態も回復してとんずら出来るのか。
何て素晴らしい神スキルなんだ。
誰だ俺のこの素晴らしいスキルをクソスキル、紙スキルだなんて言った奴は。
「あっ、スキルで魔力回復をすれば良いと思っているでしょ。
無駄だから。
さっき二つの罠を発動するのにスキル分も含めた全魔力160%を使い切ったはずだから。
魔力が回復するのは明日の朝、スキル分の魔力が回復するのは大体16時間後何じゃないの。」
勝ったぁぁぁぁ、おばちゃんに勝ったぁぁぁぁ。
俺のスキルの性能がさっきアップして、60%回復から80%回復になったんだもんね。
残り20%あるもんね。
さっき増えたからおばちゃんはそのことを知らないんだ。
わっはははははっ、俺は勝ったどぉぉぉぉぉ、ニャンコにも魔族にも、そして、おばちゃんにも。
よし、スキル発動だぁ。
それぇぇぇぇぇぇ。
えっ・・・・・。
えっ・・・・・。
ええええええっ。
魔力が充填されない。
体に力が入らない。
焦る俺に対して、おばちゃんが悪魔のような笑顔を向けてくる。
その上、御子息様は俺本体のことなど全く関係ない様にぷにょ~ん反応したままで元気いっぱい。
ジュルリ♡。
戦場の荒野におばちゃんの舌なめずりの音だけが響いているように聞こえた。
ここまでの成果
魔力回復: 0% + 55%(ボーナス♡) + 5%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 25時間22分
(どうして、魔力が回復しないんだぁ。)
(じゅるり♡。
諦めな。60%魔力回復なんだよ。(おばちゃんターン))
(さすが弩阿呆君の紙スキル。
結局、役に立たなかったわね。(腐女帝様ターン))
突然ですが、本作品は8/27日公開 第215部分で終了となります。
1年半もの間、お付き合いくださりありがとうございます。
続けて、9/3より次回作、「精霊と魔物、そして人が渦巻く世界 聖戦士の憂い 」が始まります。
引き続き、宜しくお願い致します。
9/3日は1~8話を一挙に公開予定です。