21話目 補習の真相
「おらおら、さっさと席に着け。
もう、補習はとっくに始まってんだぞ。」
おばちゃんが心の友の有刺鉄線が巻かれた鉄パイプでドンドンと教壇の床を叩きながら叫ぶように言う。
掃除のおばちゃんとの甘~い、2人っきりの補習・・・・・・、んな訳がないだろうが。
妙に気合の入ったおばちゃんが片手に教科書、片手に心の友を持って、俺の正面に構えてんだぞ。
そんなに足を開いて仁王立ちすると、風でスカートがめくれて、おばちゃんのばばパンが見えちまうぞ。それで良いのか。
前日におばちゃんがここだけは覚えておけ、飯のおかわりを忘れても良いから、ここだけは覚えておけといたところを次の日に覚えているか聞いてくるんだよ。
俺にとっては飯のおかわりがこの世の至上の命題な訳で、飯を3杯もおかわりした頃にはおばちゃんの大事なところ、あっ、パンツじゃないぞ、ここを覚えておけときつく言われたところなんざぁ、きれいさっぱりに肉の切れ端と一緒に口から入って、翌朝に尻からおならと一緒に出て行っちまって、霧散してしまうぐらいの価値しかない訳だなこれが。
当然聞かれても、しどろもどろ、答えられるはずもなく。
容赦なく、心の友の鉄パイプが俺の頭に食い込んでくるわけだ。
おばちゃん曰く、頭に溜まった腐ったミカンを外に出して、代わりに教科書を詰め込むんだと。
目と耳からでは頭に入らなかったら、強制的に教科書を頭に入れて覚えろだってさ。
そんなこと出来るわけがないだろうが、と言ったんだけどな。
"出来ないなら、そんな頭いらないよね"と言って、どこから出したのかおばちゃんの身長ほどもある大刀を鞘から抜いて、首に当てるんだよ。マジで。
なんかやばい雰囲気を感じたので、俺は矛先をずらすべく、その刀はどうしたと聞いたら、どうもおばちゃんの実家は刀剣の卸と副業で抜刀術の道場を経営しているらしい。
道理で心の友、鉄パイプの扱いが素人っぽくないと思たんだよな。
と言うことは、その大刀の扱いは玄人様でございますか。
"もちろんよ。心の友で効かないときには、この刀、私の祖母から頂いた「ばっちゃの形見」でスパットやっちゃうことにしているの。"
マジっすか。おばちゃんの最終兵器はばっちゃの形見でございましたか。
心の友はまだしも、ぱっちゃの形見を首にまともに受けたら、俺の背中を自分の目でじっくりと観察することが出来ちゃうな。
ちょっとぉ、ばっちゃぁ、何とかに刃物を持たせちゃまずいって。
ちゃんと考えなくちゃぁ。
魔族の総攻撃の前におばちゃんの怒りで人類が滅亡しちゃうよ。
ちなみに、心の友ではなく、初めからばっちゃの形見を使用するのはどのような場面をご想定でいらっしゃいますか。
"リュウ君にエロいことを学校でされそうになったとき。"
あっ、それ絶対に大丈夫だから。
ありえないから。安心して。
毎日牛乳をがぶ飲みした後に視線を下に移して、その後、おもむろに大きなため息ついている方になんてエロことをする気力が起きないから、俺的に。
その時、ふっと、頭のぎりぎりをかすめる風が吹いた。
なんだ、今日は風が強いな、局所的に。
そう思って、上を見ると、髪の毛がはらはらと俺の頭から落ちてくるのが見えた。
えっ、まさか今の風って、ばっちゃの形見を早速、抜刀したのか。
この毛は俺の・・・・・、まさかザビエル君にされちゃったの。
視線を前に戻すと、ばっちゃの形見を水平に両手で掲げたおばちゃんが目に入った。
"つまらぬものを切らせないようにしてね。リュウ君。"
つまらぬものって。
おばちゃんは片手を放し、手刀を振るうように俺の首に当てた。
"ここよ。そして、ここも。"
手刀を首から俺の頭の方に移した。
うぁぁぁぁぁ、やっぱり、ザビエル君になっちまったぁぁぁ。
"うふふふっ、これで他の女の子は寄ってこないわね。
その頭を見たら大爆笑だもんね。"
おばちゃん、やって良い事と悪い事が有んだろうがぁ。
"リュウ君、じゃぁ、君が今やらなければならないことは何かなぁ。"
と言いつつ、再度抜刀の構えのおばちゃん。
あっ、はい。補習です。
"よろしい。では何で昨日、私が覚えなさいって言う所を覚えてないかなぁ。
あっ、何だか手がばっちゃの形見を抜きたくなってきちゃったなぁ。
特に頭のすれすれをブンっと。"
うあぁぁぁぁ、これっ、これ以上は絶対にまずいって。
マジでザビエル君と双子になっちゃうって。
就職先が軍じゃなくて、教会本山の礼拝堂になっちゃうっての。
そして、さらにこれが進行すると副業が強面の厳つい自由業の教官と双子になっちまうって。
強面で厳つくは全くないけどな。
"じゃぁ、ちゃんと補習をしようね。
返事は? "
イエス、マム。
というように、俺は双子の兄のザビエル君や副業が厳つい自由業の強面の教官ミニと決別するために、必死で補習をこなしたのだった。
鉱山で年季奉公の方がよっぽどストレスがないと思われるような、そんな3週間を過ごし、さらに1週間経った、補習を命ぜられてから1ヶ月後が今日だ。
「おらおら、さっさと席に着け。
もう、授業はとっくに始まってんだぞ。」
愛用の杖でドンドンと教壇の床を叩きながら、義足の教官がなぜか嬉しそうにそう言っている。
「よし、先週やった前期定期試験の結果を返すぞう。
平均点の半分に至らない者は赤点だ。
対象者は2週間の補習後に追試だからな、逃げんなよ。
この点はひと月前にちゃんと話したよな。
追試での合格点は今回の試験の平均点だ、まぁ、頑張れ。
補習の逃亡者と追試でも落ちた奴は真の肉壁コースに進路が変更だからな。
紙様コースじゃねぇぞ、追試に落ちる阿呆な奴に後方支援業務なんてのは絶対に無理だからな。
再試に落ちる阿呆でも覚えられるように、竹やり一本持って、魔族に突撃する訓練を2年半やってもらって、卒業後は直ぐに最前線に配置だぁ。
まぁ、考えようによっては将来が明確になって良かった良かったともいえるぞ。
第一希望者はリュウとエンあたりか、あぁ、そうだろう。
それに大体の命日も予測が付くし。葬式の準備ができるって親族には喜ばれてるぞ。
あぁ、欠点と言えばな、個人年金と生命保険には当然加入はできないぞ。
契約前に逝っちまうからな。
要するにだ、追試に落ちる阿保の子孫を残すほど人類も余裕があるってわけじゃないってことよ。真の肉壁君。」
えっ、ここで落第すると2年半後には最前線に配置され魔族軍に竹槍持って裸単騎で突撃ってことか。
ドッカーン。
エレン教官の胸で窒息死するという俺の野望が潰えるというのか。
まじぃぃ、知らなかったぁ。
まっ、知ってても勉強なんてしなかったけどな。
何とかなんだろ。
わかんなかったら、念話でおばちゃんに聞けば良いんだしな。
"何言ってんの。教えてあげるわけないじゃない。
私とシュウ君の回答が同じだったら、念話でカンニングしたことがばれるわよ。
でも、今回の試験中に念話をしてこなかったと言うことは問題を自分で解けたんでしょ。
試験放棄して、寝ていた様子もなかったし。"
それが不思議なんだよな。
おばちゃんとの補習で、ここを覚えなかったらザビエル君だぁと言われたところがほとんど出題されたからな。
そこんとこは書いたよ。
"それじゃ、7割ぐらいはできたってことよね。"
わかんないけど、そんなもんかな。
おばちゃん、良く出題されるところが分かったな。
義足の教官にばばパンでも献上したか。
あの教官ならばばパンで買収されそうだよな。
辞書が3冊俺の側頭部に音速を超えて炸裂。
バッコーン、ブーン、だって。
衝撃が辞書の飛んで来る音の先に来た。
"そんなことするわけないでしょ。
あそこは授業で教官が必ず覚えろ、石にかじりついてでもとにかく覚えろって言った箇所よ。
リュウ君はどうせ聞いてないでしょうけど。"
そうなんだぁ。
事前に補習を手伝ってくれて助かったよ。
ありがとう、ジェンカ。
"えっ。
うん。
どっ、どういたしまして。"
真っ赤になって、もじもじしているよ。
どうした、おばちゃん。
もじもじなんて世間の支配者たるおばちゃんに似合わないぞ。
あっ、そうだ。
補習を手伝ってくれた、お礼をさせてくれ。
でも、夕飯のから揚げの献上だけは勘弁してくれ。
"お礼なんて、そんなの良いわよ。
リュウ君が・・・・・、いえ、何でもない。
チームメイトが落第して、別々の道に進むだなんていやだからね。"
ここまでの成果
魔力回復: 4%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 40時間33分
(おばちゃんのおかけでポチは少し賢くなりました。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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