32話目 決戦 その2
黒い霧が第2師団本隊の方に伸びていく。
ニャンコ上軍の前進速度も増してきたようだ。
"攻撃開始から40分かぁ。
漸く第2師団本隊が後退を始めたようね。
敵が私たちの作戦に乗ってくるようなら、もうちょっとしたら目の前をニャンコ兵が通り過ぎるわよ。"
背をかがめている俺からは藪や森の木々で本隊のエルフ兵たちは見えない。
ただ、ニャンコ上軍が横に並んだ線を崩さずに前進しているところから見ると、第2師団本隊は予定通りに後退していると考えてもよさそうだ。
ニャンコ軍の反撃で第2師団本隊が本気で撤退しているのではなく、作戦通りに故意に後退し、ニャンコ軍を引き込んでいるのだろう。
やがてニャンコ上軍がその隊形を維持しながら、俺たちの前を通り過ぎた。
恐らく反対側の左翼でも同じように囮部隊の前を通り過ぎたことだろう。
計画した作戦通りに左翼囮部隊は動いてくれるか。
先ほどの不安、旅団の連絡係と囮部隊の隊長がキョドりコンビというこの作戦最大の弱点というべき者たちが動く時間が近づいて来た。
"腹黒さんや他のエルフ連隊幹部、一緒に作戦会議に出ていた連中も一緒だから大丈夫でしょ。"
そうだと良いんだけど。
何せ長い間同盟を組んで戦ってきたのにもかかわらず、人類軍の黒い霧対策も知らなかった軍の幹部だからな。
"まぁまぁ、敵左翼が通過してその後ろ姿を見たら風属性魔法とそれに矢を混ぜて攻撃しろってだけの作戦よ。
これが出来なかったら、エルフ軍全体のレベルはキョドり隊長や小者隊長と同程度と言うことよ。
第2師団本隊のこれまでの動きからして、第2師団幹部の全員ギョドり隊長と同レベルってことはないはずよ。"
左翼囮部隊が作戦通りにやってくれるか心配しながら右翼側のニャンコ兵たちの後ろ姿を見送っていると、
遠く左翼側の方で雄叫びと土煙が上がった。
"よしっ、一応作戦通りに左翼囮部隊は動いてくれたようね。
後は深追いせずにニャンコ上軍左翼が囮部隊の方に向かってきたら、攻撃しながら後退し、ニャンコ軍の注意を引き付けてくれれば完璧ね。
それではそろそろ私たちも移動しようか。"
右翼攻撃部隊の先頭に居たおばちゃんは屈んだ背中を少し伸ばして部隊の皆がその姿を確認できるようにすると、次に自分についてくるように手で合図をした。
それを合図に右翼攻撃隊は腰をかがめたまま、胸の所まである下草の中を縫うように移動を開始した。
そういえばおばちゃん、エンたちは標的を発見したのか。
"大体の位置はね。黒い霧が始まるところだからわかり易いんだけど。
意外と雑草が延びていて、その姿をきちんと捉えてはいないようなの。
今から予定よりももう少し接近してみるって。
まぁ、標的の大よその位置は把握できているからもう直ぐその姿を目視で捉えるんじゃないの。"
接近しすぎて見つかんなきゃいいけどな。
"この段階になったら索敵は見つかっても別に良いんじゃない。
エン君が一人見つかっても索敵兵としか思われないから。
現状のようにガチンコ勝負の戦況では敵の索敵兵一人一人に構ってなんていらんないから。
その後ろを進んでいる私たち右翼攻撃隊が近づいてくるのを敵に発見されなければ良いわよ。"
でも、エンが発見されたら俺たちのいる右翼方向に索敵が出るんじゃないのか。
"大丈夫よ。
その為に左翼囮部隊には派手に騒いでもらっているんだから。
左翼囮部隊にニャンコ軍団の気が取られて、かなり近づいたエン君を発見できないか、発見しても左翼囮部隊の斥候だと思うから。
本命の右翼攻撃隊がいるなんて思わないから。"
そういうもんか。
おばちゃんの先導で右翼攻撃部隊は草むらの中を静かに、でも出来るだけ急いで移動した。
ニャンコ上軍が横一線になって通った後の為に半分ぐらいは草が倒れている。
こちらの視界が良い代わりに敵に発見される確率が高くなる。
これは予想外な事態だな。
右翼攻撃部隊の本部設置予定地、敵右翼後方1500mの地点にはまだ到達していない。
ここで見つかる訳には行かない。
おれはよりいっそう頭を低くして、移動することにした。
"マスクマンさんからの情報だと、ニャンコ軍団は目前の第2師団本隊と左翼囮部隊に気を取られて、右翼後方は全く気にしていないみたい。
左翼、敵から見れば右翼になるけど、左翼囮部隊の攻撃で敵左翼部分の侵攻が中央部に比較して遅れているために横一線だった戦線が変形しそうになっているって。
逆に右翼、敵から見て左翼、私たちの目前を通り過ぎた部隊は障害が少ないためにニャンコ上軍全体からみるとすこし先行しているような格好になっているって。
敵右翼が早く離れて行ってくれたおかげで私たち右翼攻撃部隊が目的地に到着するまで見つかる可能性は低くなったわね。
さっ、急ぐわよ。"
そういうとおばちゃんはハンドサインで皆に急ぐように合図を送った。
俺たちはおばちゃんに誘導されるように先に進んだ。
やがて、立ち止まるように合図を送ってくるおばちゃん。
"さぁ、ここらでいいかしら。
ここに右翼攻撃部隊の本部を設置するわよ。
それじゃぁボルバーナちゃん、黒い霧担当部隊を率いて先に進んでくれるかな。
ここから500m、出来るなら1000m進んでから黒い霧を無効化して。"
お淑やかな大男さんの小脇に抱えられたおしめ幼女がおばちゃんの念話に頷く。
背中におんぶだと目立つから、かといって自力で歩くと皆の進軍速度についてこれない懸念があったから、ずっとお淑やかな大男さんの小脇に抱えられてここまで移動してきたのだ
しかも、お淑やかな大男さんは右腕に座敷童帝様、左腕におしめ幼女を抱えてここまで移動してきたのだ。
小荷物を二つも抱えて、しかも背を低くして移動するとはさすがお淑やかな大男さんだ。
まぁ、ここに右翼攻撃隊本部を設置するなら左腕の座敷童帝様の運搬はここまでだから、小荷物が半分になって移動も楽になるにはずだ。
"先行してニャンコ上軍中央部の最後方にくっついているエン君から情報が上がってきたわよ。
標的を発見、ニャンコ上軍の中央部最後尾に一個大隊ほどの魔族部隊が固まっているって。
左翼囮部隊の攻撃が始まってから魔族部隊全体の前進が止まった模様。
その停止した場所から前方の第2師団本隊に目がけて黒い霧を送り続けているところだって。
止まったと言うことは左翼囮部隊の事をかなり気に掛けているみたいね。
丁度良いわ。
これで右翼後方から進軍する黒い霧担当部隊が標的に発見されずにかなり接近できるわね。
あの黒い霧の最後尾の真下に標的が固まっているはずよ。
さっ、ボルバーナちゃん、リュウ君。進軍を開始して。"
おばちゃんの前進指示受けておしめ幼女が黒い霧担当部隊の方に前進のハンドサインを送る。
小脇に抱えられた小荷物ごときに指示をされるのは平時では不本意だが、このような戦況では致し方ない。
俺は一度草むらから顔を出して黒い霧が発生している方向を確認すると、そこに向けて静かに駆けだした。
ここまでの成果
魔力回復: 25% + 20%(ボーナス♡) + 15%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 14時間55分
(ここまでは作戦通りに進んでいるよな。)
(まぁ、所詮はニャンコだから単純なものよ。猫じゃらしを振る方向に気が行っちゃうのよ。(おばちゃんターン))
(それでも弩阿呆君は敵に最も接近している弩スケベ君のことが心配で心配で仕方ないのよね。早く無事な姿を確認して抱きしめたい♥と。その為に先を急ぐのよね。(腐女帝様ターン))
突然ですが、本作品は8/27日公開 第215部分で終了となります。
1年半もの間、お付き合いくださりありがとうございます。
続けて、9/3より次回作、「精霊と魔物、そして人が渦巻く世界 聖戦士の憂い 」が始まります。
引き続き、宜しくお願い致します。
9/3日は1~8話を一挙に公開予定です。