29話目 作戦が決まったぞ
おばちゃんは考え込むようなしぐさを取って、沈黙してしまった。
おばちゃんの次の言葉を待って、同じように沈黙を守る旅団員とエルフ軍幹部。
やがて、おばちゃんがばっちゃの形見でドンッと床を、先ほど俺を脅した時よりも若干軽めに叩いた。
そして、力強く、でも大声ではなく、話を始めた。
「現状、獣人軍団上軍と第2師団本隊とはにらみ合っていて、きっかけがあれば戦闘になるということですね。
つまり、戦いの先手が打てる状態だということ。」
おばちゃんの問いに、参謀さんが応えた。
「その通りですな。
獣人軍はエルフ軍に先手を取られても、派遣されてきた魔族部隊の黒い霧がある限りは余裕で対処が可能であり、ほどなくしてエルフ軍を逆に押し込めると考えているんではないですかな。
獣人軍は小細工を戦いに持ち込むのは大の苦手でして。
数に物を言わせて力押しの戦法を得意としているから、何か次の侵攻に向けて下手な工作をしているとは思えませんな。」
小さいドンッにビクついたのか参謀さんは丁寧な話し方のままだ。
「戦えば勝てると高を括っていると。
あえて獣人軍から仕掛けて森や藪に入り、いたずらに損害を増やすことは考えていないと思われると言うことですね。」
おばちゃんの問いに頷く、腹黒さんと参謀さん。
「わかりました。
先手はエルフ軍第2師団本隊にお願いし、正面の獣人軍に風属性魔法とそれに乗じて矢を混ぜて攻撃してもらいましょう。
獣人軍がそれに対して反攻してきたら、エルフ軍本隊は戦線を維持しつつ徐々に後退しながら戦ってもらいます。
獣人軍と魔族部隊の目をエルフ軍本隊に引き付けておきます。
もちろん、黒い霧が出てくるまでは逆に獣人軍を押し込んでもらっても構いません。
その場合はある一部隊だけが突出しないように、逆に後退する場合は不自然に引かないようにお願いします。」
作戦会議に参加できている人は皆、おばちゃん作成案に静かに頷く。
それを見ておばちゃんは先を続ける。
「エルフ軍本隊に引き付けられた獣人軍団上軍と標的は黒い霧の発生で徐々に戦線を後退するエルフ軍本隊を追って前進するでしょう。
理想的には我々共同部隊が本体とは離れて潜んでいて、前進する獣人軍団が我々の前を通り過ぎ、自然と獣人軍の後方に置き去られた時点で側面後方から魔族部隊に風属性魔法と水属性魔法を叩き込み、展開済みの黒い霧を消失させます。
その後は標的を攻撃します。
これが獣人軍団上軍にとってはエルフ軍の別部隊に後方から挟撃してきたよう思われて、パニックになるというのが理想的な展開ですが。」
「ですが、何ですか。
何かその作戦で気になることがありますか。」
具体的な作戦案、想定される戦いの経過を説明して、最後にその案に否定的な言葉が出てきたのを聞き咎めた腹黒さんが今まで静かに聞いていたのに思わず質問をしてしまったようだ。
「敵獣人軍団上軍が目の前を通り過ぎて勝手に我々を後方に位置付けてくれるのは理想なのですが、獣人軍団は横に広がって進撃してきそうなんですよね。
標的は中央部にいる訳ですから我々の潜んでいる場所、獣人軍の両翼の外側からはかなりの距離があるはずですよね。」
「敵の一団が目の前を通り過ぎたら、我々共同部隊も敵の中央部に向かって秘かに進軍すればいいのではないですかな。」
おばちゃんの懸念に対案を述べる参謀さん。
「我々が一団で動くとさすがに敵に気が付かれるのではないでしょうか。
それでは奇襲の意味が薄れますし、初めにあったように共同部隊が孤立してしまう可能性があります。
エルフ軍第2師団は偽装とはいえ後退していますので、反転して我々を孤立から救ってくれることはできないと思いますが。」
「なるほど・・・・・・」
そうつぶやくと参謀さんは困った表情を強くして沈黙してしまった。
おばちゃんの懸念事項を聞いた一同はしばし重たい沈黙に陥った。
「安全な場所に潜伏してニャンコ軍団が通り過ぎるのを待って、その場所から標的を攻撃するにはちょっと遠い。
ニャンコ軍団が通り過ぎた後に安全な場所から標的に近づいて攻撃すると、通り過ぎたニャンコ部隊に発見され反転攻撃され、更には後方にいる中軍も出張って来て逆に挟撃される可能性もあるということね。」
沈黙を破って姉御が問題点を整理した。
それに続けるように黙って何かを考えていたおばちゃんが口を開いた。
「安全な場所に潜んで獣人軍団上軍を見送るまでは必須だと思うのよね。
そうでなければ、第2師団本隊を壁にしてその後ろから黒い霧を無効化する作戦の方が良いと思うのよ。
問題はニャンコ軍団を見送った後に如何にして標的に近づくかね。」
「一つは私たちが潜んでいる側、もしニャンコ軍団の右翼だったらその正面に布陣したエルフ軍に奮闘してもらい、私たち共同部隊に気が付いても反転できないようにするというのはどう。」
今度は腐女帝様が動いた。
「それとも右翼にいる我々の反対側、左翼から囮の攻撃を行い、ニャンコ軍団の意識をそっちに持って行って、その隙に右翼が標的に近づき黒い霧の無効化と魔族部隊の殲滅を狙う。
囮の左翼は左翼のニャンコ部隊が反転してきたら攻撃をやめて、とっとととんずらするってか。」
これまで黙って聞いていたオムツ幼女がお淑やかな大男さんの肩から首だけを出して発言した。
あっ、真小者連隊長が幼女の生首に気付いて、泡吹いて倒れそうになっている。
「エリカちゃんの作戦もボルバーナちゃんの作戦もいずれも味方をもう一部隊編成しなければならないわね。
数に置いて劣性のエルフ軍を分割して運用するのはどうかと思うの。」
二人の作戦案のリスクを挙げる姉御。
「エリカちゃんの作戦案は獣人軍の左翼をしっかりと受け止めなければならないから、かなりの兵を割く必要があるわね。
逆に、ボルバーナちゃんの左翼の囮案は左翼から攻撃があると思わせれば良いので、反撃されそうになったら後は全力で逃げるだけなんでそんなに兵数はいらないんじゃないかな。
それに右翼に潜んで標的にアタックする兵数も、旅団は外せないとしても、共闘するエルフ部隊は1個連隊も必要としないと思うのよね。」
旅団員の作戦討議の成り行きを静かに見守っていた参謀さんが話に割って入ってきた。
「それでは標的に風属性魔法でアタックする右翼のエルフ兵はどの程度必要と見積もっていますかな。」
「そうねぇ、護衛と攻撃隊を兼ねるとして1個大隊で十分じゃないですかね。
一杯いたらそれだけ敵に発見されやすくなるし。
標的に近づいて攻撃するまでは発見されたくないしね。
あっ、だだ、右翼攻撃隊のエルフ兵は特に風属性魔法に優れた方を配置してほしいわね。」
参謀さんとおばちゃんのやり取りが途切れたところで、じっと聞いていた腹黒さんが一つ頷いた後に口を開いた。」
「それでは右翼にエルフ1個大隊と旅団の方々、左翼にエルフ2個大隊を潜ませる。
エルフ第2師団本隊が攻撃を開始して、それに応じて進軍してきた獣人軍団上軍が共同部隊の目の前を通り過ぎてある程度したら、左翼に潜んでいるエルフ軍2個大隊がその場から獣人軍左翼に攻撃を行って獣人軍の意識を引き付ける。
その間に右翼の共同部隊は中央にいる標的の魔族部隊に接近し、黒い霧を無効化した後にそのまま獣人軍中央部を攻撃する。
後は挟撃、この場合いは3方からの攻撃に動揺した獣人軍が動揺し混乱して、奴らの戦線が崩壊する。
その混乱に乗じて魔族部隊を殲滅するという作戦ですね。」
言い終わった腹黒さんは自ら復唱した作戦案に興奮したためか顔が赤らんでいた。
ここまでの成果
魔力回復: 20% + 15%(ボーナス♡) + 25%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 15時間22分
(何か最後にうまくまとめられたな、腹黒さんに。)
(さすが腹黒さん。おいしい所を持って行くのが得意なのよ。(おばちゃんターン))
(そういうヤツが味方の後方からの誤射でとっとと地獄に先回りっていうのが多いのよね、ねっ、スナイパーさん。((腐女帝様ターン))
(・・・・・・・・ズトンッ。(スナイパーさんのターン))
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。
よろしくお願い致します。