表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/215

27話目 決断の理由

おばちゃんが標的の側面後方から攻撃することを決断した。

その言葉を聞いたある者は頷き、あるものは驚きの表情を隠すことなく顔と態度に出していた。

驚きというのは側面後方からの攻撃を選択したからではなく、リスクのある後々責任問題になるかもしれない決断を、古参の兵士もいる中で幾ら実戦隊長とは言え少女と言ってもいいような容姿の若い幹部が堂々と決断して見せたからだと思う。


おばちゃんの決断を聞いたキョドリまくり真小者隊長は安堵のため息とともに椅子に崩れるように座っている。

大きな責任を回避したと思っているからだろうか。


"甘いわね真小者連隊長さん。

何かあったら責任は全部あんたが被るのよ。

逆に、作戦が成功したならばすべて私の功績。

やったわね、オホホホホホホッ。"


えっ、そうなの。


"作戦が失敗したからって、所詮は新兵でしかない私に一番の責任を問わないと思うけど。

逆に成功したら、先行き不透明な状況でよく正解を引き当てたと褒められるはず。

まぁ、今回の作戦で不慮の出来事によりにっちもさっちもいかなくなったら最終的にはリュウ君が転写雷属性魔法をばら撒けばいいんだから、失敗する余地なんてないんだけどね。

これで近々ある夏のボーナス査定も駄々上がり、リュウ君と二人で貯めている「愛の駄菓子屋開店資金基金」の数字ももうなぎ上りね。"


えっとぉ、その事なんだけどね。

まぁ何と言ったらいいか、ここで言っても良いのかどうか。


"どうしたのリュウ君、ボーナス全額を「愛の駄菓子屋開店資金基金」に入れたくないというの。

しょうがないわねぇ。

ここは奮発して、ご褒美としてアンパン1か月分を、毎日のお小遣いとは別に、思い切って分配してあげるわね。

アンパン(100バート)×2個/日×30日=6000バートね。"


そっ、そうなのかぁ、それは凄い嬉しいぞ。

雀の涙のボーナスから6000バートももらえるのか。

いやぁ、良いのかそんなに。


"日頃頑張っているから良いのよ、これぐらいは。

でも、残りは愛の基金へ入れるからね。

わかったわね。"


いいよいいよ、3万バートの内で6千バートももらえれば。


"んっ、3万バートのうちの6千バート。

んっ。

んっ。

3万バート? って。"


あぁ、正確には2万バートだな。

3万バートのボーナスから税金や雇用保険、健康保険、兵員年金等々を差し引かれると手取りでは2万バートらしいよ。


"ちょっとぉ、ポチぃぃぃぃ。

何やらかしたの。

ボーナスがたった3万だなんて。

肉壁の穴の校長のヅラだけでなく、今の大ボスの参謀総長のヅラまで取り上げちゃったとか。

あり得ないわよ、たった3万、しかも手取りで2万バートなんて。"


えっ、新人の夏のボーナスは皆一律3万の寸志だって、マスクマンさんが言ってたけど。

余りの低額が信じられなかったから姉御にも確認したから間違いないぞ。

2万の手取りからお小遣いが6千なんて悪いな、おばちゃん。


"・・・・・・・

えぇぇぇ、10バートに訂正いたします。

そんな手取りじゃ、アンパン1個なんてとんでもなくて飴玉1個でも多いぐらいよ。"


そんなぁぁぁぁぁぁ。

幼稚園児じゃないんだから、飴玉1個だけだなんて。


"文句があるなら、もっと稼いでこんかい、ボチぃぃぃぃぃ。"


俺とおばちゃんがこの作戦終了後に支給されるであろう夏のボーナスの配分でもめていると、おばちゃんが決断した作戦についての追加の説明があるのをじっと待つ間の沈黙に耐え切れなくなったのか、腹黒さんが問いかけてきた。


「その決断、標的の側面後方から攻撃することを選択した理由を尋ねても良いですか、ジェンカ隊長。」


おばちゃんはこんな大事な念話をしている時に何を小さいことを言っているんだこの腹黒はと言いたげな睨むような眼差しを腹黒さんに向けたようだ。

腹黒さんが顔を引きつらせて、引き気味になっている。


「この手で魔族をぶっ潰してやれるからだぁぁぁぁぁぁ、怒怒怒。」


ありゃぁ、寸志のボーナスの件でかなり頭にきているな。

持って行き場のない怒りを魔族部隊にぶつけるということですね。


"私のボーナス返せよぉぉぉ。"


あぁ、止めを刺す様でなんだけど。

後で知って、今度は俺に八つ当たりのとばっちりが来るといけないので言っとくね。

その怒りはニャンコ軍団の肉球をプニプニして、癒されることで沈めてくれ。


"えっ、さらにやばいこと、愛の基金に重大な影響を及ぼすの。

聞きたくない。

もうやめてぇ。

これ以上、愛の基金の予定が狂うのはぁぁぁぁぁぁ。"


そんなやり取りを知らない参謀さんが腰を引き気味にして、ビクビクしながらおばちゃんのご機嫌を伺うような、手もみ状態で口を開いた。


「何が何でも魔族部隊を自らの手で叩きたいと言うことですな。

頼もしい。

我々も安易に魔族軍の手を借りた獣人軍には本当に怒りを覚えています。

共に、敵を徹底的に叩きましょう。」


参謀さんの威勢の良い発言にエルフ軍側の出席者はこぶしを握り詰め、顔を赤くして興奮気味に同意の姿勢を示した。

ちなみに参謀さんのその態度はおばちゃんのご機嫌を取る太鼓持ちにしか俺には見えないがな。


一方の旅団側は寝ている奴らとキョドりっぱなしの人、生きているか死んでいるかわからない人以外はみな一様におばちゃんの過激な発言に戸惑っているようだ。

まぁ、正面後方からか側面後方からかのどちらかを選ぶだけだから、どちらの作戦を選んでも俺の転写雷属性魔法で黒い霧なんて無効化できるのを旅団員はわかっていたから悠然と会議の成り行きを見守っていたところに、おばちゃんがそんな過激な発言をしたために戸惑いが大きかったのかもしれない。


エルフ軍側はおばちゃんの過激な発言で意気揚々として、ざわざわし。

一方の旅団側は予測外の発言で静まり返ってしまった。


おばちゃん、寸志ボーナスに激怒してあんな過激な発言をしてしまうのは理解できるけど、ここは何で魔族軍団の側面後方から攻めるか皆に説明した方が良いんじゃないのか。


"旅団に入って以来ずっと楽しみにしてきた夏のボーナスが寸志だとわかったこのやるせない怒りを思いっきりぶつけるために決まっているじゃないの。

もう、ぱっちゃの形見の露としてやるぅぅぅ"


まぁ、八つ当たりが一番大きな理由かもしれないけど、真の理由は何だ。


「魔族軍団の側面後方から攻めるのは、後日また魔族部隊が獣人軍に派遣された場合を想定してのものです。」


先ほどの寸志ボーナスへの怒りに駆られて荒い口調で作戦を告げた時とは打って変わって、今は冷静な指揮官らしい丁寧な口調におばちゃんが突然に変った。

その変貌に驚いたエルフ軍側は今まで高揚していたことが嘘のように静まり返った。

一方、人類軍側は漸く普段のおばちゃんに戻ったのかとほっとした安堵のため息が聞こえて来そうな雰囲気が漂っていた。


「今度の作戦で我々旅団員が行う水魔法攻撃は非常に強力で、壁となるエルフ軍本隊と獣人軍団を乗り越えても黒い霧の効果を打ち消すことができます。

しかし、雷属性魔法術士と同様にこのような強力な水魔法術士は人類でもそう多くは居ません。

次回、魔族部隊がここに現れた時に人類軍からどの程度の力のある水魔法術士が派遣されてくるかわかりませんが、おそらくはエルフ軍本隊の正面後方に待機していたのでは黒い霧を効果的に打ち消せるか確証は有りません。

次回派遣されてくる水属性魔法術士の力がある程度は落ちても黒い霧を洗い流せるように標的との距離をより縮めることができ側面後方から今回も攻めて、次回への訓練となるように作戦を選択しました。」


おばちゃんの側面後方からの攻撃案に納得したのか、皆が静かに頷いた。


ここまでの成果

魔力回復: 25% + 5%(ボーナス♡) + 30%(ボーナス♥)

次にスキルを発動するまでのクールタイム: 15時間46分

(もう、愛の基金の積み立て予定を狂わすやつは全部このばっちゃの形見の露にしてやるぜぇ。(おばちゃんターン))

(あっ。)

(あ゛んっ。怒怒怒。(おばちゃんターン))

(いや、何でもない。)

(隠してもどうせ年末になったらバレるんだから、はっきり言ってやったらどうなの。(腐女帝様ターン))

(年末・・・・・・、はっ、まさか冬のボーナス。(おばちゃんターン)))

ばっちゃの形見を引き抜き、ブルブル震えるおばちゃんを残して俺は藪の中に脱兎のごとく逃げ出した。

それを追って来るおばちゃん。

(自ら藪に飛び込むとはね。やっぱ弩阿呆君だわ。(腐女帝様ターン))


活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ