26話目 決断
「獣人軍団上軍中央部の後方に布陣していると想定される標的の魔族部隊の発動する黒い霧を無効化するには、我々は標的の左、或いは右後方に布陣する。
そして、予定通りに黒い霧がエルフ軍本隊を目がけて発動されたなら我々エルフ軍第2連隊は風属性魔法を発動し、それを薄め、旅団の方にはさらに水属性魔法を発動してもらい黒い霧を無効化する。
エルフ軍本隊である第2師団は開戦初期は戦線を維持しながらゆるりゆるりと後退し、黒い霧の消失を確認したら反転し、連戦連勝で油断ある獣人軍を叩く。
そうなれば獣人軍の最前線は崩壊し、おそらくは中軍、或いは下軍まで後退することになると考えられる。
そして、黒い霧を無効化した我々共同部隊は敵上軍の敗走の混乱に乗じて魔族部隊を殲滅する。
というのが今回の作戦の概要というところですかな。」
勝利への道筋が見えた来たエルフ軍の参謀さんが顔を赤らめながらまくし立てた。
「確かにそうなれば理想の展開ですね。
それで今の作戦案に何かリスクはありますかね。」
興奮気味の参謀さんとは対照的に、冷静に腹黒さんがその他の出席者に問いかけた。
「一番のリスクは標的の側面後方に我々共同部隊が布陣した場合にエルフ軍第2師団本隊からは完全に孤立していることですね。
黒い霧の無効化前、本隊の逆襲の前に敵に発見されたら、第2師団と対峙している敵上軍の一部が反転して来たり、敵の中軍から進軍してきて我々共同部隊が包囲される可能性があると思いますが。」
腹黒さんの問いに姉御が応える。
「我々の布陣を包囲されそうになったら直ぐ撤退できるぐらいまで標的から離れてはどうか。」
「標的から距離を取り過ぎると、水・風属性魔法の威力が落ちますし、狙いも狂う可能性が高くなりますわよ。
そうなると黒い霧を無効化するという本来の目的が達成できなくなりますね。」
「安全を取り過ぎると本来の作戦遂行に支障をきたすか。」
参謀さんと姉御のやり取りを聞いてぽつりと腹黒さんは感想を漏らした。
おばちゃんは話に参加しないのか。
"まずは作戦終了後の私への報酬についてリュウ君が確約してくれないとね。"
あっ、やっぱりこのまま姉御と参謀さんのやり取りを見守ることにしました。
"ポチのいけずぅぅぅ。"
「孤立するリスクを避けるならエルフ軍第2師団の中央後方に共同部隊が布陣して、第2師団と敵上軍の頭越しに黒い霧を迎撃するっていう最初の案もなくはないわよね。
この場合いには、共同部隊が黒い霧に対処し始めたらエルフ第2師団本隊の戦術的後退を止めてその場に留まり壁役になってもらわなければならなくなるけど。
それに敵上軍が横に広く展開しているのであれば標的の魔族部隊の前、壁役になっている獣人上軍中央部の厚みも薄いと思うので、展開される黒い霧と共同部隊の距離もそんなに遠くはなくて、共同部隊を守るエルフ軍第2師団の壁さえ崩壊しなければそれを確実に消去できると思うのよね。。
これまでやり取りを聞いていた腐女帝様が最初の中央部後方布陣の案を再検討してはと提案してきた。
「その案だと、黒い霧が消失した後は第2師団本隊と敵上軍同士のガチンコ対決になりますな。
先ほどの標的後方側面攻撃の場合だと黒い霧の消失の後は正面対決だけでなく、後方側面から我々共同部隊も攻撃できるので、敵獣人上軍に挟撃の恐怖を感じさせることができるのではないかな。
挟撃の可能性に気付くからこそ敵上軍の混乱と敗走、その混乱に乗じての魔族部隊の殲滅が可能となると考えるが。
正面のガチンコ対決では確かに黒い霧の消失に獣人上軍の混乱はあるとは思うが、一転敗走させるまではいかないのではないかな。
その場合、敵上軍が今度は魔族部隊の壁役になって標的が中軍、或いは下軍まで撤退する余裕を与えはしまいか。
無事に撤退できれば標的も対策を練るだろうし、再戦する場合により厄介な相手になると思うが。
出来れば標的の魔族部隊は再戦不能になるほどに今回の戦闘で徹底的に叩いておきたいが。」
腐女帝様の提案に参謀さんが応えてきた。
参謀さんの話が終わって、少し沈黙の空気が流れた。
皆、今出された二つの案についてあれこれ考えているのであろう。
ややあって、次に口を開いたのは腹黒さんだった。
「まとめると今回の作戦の攻め方として次の二つが考えられると言うことですね。
まずは、敵魔族部隊の後方側面に潜んで黒い霧を消失させることでエルフ第2師団本隊と我々共同部隊との挟み撃ちがあるという恐怖感を敵に持たせ、混乱を煽る。
その混乱に乗じて、標的を殲滅する。
但し、潜んでいる共同部隊が先に発見され、包囲殲滅されるリスクがあると。
もう一つは、エルフ軍第2師団本隊の後方に布陣して、本隊を壁にして着実に黒い霧を消失。
その後は獣人軍への正面攻撃を行い、勝利する。
その場合は殲滅対象である魔族部隊に撤退する余裕を与えてしまうということですね。
う~ん、我々の共同部隊の安全を優先するか、標的の殲滅を優先するか。
いずれにせよ、どちらかを選ばねばなりませんね、連隊長。」
そう言って腹黒さんは、横で他人事のようにふるまっている真小者連隊長にいきなり話を振り向けた。
真小者連隊長は全く予期せぬフリだったので後ろに跳ね返るほど驚いていた。
辛うじて椅子からは転げ落ちなかったが、顔と唇は青ざめ、目は何処を見ているのが焦点が全くあっていなかった。
傍聴席に座っていたのにいきなり死刑宣告された直後の哀れなトカゲのシッポ切りさんという感じだ。
"どちらかを選ぶまで話が煮詰まったところで、最終的に今回の作戦を選んだ責任を押し付けるために真小者連隊長に話を振ったわね。
作戦に失敗したら連隊長の責任にするのよね。
流石たわ、腹黒副連隊長。"
おばちゃんはどっちを選ぶんだ。
やはり失敗したらおばちゃんも責任を問われるんだよな。
"まぁねぇ。
でも、作戦失敗なんて考えらんないわよ。
さっきも言ったけどね、状況がまずくなったらリュウ君の転写雷属性フィールドを目一杯展開してニャンコ上軍を丸ごと麻痺させて動けなくすればいいんだから。"
じゃぁ、こそこそしなくても良いエルフ軍第2師団中央部後方布陣、黒い霧を消した後はニャンコとエルフのガチンコ勝負作戦で行くのか。
"う~んっ、ちょっと待って。
さっきも言ったように、どちらの作戦が今後のエルフ軍の対応にプラスになるかよね。"
そうか。リスクだけでなく、その点も考慮した作戦を選ばないとな。
万が一という時には俺が雷属性魔法でニャンコ軍団と魔族部隊ごと刈り取るにしても、初めからそれを前提にするとエルフ軍の今後の対応の参考にならないもんな。
"う~んっ。"
会議室には沈黙と夏の暑い風が舞っていた。
誰もが両隊長の言葉を待っていた。
まぁ、死刑宣告された小者さんは言葉を出せる状況じゃぁないけどな。
それをわかっているのか、小者隊長と寝ているエンと火力バカ共、死んでいるか生きているかわからないゾンビさん以外は、皆、おばちゃんが決断し、それを口にするのを静かに待っていた。
沈黙が流れ、やがて、おばちゃんが立ち上がり、口を開いた。
「我々共同部隊の作戦は標的の側面後方に布陣して戦う方にしたいと思います。」
おばちゃんの決断に、その言葉を待っていた皆が頷いた。
ここまでの成果
魔力回復: 20% + 30%(ボーナス♡) + 10%(ボーナス♥)
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 16時間11分
(ついに決断したか。)
(そんな一大決心のようなものじゃないわよ。
リュウ君とエリカちゃんがほんのちょっと本気を出せば盛りのついたニャンコ軍団の殲滅なんてちょろいもんよ。(おばちゃんターン))
(とにかく暑くてやってらんないわね、ここでは。
とっととニャンコを蒲焼にして、旅団宿舎に帰りたいわぁ。(腐女帝様ターン))
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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