2話目 聞け、紙様に愛されし俺の言葉を
「リュウ、俺の講義中に居眠りだけでなく、ジェンカにセクハラたぁ、やっぱりいい度胸をしてんじゃねぇか。
その度胸を買ってやろう。
今日の肉壁はお前ひとりでやれ。」
そう言って、教官は松葉杖をドンドンと床に打ち付けて、気持ち悪いほどにや~と笑うのであった。
そして、またまた斜め後方から余計な声が。
「なぁ、俺は今日は教官から魔法を転写してもらっても良いか。
おチビちゃんたちのじゃ今一魔法のレベルが足りなくて威力が出ないんだよな。
お前もショボい魔法じゃ満足ではないだろ、このドM野郎が。」
午後の実習は攻撃魔法の訓練か。
俺一人が的になって、防御魔法で皆の攻撃魔法を受け切るのか。
やっぱり完全な肉壁じゃねぇか。
それにエンの奴は幼年魔法術士育成学校の生徒じゃなくて、教官から魔法を転写してもらうなんてことをほざいていたな。
エンだけならいいけどクラスの全員がそうしたら・・・・・・・、あぁぁぁぁ、受け切れなくてチ~ンだな。
やばいぞ。とにかく高レベルの魔法が使える教官からの転写魔法を使われるのだけは阻止しないとな。
俺たち聖戦士、とは言ってもまだ候補生だけどな。
それに道を踏み外したら肉壁へ一直線だし。
ともかく、聖戦士と肉壁は魔法が使えない。
でも、魔力だけは普通の人の何倍も持っているんだ。
高魔力保持者に無駄飯を食わせておくのはもったいない(意訳: 防御魔法が使えればなぁ、肉壁ちゃんとしてぐらいは使ってやれるのになぁ、このままだと紙様だよ)と言うことで、俺たち無駄飯ぐらいに何とか肉壁ちゃんとしての機能を付加するために、俺たちのような者にも魔法が使えるように考え出されたのが、魔道具による魔法の転写なんだよ。
体のどこかに着けた魔道具に魔法術士から魔法を転写してもらうことで、ほぉ~ら、ただやられるだけの紙様から少しは壁として役に立つ肉壁ちゃんに一気に昇格するというわけだ。
ちなみに一つの魔道具には一つの魔法しか転写できない。
肉壁は防御魔法を使えれば良いので魔道具を2~3個身に着ければ十分(意訳: どうせ直ぐに逝っちゃう肉壁ちゃんに一杯魔道具を身に着けさせるなんてもったいないじゃないですか)とされている。
これが英雄クラスの聖戦士になると頭と首,両手両足、腹巻と全身魔道具だらけという都市伝説がある・・・・らしい。まぁ、俺は肉壁候補しか見たことないから、それが本当かは知らん。
でも、本物を見たら盛大に噴き出す自信はあるぞ。
魔法を転写してもらった魔道具に肉壁ちゃんが自身の魔力を込めることでその魔法が発動するという仕組みだ。
最低限これができないと肉壁すらなれない、行き着く先は紙様だ。
紙様になるとすぐ仏様になるのは公然の秘密だ。
俺ら肉壁の穴の生徒は最低限でも肉壁ちゃんにはなれるように、できれば奇跡が起きて聖戦士として出世できるように勉強をしているんだ。
"午後の実習を乗り切れたら肉壁ちゃんに昇格ね。おめでとう。
まぁ、ここまでかもしれないけどね。
リュウが聖戦士? コーヒーに茶柱が立つみたいなものね。"
おぉ、俺が惚れてる(と言われた)ジェンカ様に褒められたせぇ。
"乗り切れなかったら、チュドッーンとなって、惜しい人を亡くしましたと心無いことを全校生徒の前で涙ながらに語ってあげるわね。"
それって、肉壁ちゃんの先にある仏様になるってことか。
"仏様なんてとんでもない、何言ってるの。
肉壁ちゃんにすらなれない役立たずの紙様は地獄の鬼さんと猛特訓よ。
みっちりしごいてもらいなさい。
あっ、特訓してもその成果を試す場所にはもう戻れないから、終わりのない特訓ね。"
ひえぇぇぇ。
この様に、んっ、どの様にだ?
俺たち肉壁の穴の生徒は将来立派な肉壁ちゃんになるべく日々努力・・・・・・、じゃなくて、颯爽と魔族を蹴散らす聖戦士となるべく聖戦士育成学校で学んでいるわけだ。
ただ、すでにお気付きかとは存じますが、肉壁ちゃん候補性だけでは肉壁にすらならない訳ですね。ただの紙様です。
そうです、立派な、完全無欠の肉壁となるためにも我々肉壁ちゃんたちに魔法を与えてくれる魔法術士(意訳: 飼い主様)が必要となるわけです、わん!!
そう言うことになりますと仕える魔法術士の魔法力(意訳: 飼い主の経済力)によって、転写されてくる魔法の威力(意訳: 餌の豪華さ、ステーキが食いてぇ、わん)が変わってくるわけですな。
当然、魔法の威力は歴戦の強者であった学校の講師(意訳: わんこ専用の餌を買ってくれる人)の方が幼年魔法術士育成学校の一生徒(意訳: 自分の食事の残り物、所謂、残飯しかくれない人)よりもはるかに強い訳ですね、わん!!
だから、午後の実技の授業でクラスメイトの転写攻撃魔法を一身で受ける肉壁ちゃんの俺としては、当然、ステーキよりも残飯が良いわけで。あっ?
(心の声: 何か解説が間違った方向に行っている気がするけど、きっと気のせいだよね。)
"リュウ君はステーキよりも冷ご飯に冷えた味噌汁を掛けたニャンコ飯の方が良いんだ。
そっかぁ、昼に食堂のおばちゃんに言っとくね。
今晩からリュウ君には冷えたニャンコ飯を与えてって。
それも食堂の外に置いておいてって。
私たちと一緒に食事するなんて頭が高すぎ。"
我が愛しのジェンカ様。
私が何かいけないことを致しましたでしょうか。
こんな僻地に飛ばされて、日々座学と訓練に明け暮れ、何を楽しみに生きてきたかと言えば、ねっ、わかるよね。
ねっ、たぁらぁ。
"えぇい、うっとおしい。心をオープンにしてゲスなすり寄り方をしてくるんじゃないわよ。"
しか~し、こんな哀れな肉壁ちゃん候補生にも神は一筋の救いの糸をたらしたのだったぁ。
ちなみに今のは紙様じゃなくて、神様の方だからね。
"また、その話なの。
言っちゃっていいの、いつもの様に逝っちゃうよ。
リュウ君は一人だけ、本当に申し訳ないけど、神様に見捨てられて、紙様に拾われたのよね。
まぁ、どうしても逝きたいのならいいけど、骨は拾わないからね。"
俺だってできれば言いたかぁねぇよ。
でも言わないと、紙様に申し訳ないから。
"紙様を信仰しているのはリュウ君だけだよ。"
ほっといてくれ。
紙様と神様は俺たち肉壁ちゃんに一つの希望を与えてくれた。
それは肉壁ちゃんは一つだけ、たった一つだけ、スキルという魔法を使える許可をもらえたことでした。
あっははははは、俺も魔法が使えるぜ。魔法術士の仲間なんだよぉ~。
"紙様に愛され、神様にも見放されたあんたのスキルを教えてあげたら。
えっと、誰に教えているの、さっきから。
まぁ、良いわ。
私、ジェンカのスキルは、もうみんな知っていると思うけど、「念話」なの。
心を開いて、私に語り掛けてくれる人の心の言葉が届くの。
なんて素敵な、私にピッタリなスキルね。"
あぁ、そうだね。魔力が全然たんなくて転写魔法をあまり使えないジェンカにぴったりの魔力消費がほとんどないスキルだね。
"うあぁぁぁぁん、、リュウの奴が私は肉壁ちゃんすらなれない紙様だって言うんだよぉぉぉぉ。"
そっかぁ、だからジャンカは俺の心を引き付けてやまないのかぁ。
紙様だから。
"うあぁぁぁぁん、お婆ちゃ~ん、リュウが付きまとうのぉぉぉ、ストーカーだぁ。
"
と、さらに今度は辞書クラスの分厚い本が3冊頭に直撃した。
いってぇぇぇ。頭が吹っ飛びそうだったぞ。
魔力はないけどバカ力だけはあんだよな、ジェンカは。
俺も立派な肉壁ちゃんになるためにも物理防御を取得しないとな。
ちなみに悪友のエンのスキルはホークアイ。
遠くまで見通せるスキルだな。
ただし、木なんかがあるとその向こうは見えないらしい、スキルレベルのせいで。
あいつも使えないやつだ。
"リュウ君のスキルを教えてやってよ。"
俺は良いんじゃないのか。
ジェンカとエンの説明でスキルについては十分に世間様は納得したはずだ。
"世間は騙せても、このジェンカの目は節穴じゃねぇぜ。"
隣で投擲用のナイフを両手で構えている愛しのジェンカ様のお姿が目の端っこに映った。
あっ、俺のスキルね。つまんないよ、ほんとに。
聞くだけ無駄だよ。
だって、紙様に愛撫されまくっている俺だよ。
"あと一秒待ってやる。早く言え。"
あっ、振りかぶったな。そんなことをすると教官に見つかって、叱られるよ。
一緒に午後は肉壁だよ。
まぁ、俺としては心の友のジャンカ紙様と一緒に逝けるのなら、我が人生に悔いなしだけどな。
あぁぁぁ、わかった、わかった。言うよ、言えばいいんでしょ。
はい、俺のスキルは魔力回復だ。
どうだ凄いだろ。これが紙様に愛された俺の姿だぁぁぁぁぁ。
ここまでの成果
魔力回復: 1%
次にスキルを発動するまでのクールタイム: 48時間03分
(クールタイムが伸びてんぞぉ、どういうこっちゃ。
あっ、冷えたニャンコ飯を食ったせいだな、こりゃ。)
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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