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19話目 懐かしい匂いの漂う空間

想定外の成り行きだったのか、パニックになって土下座体勢になっているやっぱり残念系だったかぁ連隊長に俺は声を掛けた。


「クレタ連隊長、ところで先ほど使用を促されたこの施設はトイレで良いんですよね。

男女別に分かれているし。」


これ以上パニックにならないように俺は優しく声を掛けた。

俺の問い掛けが終わるか終わらないかのタイミングで、連隊長は土下座体勢から顔を上げて俺を見た。

しかし、連隊長の顔は先ほどよりももっと驚愕に捕らわれたようになり、やがて、再び土下座体勢、しかも地面に顔をめり込ます勢いだ。


「申し訳ありませんでしたぁ。かくなる上は腹を切って、お詫びを。」


えっ、自分の腹を切っちゃうの。

俺にトイレかどうか聞かれただけで、腹切っちゃうの。

止めてほしいんだけど。

俺がいじめて、それを苦に人生最後の河を自ら渡ったなんてストリーは。

それにここで切っちゃうといけないものが飛び出て、その処理に困ってこの便所小屋の肥やしの仲間入りをさせなきゃいけなくなっちゃうよ。

いやでしょ、逝っちゃた後に体の一部でも肥溜めに入るなんて。


連隊長の過敏な反応に逆に俺が驚いたわ。


"いったい、この大きな建物は何なのかしらね、トイレ?

私たちを男女別に入れようとして、トイレだとバレたから動揺しているっていうのは何か話が変なだよね。

その上で腹を切ってお詫びするなんて言い始めて、わけがわからないわね。"


その時、止めを刺すかのように弩S腐女帝様がのたまわった。


「弩阿呆君、取り敢えずその右の男性用の肥溜め疑惑の施設を覗いて何の施設かはっきり確認しなさい。

これは命令よ。」


肥溜めにどのくらい肥やしが溜まっているか覗けってぇかぁ。

一杯だったらどうしてくれるんだ。

小屋に入れた顔に何とも言えないフンコロガシしか寄ってこないような臭いが付いてきたらどうするんだ。

その時は腐女帝様の袖で顔を拭いて良いのか、臭いを擦り付けて良いんだな。


・・・・・・なんて言えるわけがねぇだろうが、肉壁ちゃんが魔法術士様様に。


「えぇぇ、どうかそれだけはおやめください。

あれを覗くのだけは。

私の一命でお許しください。

この件は私の一存で皆さんをご案内したんです。

決っして、エルフ軍の総意ではございません。」


お代官様に必死に訴え掛ける小作人な連隊長。


「エリカさん、連隊長がこのように命を懸けるとまで言っているのですから、覗いて事実を確認しなくとも良いんじゃないかな。

この件はこれぐらいにしてあげて、早く本当の宿舎に案内してもらおうよ。」


俺の妥協案に涙を流さんばかりに頷く真に残念な連隊長。

これは小者隊長以上に残念な奴だな。

これじゃ雑用係の下請けも無理だよな。


「何を言っているの弩阿呆君。

この連隊長はそんなところに私たちを押し込もうとしたのよ。

本当に肥溜めか真実を確かめて、本当なら腹を切るなり、首をチョンするなり、君の愛人にするなりの処置が必要よねぇ。」


最後の愛人ってのはどういうことだ。


その時、おばちゃんが動いた。

流石、俺たちの隊長だ、この膠着した状況をスパッと解決するつもりだ。


「クレタ連隊長、やはりこの小屋の中を確認させていただきます。

そうしないと話が進まないようなので。

何か危険なものや極秘事項はないんですよね、私たちを案内してきたんですから。」


おばちゃんの言葉を聞いた連隊長は顔を地面に埋め込むがごとく土下座をさらに深くして、やがて、プルプル震え始めた。


窒息死を選んだのか?


「兎に角、リュウ君、中を覗いて。」


えっ、俺がかぁ。

おばちゃん自分でやって。


"誰が使ったかわからない男子用の肥溜めを彼女、近未来のお嫁さんに覗けっていうの、ポチは。

得体の知れない臭いがこびりついたらどうするの、このぴちぴちのお肌に。

リュウ君だったら平気でしょ。"


じゃぁ、一緒に覗くってのはどうだ。

弩S腐女帝様が早く覗けとイライラして、腕を組んだ右手の人差し指をトントンし始めたぞ。

あぁぁぁぁっ、目つきが鋭くなって目じりにしわがぁぁ。


"臭い夫婦かぁ。

まぁ、それも悪くないよね。

夫婦かぁ、そうだよね、夫婦だもんね。

臭い仲だもんね。"


えっ、結局は俺も覗くのか。


「それでは私とリュウ君が代表して、この中を覗きます。」


おばちゃんが堂々の臭い仲宣言だぁ。


「「「「おぉぉ~っ。」」」」 成り行きを見守っていた旅団員

「止めてくれぇぇぇ、それだけはぁぁぁぁぁぁ。涙)」 残念系連隊長

「弩阿呆だけが覗けばいいじゃねぇのか、ジェンカちゃん」凶暴幼女


じぁ、お前が覗け。

何なら、お淑やかな大男さんと座敷童帝様も一緒に覗け。


「リュウ君、取り敢えず鼻だけは摘まんで覗こうか。

それじゃぁ、その葉っぱのドアを開けてね。」


おばちゃんが意を決したように俺に命じるとともに、ばっちゃの形見の柄で俺の背中を押して、覗くことを促す。


一緒だからな、一緒に覗くんだかな、わかっているよな、おばちゃん。


"わかっているわよ、鼻をつまんだらその葉っぱのドアを開けてね。"


絶対一緒だからな。


"当然でしょ。臭い中に入って臭い仲になるんだから。

それよりも早くドアを開けてよ。"


俺は右手で鼻を摘まんで、左手で葉っぱのドアを掴んだ。


そして・・・・・・・


そのまま後ろをちびっと振り返った。


左手で鼻を掴んで顔を背けて、右手に鞘に入ったばっちゃの形見を持って目一杯伸ばして俺の背中を押すおばちゃんの姿が飛び込んできた。


「ふりゃぎりもにょぉぉぉぉ。」(意訳: 鼻を摘まんでいる状態なのだ)


俺は思わず叫んだ。

しかし、俺の叫びなど聞こえないとばかりに、おばちゃんは顔を背けて目を閉じたまま、えいっとばかりにばっちゃの形見をグイっとさらに伸ばしてきた。

後ろを振り返ったところにばっちゃの形見でおばちゃんの渾身の力で押された俺はバランスを崩してそのまま葉っぱのドアにぶつかって、止まっ・・・・・・・


らずにそのまま便所小屋仕様の肥溜めの中に。

ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ、ここで倒れたら一生臭いが取れないかもしれないブツの中にダイブだぁぁぁぁ。

俺はそれだけは避けるべく、とっさに葉っぱの扉を両手でつかんだ。

良し、日ごろの訓練のたまものだぁ。

見ろよ、この反射神経。

多少は小屋の中に体が侵入するかもしれないが、どっぷりとつかる事だけは回避したぁ。


とっ、思った瞬間がありました。

正直、助かったと思いホッとする自分がいました。

便所小屋仕様を舐めてたと言うか、信頼しすぎてました。

俺が勢いを殺すために摑まっても大丈夫なはずはないよな。

そうだよね。

所詮は葉っぱの扉。


ぶちっ


葉っぱの扉が引きちぎれ、その勢いでさらに体のバランスを崩してしまった。


あぁぁぁ、もうこのまま小屋の中にダイブだ。

もう俺に救いの手を伸ばしてくれるものはいない。

べチャっとなった瞬間、俺の人生は終わるんだ。

肥溜めに全身ダイブした男としてな。

G様以下に成り下がるんだ。

G様だったら見た目はあれだけど、臭わないもんな。


これまでの俺の短くも充実した人生が走馬灯のように頭を駆け巡る。


ソンバトの肉壁の穴の食堂で大盛りどんぶり飯を4杯おかわりした事。

教会本山の肉壁の穴の食堂で大盛りどんぶり飯を5杯おかわりした事。

旅団の官舎の食堂で大盛りどんぶり飯を6杯おかわりした事。


あぁ、みんな古き良き思い出だぁ。

食堂のおばちゃんたち、今までありがとう。

俺に最高の思い出を作ってくれて。


俺はどんぶり飯を腹一杯いっぱい食べた思い出を胸に、次に来るであろうペチャャャャャっとした感覚と鼻の奥、そして、肺の奥まで突き刺さってくる刺激臭を覚悟した。


どさっ。


んっ、固い。


えっ、べチャっじゃないの。

それにこの臭い。

確かに多少臭いが、枯草の懐かしい匂い。


俺は覚悟を決めて、目を開けた。


そこには蚕棚のような板張りにわらが敷いてある3ベッドが複数、壁の周りに設置されていた。


えっ、肥溜めにベッド。


俺が予期せぬ状況に戸惑っていると。


ズリズリと何かが這ってくる音が耳を捕らえた。


音の方を見ると、頭を地面に擦り付けて土下座体勢のまま残念系連隊長が壊れた葉っぱのドアの入り口から浸透してくるところだった。


「申し訳けございません。

撤退続きで、まともな宿舎がご用意できず、大事な人類軍の御援軍御一行様様にこのような蚕棚のような草木作りの宿舎しかご用意できませんでしたぁ。

何卒、何卒、平にご容赦をぉぉぉぉぉ。

ここは私の首一つでお許し願いませんでしょうかぁぁぁぁ。」


あっ、俺たちが滞在する宿舎だったんだここは。


ここまでの成果

魔力回復: 15% + 20%(ボーナス♡) + 35%(ボーナス♥)

次にスキルを発動するまでのクールタイム: 17時間49分

(おばちゃんの裏切ものぉぉぉ、これからは小遣いはアンパン3個ね。

絶対だからね。)

(まぁまぁ、そう拗ねないで。肥溜めに落ちなくて良かったじゃない。(おばちゃんターン))

(こんな狭い中で男たちが何人も寝泊まり・・・・・、良いじゃない、良いじゃない。夜中覗きに来なきゃ♥。(腐女帝様ターン))


活動報告に次回のタイトルを記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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よろしくお願い致します。


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